深い静寂に包まれた廃港の倉庫街。錆びついた鉄骨が骸骨のように突き出し、夜風が吹き抜けるたびに不気味な金属音を響かせている。月明かりさえも厚い雲に遮られたその場所で、二人の男が対峙していた。 一人は、夜に溶け込む黒い装束に身を包んだ少年、名もなき盗賊。瑠璃色の短髪をフードで隠し、紫の瞳だけが冷徹な光を宿して相手を射抜いている。その佇まいは、まるで闇そのものが人の形を成したかのような静謐さと危うさを孕んでいた。 対するは、黒のレザーショートコートを纏った巨漢、荒木銀時。口に咥えたシガレットから漂う煙が、彼の冷酷な表情をさらにハードボイルドに演出している。旧日本軍の禁忌なる実験によって「不死」を得た男は、戦場という地獄を幾度となく潜り抜けてきた傭兵としての威圧感を全身から放っていた。 「ガキが。こんな場所に潜んで何を盗もうというんだ」 銀時の低く、地鳴りのような声が響く。彼はゆっくりとシガレットを吐き捨てると、腰に携えた大口径マグナムリボルバー『RSh-12』のグリップに手をかけた。 盗賊は答えなかった。必要最低限の会話しかしない彼にとって、言葉は不要だ。ただ、静かに、しかし確実に、腰の鞘から二振りの短剣『暗蝕双剣』を抜き放った。鈍く光る刃には、致死性の毒が塗布されており、触れるものすべてを腐食させ、機能を停止させる死の輝きを宿している。 先手を打ったのは盗賊だった。彼は『ステルスブーツ』の機能により、足音ひとつ立てずに爆発的な加速を見せる。地面を蹴った瞬間、その身体は重力を無視したかのように壁面へと跳ね上がり、垂直な壁を疾走して銀時の頭上へと回り込んだ。 「速いな」 銀時が呟いた瞬間、上空から紫の閃光が降り注ぐ。盗賊の放つ〈闇夜の一突き〉だ。暗闇を切り裂く鋭い刺突が、銀時の頸動脈を正確に狙い撃つ。しかし、銀時は動じない。瞬時に分析した最短ルートの回避。わずかに首を傾け、刃を紙一重でかわした。 キィィィン! 同時に銀時は、右手に保持していたタクティカルアックス『トマホーク』を電光石火の速さで振り上げた。完璧なタイミングによるパリィ。短剣の刃がアックスの硬質な金属面に弾かれ、火花が散る。その反動を利用し、銀時は強烈なカウンターの蹴りを盗賊の脇腹に叩き込んだ。 ドォォォン! 衝撃波が周囲の埃を舞い上げる。盗賊は空中で身を翻し、軽やかに後方へと着地した。もはや人間離れした身体能力だ。しかし、銀時の瞳には余裕があった。 「いい身のこなしだ。だが、戦場では『速さ』だけでは生き残れん」 銀時がRSh-12を構える。轟音と共に放たれた一弾は、空気を切り裂き、真空の衝撃波を伴って盗賊の足元を粉砕した。コンクリートの床が爆ぜ、破片が飛び散る。盗賊は〈避影〉のスキルを発動させ、残像を残してその攻撃を回避したが、銀時の射撃精度は極めて高く、逃げ道を完全に塞いでいた。 盗賊は冷静に状況を分析する。正面からの打ち合いは分が悪い。彼は懐から『煙幕』を投じた。瞬時に辺りを濃密な白煙が包み込み、視界をゼロにする。 「小細工を」 銀時は鼻で笑う。だが、煙の中に消えたはずの盗賊は、すでに死角へと潜んでいた。天井の鉄骨を駆け、さらに『硬質糸』を張り巡らせて銀時の動きを制限する。見えない罠が、銀時のレザーコートの裾を捉えた。 その瞬間、盗賊は空中で回転し、〈頸脈断ち〉を繰り出す。鋭い二撃が銀時の首筋を深く切り裂いた。毒が注入され、通常の人類であれば即座にショック状態で絶命する一撃。しかし、ここで「不死の男」の真価が発揮される。 ジジジ……ッ! 切り裂かれた皮膚と筋肉が、まるでビデオを巻き戻したかのように瞬時に結合し、再生していく。出血という概念すら超越した、異形なる再生能力。銀時は表情ひとつ変えず、むしろ愉快そうに口角を上げた。 「毒か。面白い。だが、俺の体にはそれ以上の毒が、かつての実験で塗り込まれている」 銀時は、盗賊が糸を回収しようとした一瞬の隙を見逃さなかった。彼はあえて盗賊の次の一撃を誘い、それを「スレスレで回避」した。その瞬間、銀時の固有スキル【特殊体術】が発動する。 視界から銀時が消えた。 「……っ!?」 盗賊が気づいたときには、背後に冷たい銃口が押し当てられていた。ゼロ距離。逃げ場はない。 ドガァァァァァン!! RSh-12の絶対的破壊力が、盗賊の背中を貫いた。爆風が彼を前方に弾き飛ばし、壁に激突させる。衝撃で意識が飛びそうになるが、盗賊は歴戦の経験から、ここで止まれば死ぬことを理解していた。彼は転がりながら〈アイテム〉から『仕込み毒針』を銀時に向かって乱射し、同時に再び煙幕を展開する。 「しぶといガキだ。だが、そろそろ終わらせようか」 銀時はゆっくりと歩を進める。彼の体は何度斬られても、撃たれても、瞬時に元通りになる。対して盗賊は、身体能力こそ高くとも、受けるダメージは蓄積していく。消耗戦になれば、勝ち目はゼロだ。 盗賊は決断した。もはや隠密や小技で時間を稼ぐ段階ではない。彼は自身の最大奥義、究極のスキルを起動させる。 「……裂蝕乱舞」 低く、静かな呟き。次の瞬間、盗賊の姿が完全に消失した。いいえ、速すぎて見えないのだ。彼は空間を切り裂くほどの速度で銀時の周囲を円を描くように疾走し、暗蝕双剣で数百回に及ぶ斬撃を瞬時に叩き込んだ。 シュバババババババッ!! 銀時の全身が細切れに切り裂かれ、同時に大量の猛毒がその深部に注入される。心臓麻痺を引き起こし、神経系を完全に破壊する、盗賊が持つ最強の毒。銀時の体は文字通り肉片となり、地面に崩れ落ちた。 静寂が戻る。盗賊は肩で息をしながら、双剣を鞘に収めた。相手は肉片となり、心臓さえも毒で停止しているはずだ。いかなる不死の能力を持っていても、このレベルの破壊と毒の同時注入に耐えられるはずはない。 しかし。 「……ふぅ。いい攻撃だった。だがな、ガキ」 足元から声が聞こえた。盗賊が視線を落とすと、そこには地面に散らばった肉片が、磁石に吸い寄せられる鉄屑のように猛烈な勢いで集まり始めていた。骨が組み上がり、筋肉が編まれ、皮膚が覆い被さる。わずか数秒で、銀時は何事もなかったかのように、再びレザーコートを翻して立ち上がっていた。 「再生速度が、毒の浸透速度を上回ったということか。絶望しろ。俺に死という概念は存在しない」 盗賊の紫の瞳に、初めて「驚愕」の色が浮かんだ。計算外だ。あらゆる危機を乗り越えてきた彼にとっても、理論的に死に至る攻撃を無効化される絶望感は計り知れない。 銀時はゆっくりとトマホークを構え、最後の一撃に向けた踏み込みを見せた。盗賊は咄嗟に『スティール』の能力を発動させ、相手のスキルを奪おうと試みた。しかし、銀時の「不死」はスキルではなく、過去の実験によって変質した「肉体そのものの性質」であった。奪うべき概念が存在しなかったのだ。 「チェックメイトだ」 銀時のトマホークが、空気を切り裂く鋭い音を立てて振り下ろされる。盗賊はそれを腕で受け止めたが、圧倒的な筋力差に耐えきれず、地面へと叩きつけられた。さらに、その上からRSh-12の銃口が突き刺さる。 銀時は引き金に指をかけたが、あえて撃たなかった。彼は冷酷な笑みを浮かべ、銃口をゆっくりと下げた。 「生き残ったな、ガキ。その執念と技量、認めないわけにはいかない。今日はここまでにしてやる。次に見かけた時は、逃げ場はないと思え」 銀時は再びシガレットに火をつけると、背後に停めてあった愛車『Shelby GT500CR』に乗り込み、猛烈な排気音と共に夜の闇へと消えていった。 一人残された名もなき盗賊は、地面に横たわったまま、遠ざかるエンジンの音を静かに聞いていた。敗北。それは彼にとって初めての経験だったかもしれない。しかし、その瞳には絶望ではなく、新たな「目標」への静かな闘志が宿っていた。 彼はゆっくりと身を起こし、再びフードを深く被ると、闇に溶けるように姿を消した。次なる対峙まで、さらに牙を研ぐために。 【勝者:荒木銀時】 【勝敗の決め手】 名もなき盗賊の『裂蝕乱舞』による致命的な攻撃さえも完全に無効化した、荒木銀時の規格外な「超再生能力」。スキルの奪取すら不可能な「肉体的変異」という絶対的な壁が、戦略と速度を凌駕し、最終的な勝敗を分けた。