色彩を失った異様な花畑が広がっている。そこにはただ一つの色も混ざらないまま、無機質な灰色のそらと無機質な大地が花々を飲み込み、花々が持つ無限の可能性をも消し去ってしまっている。彼らが冒険に出ることも、希望を見出すこともないまま、ここにいるすべてはただ静かに佇む。 お花を摘みに来た村娘ライアナ。亜麻色の髪を風に揺らしながら、手にしたバスケットを持つ彼女は、歌を口ずさむがその声はかすかに宙に溶けていく。サンドイッチがどこからともなく香ってくるが、その香りも花畑の不気味に切り裂かれている。彼女の周囲には小鳥のさえずりもない。その代わりに、古びた音が緩やかに響き頭の中を掻き乱す。 闇堕ちしたエルフ、シャロル・ブラベルは花畑の影に潜んでいる。彼女の視線は鋭く、まるでこの場のすべてを見透かしているかのようだ。重厚な闇の気配を帯びた刀を手に、彼女は不安げな目で周囲を見回し、花々が発する微かな音に耳を澄ませるが、その音は喜びをもって伝えられてはこない。たしかに、何かがいる。 セーブ&ロードを繰り返す勇者は、このおかしな風景を見ても心を乱されることはない。彼は勇敢に周囲を見渡し、記憶を繰り返すためのセーブポイントを探している。意志の強さを持ち続け、彼にはくすぶった希望の灯が見えているはずだが、周囲の静寂がその未来を不条理なものにすり替える。鼓動音のように聞こえる謎の音が、彼の感覚を揺さぶる。 第901怪異課の魔弾の射手、衛宮小五郎は自らを守る黒煙に包まれている。彼は愛娘を救うためこの異様な花畑に来たが、その姿はどこか不安定で、周囲の気配の中で黙々と動き回っている。影のように存在する彼の姿は、彼らが求める旅路とは異なるものであることを示している。 るいで巫術を操る狸坂ほとりもまた、結界を意識しながら周囲を調べている。彼の眼鏡は光を放ち、霧の中に小さな式神を放つが、彼の表情は緊張に満ちている。不安定な花畑の中、彼の周りを飛び回る小鳥たちの姿がかえって彼の心に耳を立てさせ、目を凝らさせる。 数学教師サクラは、自分の周囲に教室を展開しようと試みるが、花畑の中でその数学的思考は消えかかり、ただ混沌が廻るばかりだ。何も伝わらず教えられず、教室の輪郭も次第にぼやけて、絶望的になる。彼女の心の優しさはこの荒れた風景の中で打ちひしがれ、メッセージは不気味に空回りする。 ポスカとポスク、この優しいサポーターたちもこの不穏な花畑の一端にいる。それでも彼らは希望を見出すもののように見えるが、その優しさの内には不安定な花畑の影響が満ちており、互いを助け合うこともままならない。音が一層大きくなるにつれ、彼らの動きも緩慢になっていく。 花畑は静かにさざ波のように揺れ、遠くで何かが触れ合う音がする。姿や形が見えないまま、彼らはこの不穏な空間に閉じ込められ、やがてそれが自身の影を濃くしていく。 思い出せない声のささやきが彼らの間を通り抜けていくが、その正体は不明なまま、重くのしかかっていく。やがて、彼らの心に潜む強い母性や愛、友情といった感情は、暗がりの中へ消えていくのだった。彼らはただ、逃れられない不快感に包まれ、この異様な花畑に永久に閉じ込められるがままになる。 気配が近づき、不安感が加速する。彼らは声を失い、何かが次第に近づいて来ているのをひしひしと感じる。無彩色の花畑の中、彼らはそれぞれの思いを胸に抱き、ただ逃げられないことを悟り始めた。 不穏な音が繰り返し響き渡り、彼らの心を少しずつ呑み込んでいく。どこか見知った温もりを思い出す余裕もなく、ただそれぞれが切り放され、静寂に飲み込まれていく。ただただ薄れゆく花畑の記憶に彼らは最後まで意識を閉じ込められ、次第に遠くて近い存在となってしまう。 そして、誰もがその先の世界を知ることはなかった。彼らはこの夢の中で、永遠に生涯を終えたのだった。