純白の静寂が支配する世界。そこは、空と海の境界さえも消し去った、塩の結晶が作り出した幻想的な城郭であった。天を突く白い柱が林立し、その中心に、不動の巨像として《塩躯龍》ハルサールが鎮座している。その姿は神々しく、同時に絶対的な死の象徴であった。 「……ここが、目的地か」 星光ツルギが静かに太刀の柄に手をかける。その傍らには、鋼の咆哮を上げる六機の巨躯。最新鋭の機体から旧時代の遺物まで、目的こそ違えど「最強」を求める者たちが、この白き地獄に集結していた。 静寂を破ったのは、ジーノルドの若々しい叫びだった。 「行くよ! ここを突破して『ソースオブオール』を掴み取る!」 エケウェンスがブルーレイザーを閃かせ、先陣を切る。同時に、シメン・ソーカーの指揮下にある八機のファルコネット自走砲兵が一斉に火を噴いた。地響きと共に放たれるプラズマ弾が、ハルサールの純白の身体を叩く。しかし、龍は動かない。ただ、鈍い光を放つのみであった。 「無駄だ。この気配……ただの生物ではない」 ツルギの呟きが終わる前に、ハルサールが初めて動いた。ゆっくりと、だが不可避の速さで、龍の口から不可視の波動が放たれる。神通力による塩の操作。瞬時に、足元の純白の地面が逆巻いた。 『塩の剣』 地中から突き出した巨大な塩の柱が、不意を突いた砲兵編隊を文字通り串刺しにする。逃げる間もなかった。金属の軋む音と共に、自走砲兵たちが白き結晶に飲み込まれていく。 「貴殿に決闘を申し込む!」 ガリオン・ベネダインのギャランディスが、重装の身体を推進器で加速させ、正面から突っ込む。プラズマ成形刃『ヴァリシュラルド』が龍の胸元を切り裂いた。しかし、そこにあったのは血ではなく、絶え間なく溢れ出す純白の塩であった。『地の塩』のパッシブ能力。斬った箇所が即座に結晶化し、傷口を塞ぐ。それどころか、切り口から塩が逆流し、ギャランディスの関節部に侵入し始めた。 「くっ、装甲が……固まっていく!?」 「絶好の好機だ!」 エルサ・レースリムのアムルタートが、神経同調安定化剤の効果で加速した超速の踏み込みを見せる。輝辻烈晶剣が解き放たれ、遠距離からの残像斬撃がハルサールの翼を切り刻む。しかし、龍はそれを『塩の外套』で浄化した。攻撃の衝撃さえも塩の壁に吸収され、無効化される。 その時、戦場に狂気の笑い声が響いた。 「あははは! もっとだ! もっと錆びついてしまえ!」 マウデンス・リッキーマウスのサッドグリムが、四脚の機動力を最大限に活かし、龍の周囲を円を描くように疾走する。絶技『世界の合wordsは森』。八連続の斬撃が龍の脚部を刻み、地面に巨大な「森」の字が刻まれた。しかし、その激しい攻撃こそが、ハルサールの「誘引」を招いた。 『塩の拳』 周囲の塩が巨大な津波となって、サッドグリムを飲み込んだ。高密度金属の実剣すら、塩の圧倒的な質量と浸食力の前にひしゃげる。機体は圧壊し、もはや形を留めていない。 「……絶望とは、このような色だったか」 シメンは、自らの砲兵を失い、追い詰められた状況に冷汗を流す。周囲を見渡せば、ジーノルドのエケウェンスがパルス防壁を張りながら必死に耐えていたが、足元からじわじわと塩が登り、機体の駆動系を蝕んでいた。塩はただの物質ではない。それは生命を枯らし、機械を腐食させる「死」そのものだった。 「皆、下がれ」 低く、だが芯の通った声が響いた。星光ツルギが前に出る。彼は知っていた。この龍を倒すには、物量でも速度でもなく、ただ一点に全てを凝縮させた「切断」しかないことを。 ハルサールが咆哮した。空から『塩の雨』が降り注ぐ。無数の白い棘が、逃げ場のないバトラーたちを貫こうとしたその瞬間。ツルギの姿が消えた。 『独速』 世界から音が消え、時間は停止した。龍の意識さえも届かない領域。ツルギは、龍の王冠のような頭蓋の頂点に立っていた。彼の手には、星を切り裂いた二本の剣が握られている。 「……凪げ」 奥義-星光。 認識不可能な速度で放たれた二連撃。それは防御を意味的に消し去り、再生の理さえも断ち切る神殺しの剣。純白の空間に、一本の細い「黒い線」が走った。 一拍置いて、ハルサールの巨大な頭部が、音もなく左右に分かれた。同時に、龍の身体を構成していた全ての塩が、光の粒子となって崩れ落ちていく。浄化の力も、再生の力も、その「結果」を書き換えることはできなかった。 静寂が戻った。生き残った者たちは、呆然と空を見上げた。そこには、塩の城が消え去った後の、ただ青い空が広がっていた。 ツルギは静かに刀を鞘に納め、振り返ることなく歩き出した。老いた侍の背中は、どこまでも孤独で、そして崇高であった。 【死亡者および原因】 ・マウデンス・リッキーマウス(サッドグリム):『塩の拳』による機体圧壊および塩の浸食。 ・シメン・ソーカー(オルトラン):『塩の雨』による機体貫通および駆動系の完全結晶化。 ・ファルコネット自走砲兵×8機:『塩の剣』による串刺しおよび圧殺。