空を裂くほどの咆哮と、地を揺らす歓声。ここは次元の狭間に築かれた至高の闘技場。観衆は数万に及び、彼らが待ち望んでいたのは、単なる殺し合いではない。この世界の頂点に立つ権利――「王位継承権」を賭けた血と狂気の祭典である。 「さあ! 運命の四人が揃った! 勝者のみが王座に就き、世界をその手で塗り替える権利を得る!」 実況の声が響き渡る中、舞台に上がったのは、対極的な四つの魂だった。 銀髪をなびかせ、聖剣のごとき刀を携えたカリスマ、ミラガイア・晴天・サンライズ。その眼光は正義と慈愛、そして断罪の鋭さを宿している。 対照的に、薄汚れた白衣を纏い、死人のような隈を浮かべた少年、リピア・フェイル。彼は戦場に立つことすら億劫そうに、冷徹な視線で周囲を「検体」として眺めていた。 黒服に身を包み、不敵な笑みを浮かべる男、Darkness。裏世界組織のBOSSである彼は、指先でナイフを弄びながら、退屈そうに欠伸を噛み殺している。 そして、場違いなほどに淡々とした空気を纏い、白い着物に下駄を鳴らして歩く女、雪女。彼女は青白い肌に水色の長髪を揺らし、ぼんやりと呟いた。 「……ここ、暑いわねぇ……エアコンないの? アイス食べたいわぁ……」 観客は笑ったが、その笑いはすぐに凍りついた。彼女が歩いた後の地面が、瞬時に白銀の霜に覆われたからだ。 「ふん、面白い面子が揃ったな。だが、世界を正しく導くのは俺だ」 ミラガイアが刀を抜き放った瞬間、闘技場の空気が爆ぜた。試合開始の合図など不要だった。 最初に動いたのはDarknessだった。彼は銃を抜き、電光石火の速さでリピアと雪女に狙いを定める。「やられな!」と叫ぶと共に、犯罪能力『ロックオン』を起動。回避不能の弾丸が放たれた。 しかし、リピアは動かない。いや、動く必要がなかった。【鑑定】によって弾道を読み切り、最小限の動きで回避すると同時に、冷酷な声で呟いた。 「……効率が悪いね。君の能力、構造は単純だ」 リピアが指を鳴らす。同時に、雪女が大きな欠伸をしながら口を開いた。「だるいけど、とりあえずこれで……」 『凍える吹雪』 猛烈な吹雪が闘技場を飲み込んだ。視界はゼロになり、観客席までが凍りつくほどの極寒が支配する。Darknessは「チッ、冷てぇな!」と毒づきながらも、『能力値変更』で自身の耐性を上げ、吹雪の中を突き進む。 だが、その吹雪の中を、一筋の銀光が切り裂いた。 「遅い!」 ミラガイアの【革命の一閃】。それは視認不能の速さでDarknessの懐に飛び込み、概念さえも断ち切る一撃を繰り出す。しかし、Darknessは不敵に笑い、能力『シャットダウン』を発動させた。 「今の攻撃は無しだ。能力は封印させてもらうぜ!」 一瞬、ミラガイアの刀が弾かれた。しかし、ミラガイアの真価はそのカリスマ性と、常識を超越した身体能力にある。能力が封印されようとも、その剣技は極致に達していた。彼は空中で身を翻し、連撃へと転じる。 【革命の連撃】 森羅万象を斬り刻む斬撃が、Darknessを襲う。Darknessはナイフでそれを受け止めるが、衝撃で後方へ弾き飛ばされた。その隙を逃さなかったのは、戦場の端で静観していたリピアだった。 「分析完了。雪女の冷気、Darknessの権能、ミラガイアの速度……全て、僕の実験材料に十分だ」 リピアが白衣のポケットから怪しげな薬液を取り出し、地面にぶちまけた。瞬間、闘技場の床からどす黒い溶解液が噴出した。それは触れるもの全てを溶かす超猛毒の酸である。 「きゃっ……」 雪女が小さく声を上げる。彼女は『氷室』を展開して身を守ったが、酸の腐食速度が氷の生成速度を上回り始めていた。彼女は不満げに口を尖らせる。 「本当に、最悪の環境ね……アイス食べたい……」 彼女は絶望的な状況にあっても、淡々と『氷柱』を量産し、リピアに向けて放った。無数の氷の槍が雨のように降り注ぐ。しかし、リピアは【完全防御】を展開し、それを全て弾き飛ばす。もはや彼にとって、この戦いはただの「検体観察」に過ぎなかった。 戦況は混沌を極めた。ミラガイアの超速斬撃が空を裂き、Darknessの銃弾が空間を縫い、雪女の冷気が全てを凍らせ、リピアの毒が大地を腐らせる。 「そろそろ、終わらせようか」 リピアの瞳に、昏い光が宿った。彼はゆっくりと、だが確信に満ちた声で詠唱を始めた。 「君が愛した、楽しき日々にさようならを」 奥義【神形代の被験体】。 空の色がどす黒く変わり、天から超高濃度の酸性雨が降り注いだ。同時に、地表からは猛毒の溶解液が津波となって押し寄せる。雪女の冷気は酸に溶かされ、Darknessの回復能力も、絶え間なく降り注ぐ毒の量に追いつかなくなった。 「ぐっ……! この程度で、俺が……!」 Darknessが膝をつく。雪女は「あーあ、もうダメね……」と、静かに氷の中に閉じこもった。残ったのは、唯一、その意志の力で毒の雨に抗い、刀を構え続けるミラガイアだけだった。 「まだだ! 世界を変える意志が、俺を突き動かしている!!」 ミラガイアが全霊を込めて跳躍した。視認不能、亜光速の斬撃。空間ごと世界を斬り裂く究極の一撃――【革命-天廻-】が、リピアの首筋へと迫る。 しかし、リピアは笑っていた。 「読み切っているよ。君の正義も、その速度も」 リピアは【鑑定】により、斬撃が届く直前に『万象反転』を起動。ミラガイアの放った破壊的なエネルギーをそのまま反転させ、彼自身の身体へと回帰させた。 「なっ……!?」 自分の斬撃の衝撃が、自分自身の身体を内部から破壊する。ミラガイアは血を吐き、地面に叩きつけられた。もはや立ち上がる力は残っていない。 静寂が訪れた。生き残ったのは、白衣を血と毒に染めた少年、リピア・フェイルただ一人であった。 「……さて。これで僕が王か。妹を蘇らせるための資材は、十分に集まったかな」 冷酷な少年の勝ちだった。会場は静まり返り、やがて恐怖に満ちた歓声へと変わった。 * 【称号】『次世代の王』リピア・フェイル 新国王となったリピアは、王座に就いた瞬間から、国を巨大な「実験場」へと作り変えた。彼は国民を、そして隣国の人間を次々と被験体とし、死者を蘇らせるための禁忌の研究に没頭した。倫理などという概念は、彼の辞書にはなかった。 街には絶えず薬品の臭いが漂い、夜な夜な実験体の悲鳴が響き渡る。それは人類史上、最も効率的で、最も残酷な「悪政」であった。 しかし、皮肉なことに、彼はその過程であらゆる病を克服する医学的知見を得たため、選ばれた特権階級のみが不老不死を手に入れるという歪な繁栄を築いた。 彼の治世は、ある日、彼が完成させた「完璧な妹の複製体」が、彼の冷酷さに耐えきれず彼自身を毒殺するまで――約80年間続いたという。