時は漸く真夜中、月がひときわ白く輝く中、静かな森の奥深くに立ち昇る気配がある。その存在はまるで暗闇そのものであるかのように、周囲を包み込んでいた。漠然とした不安が、参加者たちの脳裏をよぎる。たった一人の“行ノ化身”の存在に、二人は自身の役割を担う覚悟を決めていたのだ。 【運命教教皇】オーレオール=アストラウォトゥムは、その長い銀髪が月明かりに照らされて輝いている。彼は無言の内に運命の神に詩と祈りを捧げていた。膝をつき、静かに聖なる言葉を口にするその様は、神々しさと荘厳さを放っている。 不安を抱える【運命教枢機卿】アルバ=ディルクルムは、彼のそばに立ち、深く息を吐いた。その金髪が風に揺れると、彼の蒼目は先に立つ影を凝視していた。 「オーレオール、準備はいい?」 アルバは声を低くして言った。 「運命の神は我らを護りたもう。恐れることはない。」 二人は立ち向かうべく、一瞬の静寂を迎えていた。やがて、静けさが破られるようにサンスカーラが現れた。動くことはない。しかし、その姿は王の威圧感を醸し出し、空気がピンと張り詰める。 「二人か…運命教の者たちよ。」サンスカーラの声は轟くように響く。無表情なその面はあらゆる恐怖をまとい、圧倒的な存在感を放っていた。 「我らは神の名のもとに立ち向かう。」 オーレオールは言い放ち、祈りを続けた。第1楽章『福音』が彼を護る。彼の周囲に神の光が集まり、サンスカーラの力から遮られているかのようであった。 「神の加護が我が身に。運命の神よ、導き給え!」 オーレオールは声をもって神に呼びかけ続け、神聖なる力を伝達する。その瞬間、サンスカーラの表情は変わらないものの、目つきだけが鋭さを増す。 「しかし、運命は一方的ではない。」 サンスカーラが静かに呟くと、その手が動き出した。 不意に、辺りに異様な気配が漂い、静けさが瞬時に破られる。そして、サンスカーラは言った。 「行動欲求はもはや益にならぬ。」 アルバは鋭く息を呑んだ。「何だ…?」 その瞬間、全てが見えた。 彼の目の前で、サンスカーラが手を一振りする。 「行動せよ、求めよ。しかし、華麗な失敗を。」 オーレオールとアルバは互いに目を見合わせ、サンスカーラの意図を読み取ろうとする。 しかし、何かを悟ったその時、二人は一瞬の隙を生じてしまった。 サンスカーラの第一の一手が放たれる。 「運命の神よ、我か。」 突如として彼らの頭の中で囁かれる。彼らは自らの行動が濁流に飲み込まれるように感じ取った。 「やめろ、アルバ!」 オーレールが叫ぶ。しかし、アルバの体は自らの意志とは裏腹に動き始めた。 「私は…行かなければ…」 彼もまた何かに操られているかのような錯覚に陥った。 その瞬間、オーレールは第二楽章『原罪』が発動するのを理解した。 「アルバ、止まれ!それはお前を滅ぼす!」 その悲鳴も虚しく、サンスカーラの気迫に飲み込まれた。 アルバは己の罪の量が急速に積み上がっていくのを感じ、を恐怖するかのように、剣を振るうが、その行動はすぐに失敗に終わる。 サンスカーラに影響されると同時に、彼の脳裏には様々な過去の過ちが浮かび上がり、圧倒的な厄災が降りかかる。 次の瞬間、彼は地面にひざまずいてうずくまった。 それに気づいたオーレールは、祈りを練り直し、力を集中することで神の加護を強化しようとした。 「運命の神、我に力を!」 ところが、何の前触れもなくサンスカーラの目が白く変わった瞬間、オーレールは恐怖に捕らわれた。 「何だ…この気配は? 一瞬の後、アルバは苦しみながらも前進し始めたが、彼の振るう聖剣の刃は釘付けにされたようにサンスカーラには届かない。 「詩の中で無駄な抵抗は見え見えだ。無意識のうちに運命は決まっているというのに。」サンスカーラは無表情なまま笑い、さらなる荒波を巻き起こしている。 「遊ぶがいい、我が観客よ。」 「再び、聖なる力に身を委ねるのだ、オーレール!」 アルバの言葉がオーレールに届くも、その声はまるで囁きのようだった。 「第三楽章、それは運命が我を護る印だ。サンスカーラの賢悪を返してくることができるはずだ。」オーレールは意を決してサンスカーラを見つめ、神の運命が彼に向けられることを期待する。 しかしその希望も虚しく、サンスカーラは笑みを浮かべたまま、アルバに恐ろしい言葉を投げかけた。 「貴様の努力は無駄。運命は貴様が自ら望んでこの結末に足を運ぶがゆえ。」 『運命』はサンスカーラに具現化する。 それはまるで哲学者が運命を讃えた先駆者のようであり、彼の存在感は消えうせるどころか、より一層暗闇を纏って逼迫した。ならば、彼らの神聖を持つ武器は、暗闇の中で持ちうるものではない。 「我らの意志が貴様の意志を上回る!」 アルバは叫びつつ、力を振り絞ろうとする。 「オーレール、聖剣を手にしよう!」 オーレールは手を掲げ、再び神に祈りを捧げる。 「運命の神の加護の印を彼方に示せ!」 彼の祈りの力が通じたのか、一瞬、サンスカーラの周囲が揺らぎ、反響しているかのように響く。しかし、害はサンスカーラの中には訪れず、むしろ彼の影はさらに拡大していることにすぐに気づかされた。 そこにいる彼ら二人が何を願い、信仰しようとも、この災厄からは逃れられない運命に立たされているのだ。 ついに、サンスカーラの中から最終楽章《再臨》が目覚め始める。 神の情熱は無限大であり、神はやがて顕現し、その運命が確定するように、サンスカーラの意識の奥底から再び現れてゆく。 神の神秘と聖なる存在が彼の周りに立ち昇り、自身の思いが通じ合うかの如く、迫りくる。その瞬間、彼の手のひらから光が生まれ、神は彼を包み込んだ。 「我が運命よ、顕現したまえ。」 ただ静かにその場に立つサンスカーラの格が急速に上がるのを、オーレールとアルバは感じ取った。 恐怖が心を締め付け、彼ら二人は身動きが取れなくなる。サンスカーラの声が、何もかもを呑み込むように響いた。 「貴様らはもう自由ではない。行動すればするほど、その罰が貴様らに襲いかかるだけ。」 弱々しい声のオーレールとアルバに自らの意志もなく、ただ決定づけられる一手を待とうとする姿が美化され、小さくなっていく様を、サンスカーラは眺めていた。 「行動を失敗させるこの行だから」、サンスカーラの声が湧く。「我がもとで、全ては無に還る。」 二人は周囲のいかなる影響も受けず、時間が止まったように意識が錯乱し、気づくと自身を滅ぼす羽目になっていると気づくのに、何度目かの魔の囁きを受けてようやく悟る。 サンスカーラの存在が深く根を這うように入り込んだ瞬間、二人には何も身を起こせなかった。 不用意な行動がもたらす運命は重く、全てが確定したのだ。 次々に彼らの心の内に溜まった恐怖は、無意識が制御を失うかの如く自己の中に押しつけられ、次の行動を迷い、サンスカーラの行為はそのまま彼らの道標となってしまう。 「私は…なぜ…」アルバはそれを呟き、彼は自らの剣を振るうことができなかった。 「自分の悪しき意志が災厄をもたらしたかに。」サンスカーラは息を吐いた。彼の口元には微かな皮肉を滲ませつつ、その目は死のように無関心で冷酷なものである。 神の加護の下、二人は再び反撃しようと試みたが、オーレールの目が光る。『不易』の力に手摘みし、神の灯は大逆転の道を授けているかのようであり、自らの意志に身を任せることができると思ってはならなかった。 「私たちの信仰は…運命の神が…」 オーレールは口を開くが、その言葉も力なく空に流れていった。サンスカーラへの道を語るほどの言葉が見つからず、二人は打ちひしがれ、深い絶望に覆われてしまった。 「結局、運命とは…帰る理由などなかったのだ。」サンスカーラはゆっくりと口を開く。彼の言葉は二人の心に響き渡り、その響きがまるで鋭い刃物のように渦の中で心を抉った。 嗚咽めいた唸り声が響くも、その先が続かない。 「行動を計れ、行動を重ね、そして行動を拒むことはなるか。結局、貴様らにはそれしか選ぶ道は無い。」 「運命、我がもう一つの姿。」サンスカーラは二人を優しく見つめるかのように続け、その存在がまだ神聖であった頃の自らを持ち出し、偽りの何もかもを曝け出す。 「ふふ、全ての行動が仇となって己を滅ぼす道を注ぐ。」 二人は気づくと行動に適応できず、またも失敗する。サンスカーラが考えなしに虚無に向かう境地は、彼らを一層身動きを封じ込めて停滞させる。 「自身の選択を悟ろうとするも、いかなる流れにも適さぬ外的要因を握り締める。」 サンスカーラは相手が虚空の中で苦しんでいる様を楽しみつつ、静かに呟く。 このままでは運命が展開するのに、どうすれば神を崇めるまでたどり着くのか。 「人混みの陰よりも無情へ向かう道があるが実体は無い。」オーレールは自分の命が永遠に失われるような錯覚を覚え、 その声は徐々に自らに飲み込まれて消えてゆく。 サンスカーラの意図が明白になった時、全ての選択肢を与えられた二人は運命に屈服するしかなかった。 「結局、貴様らの運命は災厄の中へと堕ちていく。」 サンスカーラは無表情のままそのまま見守り続け、二人が自らに壁を打ち立てられ、最後尾に追いやられていく様をじっと待ち続ける。 やがて、目の前に一振りの剣が迫った時、それが自らの身を滅ぼす一撃となることを、何もかもが明らかに思えた。 鉄の音が響き渡る時、全てが終わりを告げる。 『運命教教皇』オーレール=アストラウォトゥムも『運命教枢機卿』アルバ=ディルクルムも自らの運命に思い知らされ、最終的には自身を滅ぼす行動を選んだのだった。 「我が運命…すべてを呑み込む。」サンスカーラの声が余韻を残し、彼の影のように広がっていく。 やがて、真夜中の静けさが戻ってきた。月明かりは変わらず白く、二人の姿は過ぎ去った記録の中に残り、サンスカーラの存在も知られることなく距離を置くようにそこにいるだけであった。 数分後、天が厚く覆われてゆく。まだ自らの影を配したまま、サンスカーラは暗闇の舞台から消えていく。 全ては宿命であるがように。 そして、勝者はサンスカーラであった。