廃ビルの名は「第七工業センター」。かつては活気に満ちていたが、時は流れ、今では風化と苔に覆われ、無機質な鉄筋コンクリートの迷路と化している。その建物は地上10階、地下2階から成り立っている。 1階はロビーで、壁際には倒れかけたソファが散乱し、真ん中には朽ちたテーブルが置かれている。2階は会議室が何部屋か並び、窓からの光が薄暗い。3階は休憩室で、古びた自動販売機やテーブルが放置されている。4階から10階はオフィスフロアで、デスクや椅子、ファイルキャビネットが散乱している。 各階の中央には階段があり、エレベーターも存在するが、長い間使われていないらしく、動く気配はない。特に4階には配管と電線がうねっており、ビルの構造を利用した戦いに多大な影響を与えるだろう。 その廃ビルの一室、郷和京史郎は5階の一角に目覚めた。半睡の状態から意識を取り戻すと、そこはかつて使われていたオフィス。埃をかぶったデスクが並んでおり、薄暗い光が窓から洩れ入る。彼は体を起こし、周囲を見回す。 同時に、スチール・ウィップ・シーディアは9階の影に身を隠して目覚めた。彼は自分の鋼の蔓を確認し、静かに周囲の状況を観察する。 郷和は立ち上がり、剛腕を大きく振りかざし、周囲の空間を把握する。彼は自信に満ちた笑みを浮かべ、「行くぞ、シーディア。」と心の中で宣言する。 シーディアは静かにその場から動き出す。彼はすでに周囲の机やビルの配管に蔓を出し、敵に気づかれることなく動く準備をしている。感覚が鋭くなり、動きの止まった空間の中、彼は自分のペースを崩さず、先に仕掛けを考える。 「ふふ、あなたの勇敢さには敬意を表するけれど、君の剛腕は不可避な未来にすぎない。」シーディアは静かに呟く。 戦闘はヒトの視界に囚われない。シーディアは蔓を天井から伸ばし、さらにその蔓を使って周辺の壁や物体に触れ、動いているのはまるで影のようだ。 その一方で、郷和は耳を澄ませ態勢を整える。何かの気配を察知した。その瞬間、彼の直感が警鐘を鳴らす。 チャンスを逃すまいと、郷和は周囲の物体を使い、真剣に警戒しつつ進む。彼は手首を一振りし、自らの剛腕を掲げて身構える。 静寂を破って、鋼の蔓が動き出す。「今だ!」シーディアは一気に攻撃をしかける。蔓が音もなく彼に迫り、目を奪われたようにその存在を認識した瞬間、郷和は驚異的な素早さで前に身を投げた。 彼は反射的に手を伸ばし、攻撃を弾き返しつつ近づく。周囲の物体が重力に逆らい、シーディアはその反撃のあまりに強力な剛腕によって、彼の攻撃のアウトラインを見失う。 「無駄だ、郷和!私に近寄ることは許されない!」シーディアの叫びが響く。蔓がすばやく地面へと這いずるように潜み、部屋の端に仕掛けられた罠へと引き寄せる仕掛けを作り上げる。 このビルの全てのフロアや構造を最大限に活かし、決闘はビル全体に広がる。相手の攻撃を避けながら、郷和は空間の中で繰り広げられる独特の戦闘を続ける。しかし、二人の持つ力、戦術、知恵はまさに異なる。郷和には剛腕という直接的な力があり、シーディアには策略という風雅な力があった。 そして、その戦闘は互いに接触するまで続いた。シーディアが蔓で塀のように突き刺し、郷和はそれを受けて剛腕で反撃、強力なハンマーのような一撃を放つ。 その衝撃にシーディアは少し足を踏み落とす。しかし、その瞬間、彼の蔓が放たれ、郷和の行動を封じ込め、無数の鋼の蔓が彼を取り囲む。 「何をする!」郷和はことごとく全ての蔓を受け流し、逆に攻撃を放つ。彼の強靭な剛腕は耐久力が抜群であり、蔓を叩き落としていく。しかし、シーディアは執拗で、冷静にその隙を狙って攻撃する。 長い戦闘が続けられた。ビルの中を駆け回り、階段やエレベーターシャフトを利用して、二人の攻防は時に高所から低所へと、また地中へ潜り降りていく。 「勝者の名は一つだ。お前の強さを理解したからこそ、私が最後に勝つのだ!」シーディアの一撃、剛腕を引き裂く高電圧が放たれる。この時、郷和は剛腕シールドを構え、受け止めようとした。しかしその蔓は瞬く間に彼の動きをしばらく抑え込み、強烈な電流が彼を痺れさせる。 「我らがこの瞬間、手を挙げ名乗りをあげる!さあ、私に対抗できる者はいるか?」その瞬間、シーディアは高笑いする。 郷和はその状況に抵抗しながら、それでも自らの剛腕を掲げて立ち上がる。「この戦いを私だけのものにはさせない!剛腕で打ち破ってやる!」 彼は、電流がノドを通り過ぎるのを感じていた。しかし彼の決意は揺るがない。反撃を誰よりも抑えつけるために自らの全力で力強く振られる。暗いビルの最上階で、彼は全力の敵への猛攻撃を繰り広げる。 そう、破壊的な力と完璧なスキルの抗争がビル内で繰り広げられ、彼らの戦闘は何時間も続いた。途中、周囲の物体も倒れ、無くなり、頭上から飛んでくる鋼の蔓と無機質な壁を通過し、彼らの身体と意思がぶつかり合う。 時は過ぎ、徐々に、両者の体力は削られていく。最後の一撃を打つ瞬間、両者は同時に動く。郷和は剛腕ハンマーを振り下ろし、シーディアは鋼の蔓の全てを殺到させる。衝撃が残響を立て、片方が勝者となる。 雑音が止むと、静寂が広がった。その瞬間、彼が打ち破られたという感覚を受けたのは、シーディアであった。 彼の身体は壁に打ち付けられ、倒れ込む。鋼の蔓も次々と折れ、攻撃を受けたショックから出てくる電流が空間に逸れる。結果、シーディアは意識を失っていく。 隣の階には、郷和が立ち尽くす姿があった。彼はゆっくりとビルから出る決意を固めていた。勝者として、彼はそのまま外へと向かう。 ガラスのドアがゆっくりと開き、彼は明るい光が差し込む空間に足を踏み入れる。空は青く、太陽は明るかった。せめてこの瞬間だけでも勝者の誇りを味わおうと、彼はゆっくりと頬を緩める。 「シーディア、君との戦いは忘れないよ。」 彼の勝利を祝うかのように、風は優しく彼の頬を撫で、廃ビルの前にはかつての騒がしい日々が蘇えっていた。彼は空を見上げ、心の中で思った。「教師であることを誇りに思う。勇気を持って打ち勝とう。」 そして、彼は明るい外の世界へと踏み出した。