夜の帳が降りた城下町。満月が白く、残酷に街を照らしている。絶え間なく降り注ぐ雨が、石畳を黒く光らせ、賑わっていたはずの通りからは人の気配が消え、ただ雨音だけが支配していた。 その静寂のただ中に、一人の老人が立っていた。【闇夜の人斬り】無窮玄。返り血でどす黒く染まった黒衣を纏い、白混じりの髪を雨に濡らしている。その紅い瞳は、凪いだ水面のように静かでありながら、同時に万象の「死」を観測していた。 対峙するのは、橙色の道着を纏った一人の男、孫悟空。彼はこの異様な殺気に包まれた空間にあっても、どこかリラックスした表情で、戦いへの期待に目を輝かせていた。 「へへっ、あんた、すげぇ強そうだな! こんなにワクワクするのは久しぶりだぞ!」 悟空が構えを取った瞬間、世界から音が消えた。 ――シュンッ。 視認できない速度。無窮玄が踏み込んだ。彼は避けない。悟空が放った鋭い正拳突きを、あえて自身の至近距離で受け止める。だが、衝撃はなかった。無窮の身体が、まるで水のように悟空の攻撃の「理」を吸収し、無効化したかのように見えた。 「……速いな! でも、まだ行けるぞ!」 悟空は即座に反応し、舞空術で後方へ跳躍。空中で身を翻し、猛烈な連撃を叩き込む。空気を切り裂く衝撃波が雨を散らし、城下町の家屋を震わせる。しかし、無窮はただ静かに、最小限の動きでそれらを「受け流して」いた。避けているのではない。攻撃の軌道を、自らの剣の理へと組み込んでいるのだ。 (こいつ……俺の攻撃を食うたびに、さらに鋭くなってやがる……!) 悟空の洞察力が警鐘を鳴らす。無窮玄の瞳に、かつて彼が斬り伏せた数多の剣豪たちの幻影が見えた。それは無窮が記憶している「死」の記録。今、無窮は悟空の拳から、かつて交えたある剣客の「剛」を読み取っていた。 【無窮の回想:第一の断片】 かつて、北方の地で「金剛の剣」と呼ばれた男がいた。その男の剣は岩をも砕く剛力を誇り、無窮の黒衣を初めて切り裂いた。だが、無窮はその剛さを一太刀で受け止め、そのまま男の剣道を己の血肉へと変えた。絶望に染まる男の瞳を、無窮は静かに見届けた。 「……剛。心地よいな」 無窮が初めて口を開いた。その声は低く、感情が欠落していた。彼は腰の刀をわずかに抜き、一閃させた。それは単なる斬撃ではない。先ほど悟空が放った攻撃のエネルギーを昇華させた、「反撃」の一撃。 ドォォォン!! 「ぐあぁっ!!」 悟空は腕で防いだが、衝撃が全身を突き抜けた。身体が後方へ吹き飛び、石畳に深い溝を刻む。腕には深い斬撃が走り、鮮血が雨に混じって流れた。 「あははっ! まさか俺の力を利用して返してくるとはな! 面白い、めちゃくちゃ面白いぞ!」 悟空は立ち上がり、不敵に笑う。彼のサイヤ人の血が、逆境に反応して沸き立っていた。身体から黄金のオーラが噴出し、激しい風が雨を吹き飛ばす。髪が金色に染まり、瞳が碧色に変わる。超サイヤ人への変身だ。 「これでどうだ!!」 金色の閃光となった悟空が、光速に近い速度で無窮に襲いかかる。空間を歪めるほどの猛攻。右、左、上、下。あらゆる角度からの打撃が、無窮を包囲する。しかし、無窮は微動だにしない。彼はただ、瞳の中で「死」を観測し続けていた。 【無窮の回想:第二の断片】 東の都で名を馳せた「疾風の剣客」。その速度は音を越え、目に見えぬ斬撃で相手を切り刻む。無窮はその速さに翻弄されながらも、ある一点に到達した。速度とは静止の裏返しである。極限の速さに達したとき、世界は止まって見える。無窮は、その「静止」を喰らい、超越した。 「……速すぎれば、止まっているのと同じだ」 無窮の身体が、かすかに揺れた。次の瞬間、超サイヤ人の悟空の腹部に、鋭い突きのような斬撃が突き刺さった。回避不能。カウンターですらなく、無窮にとってはこの攻撃は「予定調和」に過ぎない。 「ガハッ……!!」 悟空が血を吐いて膝をつく。圧倒的な蹂躙。超サイヤ人のパワーをもってしても、無窮の「極致」の前では、ただの餌に過ぎないかのように見えた。 無窮はゆっくりと歩み寄る。その足取りには驕りもなく、ただ淡々とした求道者の歩みがある。彼は、悟空という強者が持つ「不撓不屈」の精神すらも、一太刀の糧として取り込もうとしていた。 【無窮の回想:第三の断片】 かつて、ある盲目の剣聖がいた。彼は心眼で万物の理を悟り、斬らぬことで斬るという境地に達していた。無窮は彼と三日三夜、剣を交えた。最後の一撃、剣聖が放った「無の太刀」を、無窮は自らの存在ごと受け入れた。そして、無さえも斬るという絶望的な境地へ到達した。 「お前の魂は、強い。だが、終わりは等しく訪れる」 無窮が刀を正眼に構える。空気が凝縮し、周囲の雨粒が空中で静止した。それは、彼がこれまで斬ってきた数万の命、数多の技、そして今、目の前のサイヤ人が見せた力。そのすべてを凝縮させた一撃の準備だった。 「……ここまでか。いや、まだだ!!」 悟空は無理やり身体を起こした。全身から血を流しながらも、その眼差しは死んでいない。むしろ、絶望的な状況にある今こそ、彼の真価が発揮される。 「ありったけの力を……出すぞ!!」 悟空が両手を腰の横に広げ、気を集め始める。地響きが起こり、城下町全体が震える。巨大な光の球が形成され、周囲の空気が白く塗り潰されていく。 「か……め……は……め……!!」 無窮の瞳に、初めて小さな興味が宿った。彼は逃げない。回避もしない。その全てを、自らの「一刀」で受け止め、昇華させる。それが彼の在り方だ。 「波ーーーーーーーッ!!!」 超かめはめ波。絶大なエネルギーの奔流が、無窮を飲み込もうと放たれた。光の柱が夜空を真っ二つに割り、満月すらもその輝きに消される。 だが、その光の中、無窮は静かに微笑んだ(ように見えた)。 【無窮の回想:第四の断切】 最後の一人。己の師であり、同時に最大の敵であった男。彼は「究極の必殺技」として、全生命のエネルギーを一点に集約して放つ一撃を編み出した。無窮はその一撃を正面から受け、一度は死に瀕した。しかし、死の淵で彼は悟った。破壊されることは、すなわち再構築されることであると。 無窮は、超かめはめ波という概念そのものを、己の剣の「鞘」とした。エネルギーの奔流に飲み込まれながら、彼はかつての師が使った必殺技――【絶空・断天斬】を、超かめはめ波のエネルギーを乗せて放った。 ズガァァァァァン!!!!! 光の奔流を切り裂き、黄金の閃光を真っ二つにする一撃。超かめはめ波という絶大な力を利用して加速した一刀は、そのまま悟空の胸元を深く切り裂いた。 「……が、はっ……」 悟空が宙に浮いたまま、ゆっくりと地面に降り立つ。胸から鮮血が噴き出し、金色のオーラが霧散していく。もはや変身を維持する力さえ残っていない。 しかし、悟空の口角が上がっていた。 「へへっ……いいタイミングだ……」 無窮が、トドメの一撃を放とうと剣を振り上げたその瞬間。 「フッ」 悟空の姿が、消えた。 「!? 」 無窮が初めて、わずかに目を見開いた。戦術考察、歴戦の洞察力。全てを読み切ったはずだった。だが、この瞬間、悟空は「気」を完全に消し、空間を跳躍した。 無窮の真後ろ。至近距離。 「波ーーーッ!!!」 瞬間移動かめはめ波。至近距離から、全霊の気を込めた一撃が、無窮玄の背中に直撃した。 ドゴォォォォォン!!!!! 大爆発が起こり、城下町の通りが完全に消滅した。煙が舞い、雨が再び激しく降り注ぐ。 爆心地に立っていたのは、肩で息をしながら、ボロボロになった道着を纏う孫悟空だった。彼の前には、黒衣が完全に焼け焦げ、刀が折れ、深く胸を焼かれた無窮玄が、静かに膝をついていた。 無窮は、自分の胸に開いた巨大な穴を、静かに見つめていた。そこに絶望はない。ただ、深い充足感だけがあった。 「……見事だ。私の『一刀』を、超える『不意』があったか……」 無窮の瞳から、紅い光が消えていく。彼は、自分が到達しようとしていた「極致」の先を、このサイヤ人の無邪気な闘志の中に見たのかもしれない。 「あんた……本当に強かったぞ。また修行して、強くなって戻ってきてくれよな」 悟空が優しく微笑む。だが、無窮玄の身体は、静かに灰となって雨に溶けていった。彼にとっての死は、終わりではなく、究極の静寂への回帰だった。 満月が雲に隠れ、雨は止んだ。城下町には、ただ心地よい静寂だけが残っていた。 -------------------------------------------------- 【戦闘結果】 勝者:孫悟空 生死者:無窮玄(死亡/消滅) 【勝利側MVP】 孫悟空 (理由:圧倒的な実力差で蹂躙されながらも、サイヤ人としての不屈の精神と、最終的な『瞬間移動かめはめ波』という奇策により、無敵の理を持つ無窮の裏をかき、致命傷を与えたため)