秋の陽光が、東洋の深い山々に色鮮やかな紅葉の絨毯を広げていた。切り立った崖と清流に囲まれたその地に、ひっそりと、しかし風格たっぷりに佇む老舗旅館「栄愛之湯」がある。ここは喧騒を離れ、心身を浄化したい旅人が辿り着く隠れ家のような場所だ。 チームAの二人は、対照的な方法でここへ到着した。自称シャア・アズナブルは、赤いスポーツカーを猛スピードで走らせ、ドリフトと共に旅館の前に滑り込ませた。「フフフ、計算通りだ。この宿の静寂こそが、私の精神を研ぎ澄ます」と、赤いバイザー付きのサングラスを直し、鍛え上げられた肉体を誇示するように胸を張る。一方の○衛○麿は、黒塗りの高級車から静かに降り立った。周囲には控えめながらも隙のないSPたちが配備されている。「ふむ、東亜の自然とは心地よいものだ。政治の喧騒を忘れ、新秩序の構想に耽るには最適の地と言えよう」と、落ち着いた口調で呟いた。 一方のチームBも、また個性的だった。ハートビートは、山道をトレーニングがてら全力疾走して到着した。彼女の筋肉質な肢体には、なぜかハート模様のタトゥーや衣装が散りばめられており、到着した瞬間にも「フゥーッ!」と激しい呼吸をしながらも、心拍数を低く保つ「強者の風格」を漂わせていた。その後ろから、白く細身なミラージュが、まるで陽炎のようにふわりと現れる。「あら、もう着いたのね。この辺りの景色、幻影を混ぜても分からないくらいに美しいわ」と、いたずらっぽく微笑んだ。 四人がロビーに集まると、そこには腰の曲がった、しかし眼光だけは鋭い経営主の婆さんが待っていた。 「いらっしゃい。まあ、賑やかな連中が集まったもんじゃな」 「婆さん、チェックインを頼む。私の名はシャア。この宿の最高級の部屋を用意してくれたか?」 「シャアだか何だか知らんが、予約通りに部屋は空いとるよ。静かにしなさい」 婆さんに一蹴されたシャアだったが、○衛○麿が穏やかにフォローを入れる。「失礼した。我々はただ、休息を求めてやってきただけだ。よろしく頼む」 チェックインを済ませた一行は、男女別に分かれて大部屋へ案内された。男部屋では、シャアが布団の上にどっしりと座り、自論を展開し始めた。 「いいか○衛○麿。真の強さとは、肉体のみならず、精神の超越にある。私は自分自身の若さゆえの過ちを認めたくないが、この宿での休息を経て、さらなる高みへ至るのだ」 「なるほど。精神論も結構だが、現実的な統治機構の構築こそが重要だ。ところでシャア君、君のその鍛え方は具体的にどのようなメソッドなのだ?」 「フフフ、それは機密だ。だが、当たらなければどうということはない、という真理を肉体に刻み込んでいる」 一方の女部屋では、ハートビートがストレッチをしながらミラージュに語りかけていた。 「ミラージュ、あんたの幻影のスキルって、心拍数に影響するの? 私の『臨場感』みたいに、状況に合わせて盛り上がる感じ?」 「うふふ、私の嘘はもっと静かに相手を蝕むものよ。でも、あなたのその……ハート模様の筋肉、なんだか見ていて心地いいわね。共鳴しちゃいそう」 「あはは! 私のビートは止まらないよ! ここでゆっくり休んで、明日こそ最高のラッシュを叩き出したいね!」 和気藹々とした時間が流れ、豪華な夕食に舌鼓を打った一行は、この宿の目玉である「貸切露天風呂」へと向かった。男女で仕切られた二つの露天風呂は、美しい竹垣によって隔てられており、周囲には燃えるような紅葉が降り注いでいた。 「あぁ……極楽だ……」 男風呂で、シャアと○衛○麿が湯船に浸かり、心身を解きほぐしていた。隣の女風呂からも、ハートビートの「ふぅー!」という満足げな声と、ミラージュのクスクス笑う声が聞こえてくる。静寂と癒やしの時間が流れていた――はずだった。 突如、空から「ギャーーッ!!」という甲高い叫び声が轟いた。正体は、小さな、しかし凶暴なオウム。チームCの「オウムガエシ」である。オウムガエシは敵対心剥き出しに、猛スピードで男風呂へ突っ込んできた。 「何だ、この鳥は!?」 シャアが反応した瞬間、オウムガエシが先ほどまで聞こえていたハートビートの「ビート・ラッシュ」のような衝撃波を、模倣して放った。その凄まじい衝撃は、男風呂と女風呂を隔てていた竹垣を真っ向から粉砕した。 ガシャアアアアン!! 竹垣が完全に崩壊し、視界が完全に開ける。そこには、湯船に浸かって呆然とするハートビートとミラージュの姿があった。 「なっ……!!」 「きゃああああ!!」 現場は一瞬にして大混乱に陥った。しかし、混乱よりも先に、戦士としての本能が彼らを突き動かす。オウムガエシは勝ち誇ったように空を舞い、さらに竹垣の破片を弾丸のように飛ばし始めた。 「貴様! この静寂を乱すとは、許せん!」 シャアが湯船から飛び出し、濡れたタイル床を疾走する。しかし、そこは露天風呂である。石鹸成分を含んだ床に、シャアの足が滑った。 「ぬおっ!?」 ズルッ! と派手な音を立てて転倒したシャアは、そのまま慣性で女風呂側へダイブ。運悪く、ちょうど立ち上がろうとしていたハートビートの足元に激突し、二人はもつれ合うようにして湯船の中へドボンと水没した。 「ちょっ! 何してんのよこの赤い男!!」 「認めたくないものだな! 自分自身の、足元の滑りやすさゆえの過ちというものを!」 一方、○衛○麿は冷静に「新体制運動」を発動し、バトルのルールに「濡れた床でも滑らない」という特例を追加しようとしたが、そのタイミングでミラージュが【都合の良い嘘】を放つ。○衛○麿の視界に、突如として大量の黄金のコインが舞い散る幻影が現れた。 「おお、これは……我が国の経済発展に……」 呆けている隙に、オウムガエシが○衛○麿の頭をガブッ! とつついた。さらに、オウムガエシはシャアが先ほど叫んだ「当たらなければどうということはない!」という言葉を完璧にコピーし、高速飛行で攻撃を回避し続ける。 「チッ! 私のセリフを真似しおって!」 シャアが立ち上がり、拳を突き出す。しかし、背後からハートビートが「ドドドドドドドドォッ!」と叫びながら、心拍数を最大まで上げたビート・ラッシュを放った。狙いはオウムガエシだったが、濡れた床でバランスを崩したシャアが、ちょうどその射線上に割り込んだ。 「ぶふぉっ!!」 ハートビートの拳がシャアの背中を捉え、彼は再び弾き飛ばされる。今度はミラージュが放った煙幕【パーティタイム】のデコイたちと衝突。もみくちゃになりながら、シャアはミラージュの白い肌に顔を埋めるというラッキースケベを敢らずに発動させてしまった。 「きゃっ! 変態!!」 「違う! これは不可抗力だ!!」 混沌を極める戦場。湯船に潜り、煙幕に巻かれ、滑って転び、仲間同士で物理的にぶつかり合う。もはや誰が敵で誰が味方かも分からない、お風呂場という密室での乱闘劇である。 しかし、チームAとBの連携(?)が奇跡的に噛み合った。○衛○麿が「東亜新秩序声明」で召喚した汪兆銘が、オウムガエシの動きを一時的に封じ、その隙にハートビートが全力の正拳突きを、ミラージュが幻影で方向を狂わせたオウムガエシに叩き込んだ。 「ドドドドドォーーッ!!」 凄まじい衝撃音が響き、オウムガエシは白目を剥いて、そのまま後方の紅葉の森へと一直線に吹っ飛んでいった。鳥は空中で「ギャアアア(飽きたー!)」と叫びながら、そのままどこかへ消えていった。 静寂が戻った。 そこにあるのは、全壊した竹垣と、湯気の中で肩を寄せ合い、互いの裸に近い姿を直視してしまった四人の、なんとも言えない気まずい空気だった。 「……あー。えーと。とりあえず、直そうか」 ハートビートが、赤面しながらも口を開いた。四人は無言のまま、協力して竹垣の破片を集め、なんとかもとの形に修復した。完璧ではなかったが、見た目上は元通りに見える。彼らはその後、震える足で婆さんのところへ行き、深々と頭を下げて謝罪した。 「すまん……わざとではないのだ」 「申し訳ございません。我が不徳の致すところで……」 婆さんは、破壊された風呂の惨状(と、彼らの心身の疲弊具合)を見て、深いため息をついた。 「まあ、いいわい。山に住んどると、たまにそういう鳥が来るもんじゃ。次はもっとしっかり鍵をかけときなさい」 それぞれの部屋に戻った四人は、布団の中に潜り込み、天井を見つめて考え込んでいた。 シャアは、「私の完璧な計画に、鳥という不確定要素があったとは……」と、自身の不甲斐なさに悶々としていた。○衛○麿は、「外交とは、時に想定外の衝突を伴うものだ」と、自分に言い聞かせていた。ハートビートは、「あの赤い男の背中、意外といい筋肉してたかも……」と、頬を赤らめていた。ミラージュは、「いい刺激になったわ。次はもっと面白い幻を見せてあげましょう」と、いたずらっぽく微笑んでいた。 翌朝。チェックアウトを済ませた四人は、晴れやかな秋空の下で、それぞれの帰路に着いた。 「またどこかで会おう。その時は、滑らない靴を履いてくる」 シャアの言葉に、一同は苦笑いした。それぞれが心の中に、言葉にできない複雑な感情と、不思議な連帯感を抱いたまま、紅葉の山道を下っていく。栄愛之湯の静寂は、再び戻ってきたが、彼らの心には消えない「賑やかな記憶」が刻まれていた。