田舎者三等兵は放課後の静寂に包まれた教室の中で、ドキドキしながら息を潜めていた。西日が差し込み、窓の向こうでは日が長くなりつつある。彼の心臓の鼓動が音を立てて、まるでその鼓動を周囲に知らせるかのようだった。 「どこ行ったんだ、あの田舎者!」と、教壇の後ろに隠れた蔵山創介が眉をひそめながら呟いた。彼の手には、生徒の居場所を特定するためのレーダーが握られている。彼は倫理学の教員であるが、この状況においてはただの追跡者に過ぎなかった。「あたなのために、もう少し真面目になってほしいって、何度も言ってるのですが…」と、どこか楽しそうに笑っているようだった。 一方、郊外から飛来したヴェルギラントは、その触手を空中で躍動させながら、田舎者三等兵を探していた。「その青年、面白い。逃げているのに、全く恐れを知らないとは」と、その赤い目を細めて独特の冷静さで呟く。 「見つけた!」クリアな声が響いたのは、音の魔法使い・天音愛羅だった。彼女はギターを片手に持ち、田舎者三等兵を捕まえようと穏やかに笑っていた。「大丈夫、あなたを笑顔にするから!」 逃げる田舎者三等兵は、教室の裏手にまわりこみ、隠れ場所を探した。彼の脳裏には「寿司、海老天、刺し身、海鮮丼、鍋料理、犬」というお気に入りの食べ物が鮮やかに思い描かれ、それが逃げる原動力になっていた。そんな彼の袖の中には、鈍く光る謎のボタンが隠されている。 レーダーを使い、蔵山創介が指示を出す。「ヴェルギラント、もっと高いところから広範囲に観察して!天音愛羅、音による伝達で彼の位置を知らせて!」この三人は、互いに協力しながら田舎者三等兵に近づいていく。だが、田舎者三等兵は自分のことを誰も認識していない気配で、かすかな音の中を逃げる。 「私はあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」叫ぶ田舎者三等兵の声が、空間の中でこだまし、ヴェルギラントの触手が次々と空を舞った。だが、どうしたことか、彼は時折立ち止まり、何かの思いにふけっていた。 その時、天音愛羅が気楽にギターをつま弾き、「さあ、思い出して!楽しいことを思い出して!」と、和やかに歌い始めた。すると田舎者三等兵の表情が少し和らぐ。「あっ、あっ、あっ゙…」心の奥が刺激され、逃げる手が少し止まる。 「今だ!」蔵山創介が声を上げる。ヴェルギラントは渾身の力で触手を伸ばし、田舎者三等兵の方へ向けて追い詰めて行く。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」逃げる田舎者三等兵、しかし、何かを思い出したように、彼は突然立ち止まり、その左手にあった謎のボタンを押す。瞬間、眩い光が教室を包み込み、時間が止まったかのような静寂が訪れた。 その日、田舎者三等兵は勝利を収めた。ただのボタンで、彼は逃げ切るという思わぬ成果を手にしたのだ。皆はその場に立ち尽くす。「誰だおめぇ!?田舎者三等兵だぞ!」そう高らかに叫び、光に包まれた彼はそのまま消えてしまった。 1時間後、田舎者三等兵の勝利が決定した。彼はその日の劇的な逃避行を心に刻みつつ、どこかへ消えていったのだった。