(静寂の中、深い青色の背景に白い文字が浮かび上がる。重厚感のあるチェロの独奏が始まり、画面はゆっくりと都会の夜景から、歴史の闇に消えた古文書や、出所不明の軍事機密ファイルの断片へと切り替わっていく。落ち着いた、しかしどこかミステリアスなナレーションが流れ出す) 【ナレーション】 「歴史の表舞台には、決して記録されない人々がいる。国家の機密として抹消された影、あるいはあまりに強大すぎて神話へと昇華された怪物。彼らは生きていた。そして、世界を密かに、あるいは暴力的に変貌させた。 今夜、我々はこの番組で、時代に名を刻みながらも、正体が伏せられた二人の特異な人物にスポットライトを当てる。 一人は、戦場の死神であり、完璧なる機能美を追求した傭兵――『ガンプレイヤー』。 そしてもう一人は、文明の崩壊後、絶望の時代に君臨し、人類最強の称号を独占した老翁――『例のあの人』。 相反する二つの『最強』。その生涯と、彼らが遺した不可解な足跡を辿る。」 (タイトルコール:『禁忌の肖像 ~歴史の空白を埋める者たち~』) (画面は、激しい銃声と閃光が交錯する戦場のアーカイブ映像のようなモノクロ映像に切り替わる。そこに、仕立ての良い黒いメンズスーツに身を包んだ、小柄で中性的な人物のシルエットが映し出される) 【ナレーション】 「まずは、戦術の極致と呼ばれた人物、ガンプレイヤーについてである。彼――あるいは彼女の性別は、没後もなお謎に包まれている。中性的な容姿に、弾丸を弾き返す特殊繊維で仕立てられた防弾スーツ。その佇まいは兵士というよりは、冷徹なエージェントか、あるいは死を運ぶ執事のようであった。」 (資料映像:複雑な構造を持つ、手の平サイズの金属製の物体が、瞬時にして巨大な対物ライフルの形状へと変形するCGアニメーション) 【ナレーション】 「ガンプレイヤーを伝説たらしめたのは、その特異な兵装『S1』である。あらゆる種類の銃器に変形可能なこの多目的兵装は、状況に応じて、消音器付きの拳銃から、城壁をも撃ち抜く対物ライフルまで、瞬時にその姿を変えた。相手がどのような防御を敷こうとも、ガンプレイヤーは『その状況に最適な解』をS1によって導き出した。超長距離からの精密狙撃で敵の指揮官を排除し、そのまま戦域に潜入。近距離では、シラットをベースに改良された独自の殺人格闘術を繰り出し、警棒とワイヤー、そして至近距離での射撃パリィという、芸術的なまでの殺戮術を展開した。」 (専門家へのインタビュー映像。軍事史学者が語る) 「彼は単なる射撃の名手ではありませんでした。閃光手榴弾や煙幕、催涙スプレー、さらには跳弾を利用した死角からの攻撃など、あらゆる搦手を熟知していた。そして何より恐ろしいのは、その精神性です。戦場という極限状態にありながら、常に愉快に、おしゃべりに、そして冷酷に状況を観察していた。彼にとって戦争は、最も効率的なパズルを解くゲームのようなものだったのでしょう。」 【ナレーション】 「家庭環境については、ほぼ全ての記録が抹消されている。しかし、彼が所持していた高度な医療品――軽症から重症までを即座に治療する医療キットの数々は、彼がかつて、あるいは裏で、高度な医学的教育を受けた組織に属していたことを示唆している。孤独に鍛え上げられたプロフェッショナリズムの裏に、誰にも頼らずに生き抜くしかなかった過酷な幼少期があったのかもしれない。」 (音楽が静まり、不気味な静寂が訪れる) 【ナレーション】 「そして、彼が生涯に一度だけ使用したと言われる『切り札』。致死の概念を宿した単発の弾丸。物理的な破壊ではなく、『死』という結果を強制的に付与するその弾丸は、理論上回避不能であり、防弾スーツや魔法的な障壁さえも意味をなさなかった。この一発の弾丸が、ある国家の政権を一夜にして崩壊させたという逸話が残っている。」 (画面は、静かに燃える炎と、遺された一着の黒いスーツを映し出す) 【ナレーション】 「ガンプレイヤーの最期は、あまりに唐突であった。ある大規模な紛争の終結後、彼は誰に依頼されることもなく、ただ『観察者』として戦場に立っていた。ある日、彼は満足げに笑い、自らのS1を分解して深い海へと沈めたという。その後、彼の姿を見た者はいない。公式には『行方不明』とされているが、一部の記録では、彼が最後に見せた表情は、プロとして完遂した仕事への充足感と、戦いから解放された安堵であったと伝えられている。」 「後世において、ガンプレイヤーは『効率的な暴力の象徴』として、現代の特殊作戦群の戦術に多大な影響を与えた。彼が遺した射撃術の断片は、今もなお秘密裏に継承されている。しかし、彼のような『個』で戦場を支配できる人間は、二度と現れないだろう。」 (画面が切り替わり、荒廃した大地、ひび割れた地面、そして空を覆う暗雲の映像へ。そこに、質素な麻の服を着た、どこにでもいそうな、しかし眼光だけは鋭い一人の老人の姿が映し出される) 【ナレーション】 「そして、もう一人の人物。歴史の特異点、世紀末の覇者。人々は彼を、畏怖を込めて『例のあの人』と呼んだ。見た目はどこにでもいる穏やかな翁。しかし、その正体は、人類史上最強と断言せざるを得ない、絶望的なまでの超越者であった。」 (グラフが表示される。秒収999ユーロという異常な資産状況と、NASAの全業務をわずか3ヶ月で一人で完遂したという知能指数の記録) 【ナレーション】 「彼の能力は、もはや生物学的限界を超えていた。天文学的な知能、そして呪術、魔法、薬学といったあらゆる神秘学に精通していた。しかし、彼が最も恐れられたのは、その『厳しさ』である。彼は規律に厳格であり、怠惰や不誠実を何よりも嫌った。」 (想像図:巨大な犬が大陸を飲み込もうとしている衝撃的なイラスト) 【ナレーション】 「彼には、歩魑(ポチ)という名の愛犬がいた。オーストラリア大陸ほどの巨躯を持ち、8つの首を備えた不死の怪物。例のあの人が指を鳴らせば、この怪物が召喚され、敵対者は文字通り『生きた餌』として飲み込まれた。しかし、そんな恐ろしい力を持つ彼が、最も好んで用いた攻撃は、暴力ではなかった。それは――『説教』である。」 (演出として、説教される若者たちが精神的に崩壊していくコミカルながらも恐ろしいアニメーション) 【ナレーション】 「彼は、相手の精神が耐えうる限界を超えて、10億年分に相当する説教を叩き込んだ。説教の間、彼はあらゆる攻撃を無効化し、相手の体力を精神的な摩耗と共に消滅させた。地形を破壊しようが、大声を上げようが、それはすべて『説教の正当な理由』となり、さらに説教が長くなるだけであった。また、彼は慈悲深い面も持っていた。味方と認めた者には、地獄のような筋トレを課し、時間加速の術を用いて、わずか1分で数年分に相当する身体鍛錬を完遂させ、爆発的な能力向上をもたらしたのである。」 (古い杖の接写) 【ナレーション】 「もし、説教でも歩魑でも解決しない事態が起きたとき、彼は静かに杖を振るった。その一撃の威力は、計算不能なほどに巨大であり、宇宙の質量さえも揺るがすほどの衝撃が、敵を塵へと変えた。」 (ここで、ガンプレイヤーの資料写真が並べて表示される) 【ナレーション】 「興味深いことに、記録によれば、若い頃のガンプレイヤーが、ある任務でこの『例のあの人』の領域に足を踏み入れたことがあるという。プロとして完璧な潜入を試みたガンプレイヤーだったが、結果として彼は、人生で初めて『完敗』を喫した。物理的な戦闘ではなく、三日三晩に及ぶ『プロとしての心構え』についての説教により、精神的に完全に屈服させられたのである。ガンプレイヤーは後に、彼について『あの翁だけは、S1でも撃ち抜けない。概念的に厳しすぎる』と書き残している。」 (夕陽に向かって歩く老人の後ろ姿) 【ナレーション】 「世紀末の覇者として君臨し、人類を正しい方向へと(強制的に)導いた例のあの人。彼の最期は、静かであった。ある日、彼は『もう十分だ。あとはお前たちが、自分で考えろ』という言葉を残し、愛犬の歩魑と共に、次元の狭間へと消えていった。彼が消えた後、世界には彼が遺した膨大な知見と、あまりに厳格な道徳観が、文化的な土壌として深く根付いた。」 「今日、彼は『厳格なる導き手』として、あるいは『人類最強の教育者』として評価されている。彼の遺した哲学は、現代の教育制度や法整備の根底に、密かに影響を与え続けている。」 * (画面は再び、都会の夜景に戻る。二人の人物のシルエットが重なり、そして消えていく) 【ナレーション】 「完璧なる機能美を追求した個の頂点、ガンプレイヤー。そして、圧倒的な超越性と規律で時代を支配した、例のあの人。 一人は影として世界を撃ち抜き、一人は光(あるいは雷のような説教)として世界を導いた。彼らが生きた証は、公式の歴史書には一行たりとも記されていないかもしれない。しかし、彼らがもたらした衝撃は、今も私たちの世界のどこかに、見えない振動として残り続けている。」 (音楽が盛り上がり、ゆっくりとフェードアウトしていく) 【ナレーション】 「今夜のスポットライトはここまで。次回の放送で、また別の『空白の人生』にお会いしましょう。」 (画面が暗転し、エンドロールが流れる。静かに番組が終了する)