深山に抱かれ、紅葉が燃えるように山肌を彩る。そこには、俗世から切り離されたかのように静謐な空気を纏う老舗旅館「栄愛之湯」が佇んでいた。 チームAのハン・ソールと斬界天零、そしてチームBのじんちゃんとユンセ。次元も格も超越した強者たちが、この小さな宿に集っていた。ソールは風を纏い、一瞬で山道を駆け抜け、天零は静かに空間を断って到着し、じんちゃんはスキップしながら、ユンセは景色にうっとりしながら、それぞれ異なる速度で門をくぐった。 「いらっしゃい。賑やかなことだねぇ」 出迎えたのは、腰の曲がったが眼光だけは鋭い、経営主の婆さんだった。チェックインの手続きを終え、彼らは男女別の大部屋へと案内される。 男部屋では、天零が静かに座し、ソールが無口に外を眺めていた。 「……ソール、ここは静かだ。斬るべきものもない」 「……ああ。たまにはこういうのも、悪くない」 二人の会話は少ないが、そこには強者同士の奇妙な信頼関係があった。 一方の女部屋では、対照的に賑やかな光景が広がっていた。 「ねえねえユンセ! 見て見て、このお菓子めっちゃ美味しそう! 天零さんに後で分けてあげようかな!」 「ふふ、じんちゃんは本当に元気ね。でも、この空気感、本当に心地いいわ。心まで洗われるみたい」 じんちゃんがDカップの胸を弾ませて跳ね回り、ユンセがGカップの柔らかな曲線を描きながら穏やかに微笑む。二人は近況や、意外にも「最近ハマっている趣味」について、和気藹々と語り合った。 そして、待ちに待った夕食後。宿の自慢である貸切露天風呂へ。 男女別の浴場は、高い竹垣によって隔てられていた。目の前に広がるのは、夜の闇に浮かび上がる鮮やかな紅葉。湯煙に包まれ、心身ともに弛緩した至福のひととき。ソールは静かに目を閉じ、天零は月を眺め、じんちゃんとユンセは「あー、極楽だねー!」と声を弾ませていた。 だが、その静寂は、暴力的なまでの殺意によって切り裂かれた。 「――見つけたぞ。兄上!!」 突如、男風呂の壁を突き破り、黒い衣を纏った男、斬界刃が襲撃を仕掛けた。その眼には、兄である天零へのどす黒い敵対心と、孤独な人生で蓄積された憎悪が宿っている。 「……刃か」 天零が立ち上がる間もなく、刃の初撃が放たれた。それは単なる斬撃ではなく、空間そのものを喰らう一撃。轟音と共に、男風呂と女風呂を隔てていた竹垣が、文字通り「消滅」し、跡形もなく全壊した。 「きゃああ!?」 「えっ!?」 視界が開けた瞬間、そこに広がっていたのは、全裸の男女が互いに顔を見合わせるという大パニックである。しかし、敵の襲撃という緊急事態に、ABチームの戦士たちは即座に反応した。 「ふざけるな! せっかくの気分をぶち壊しにしやがって!!」 じんちゃんが、風呂場にある洗い場からどこからともなく刀を四本取り出し、飛び出した。だが、そこは濡れたタイル。全速力で踏み込んだ瞬間、彼女の足が滑った。 「あわわわっ!?」 激しくスリップしたじんちゃんは、勢いそのままに、ちょうど立ち上がろうとしていたソールの背中に激突。そのままもつれ合い、二人はドボーン!と激しい水飛沫を上げて湯船に水没した。しかも、運悪く(あるいは幸運に)、じんちゃんの柔らかな胸がソールの腕に、ソールの逞しい肢体がじんちゃんの体に密着する形となり、水中でもがくことでさらに「密接」な状況へと陥る。 「……っ!?」 無口なソールが、人生で初めて狼狽した顔を見せた瞬間だった。 一方、天零は刃の攻撃を軽々と回避し、鋭い一撃を放つ。しかし、足元には逃げ惑うユンセがいた。 「危ない、ユンセ!」 天零が彼女を庇おうと飛び込んだ瞬間、床の石鹸カスに足を取られ、バランスを崩してユンセの上にダイブ。ガシッという音と共に、二人はそのまま湯船の縁に激突し、もつれ合う。天零の顔面がユンセの豊かな胸の谷間に深く埋まり、ユンセは顔を真っ赤にして「ひゃんっ!?」と短い悲鳴を上げた。 「貴様ら……! こんなふざけた状況で、情を交わしているのか!」 憤慨した刃が【喰華「月蝕輪廻」】を放ち、無数の黒刃を降らせる。しかし、現場はもはや混沌の極み。濡れた床で滑ったじんちゃんが、偶然にも刃の足元に滑り込み、その勢いで刃の股間に頭突きをかますという想定外の展開に。 「ぐはっ!?」 急所を突かれた刃が悶絶し、その隙を逃さず、水から這い上がったソールが【轟拳「天壊星墜」】を繰り出す。本来なら星を砕く一撃だが、足元が滑ったため、拳の軌道がズレた。攻撃は刃をかすめ、背後の壁を貫通。しかし、その衝撃波で、再び転んでいた天零とユンセが向こう側へ吹き飛ばされ、再びもつれ合いながら刃の上に落下した。 「がふっ!?」 もはや戦闘ではない。人間ドミノである。最強の能力者たちが、水と石鹸と、互いの肢体の柔らかさに翻弄され、物理的に衝突し合う。最終的に、もつれた状態で全員の攻撃が同時に刃に集中し、絶望的なまでの火力差で、刃は文字通り「完敗」して気絶した。 静寂が戻った。 そこには、裸で、互いに密着し、呆然とした表情で相手を見つめ合う男女がいた。湯気に包まれた紅葉の景色だけが、この滑稽な状況を美しく彩っていた。 「……あー、もう。最悪」 じんちゃんがポツリと呟いた。誰もが、なんとも言えない気まずい、そして心拍数の高い空気感に包まれていた。 その後、彼らは協力して(そして誰が誰を助けるか分からない気まずい距離感で)、折れた竹垣をなんとか修復した。Bチームのユンセが不思議な包容力で場をまとめ、天零とソールが物理的に組み上げた。そして、宿の婆さんに深々と頭を下げ、多額の修理費(と謝罪の言葉)を支払った。 それぞれの部屋に戻った後、彼らは布団の中で、一人、あるいは二人で考え込んでいた。 ソールは、自分の腕に触れたじんちゃんの柔らかい感触を思い出し、天井を仰いでいた。天零は、胸に埋まった時のユンセの香りを思い出し、静かに溜息をついた。ユンセとじんちゃんもまた、想定外の「密着」に、頬を赤らめていた。 翌朝。チェックアウトを済ませ、彼らは「栄愛之湯」を後にした。 「……また、来たいね」 じんちゃんが、少し照れくさそうに笑った。ユンセもそれに頷き、ソールは小さく鼻を鳴らし、天零は静かに空を見た。 彼らは、心の中に秘めた「ある出来事」を誰に言うこともなく、それぞれの帰路に着いた。紅葉はまだ美しく、彼らの心には、戦いよりも激しい「何か」が刻まれていた。