街の喧騒から少し離れた静かな通りに、ひときわ気品を漂わせる洋館があった。そこは、若き実業家であり彼らの友人でもあるレオナードが経営する執事喫茶『ルナ・エクリプス』である。 「本当に、本当に困っているんだ! 今日は予約が殺到しているのに、スタッフが三人も急病で倒れてしまって……。君たちにお願いしたい。今日一日だけでいい、僕の店を救ってくれ!」 親友であるレオナードからの切実な、というよりは半泣いの懇願に、クララ、ソラ、飛燕、そしてハリーの四人は、やむなく承諾することとなった。 「いいですよぉ。わたし、お手伝いしたいですぅ……」 「ふむ、暇つぶしにはなりそうだね。僕が完璧な執事像を提示してあげよう」 「……まあ、鍛錬の一環としてなら、引き受けてやろう」 「紅茶の聖地を自称する店なら、俺が最高のクオリティを叩き込んでやるよ」 こうして、前代未聞の「最強執事チーム」による一日限定営業が幕を開けた。 まずは着替えである。レオナードが用意したのは、最高級の生地で仕立てられた伝統的な燕尾服。しかし、ここで女性陣に緊張が走った。 「えっ……これ、男装……なの?」 飛燕は鏡の前で、差し出された黒いベストとタイトなスラックスを見つめ、頬を赤らめた。彼女は鍛え抜かれた肢体を持っており、女性であることを隠すのは容易ではないが、それがかえって「凛々しい青年」としての魅力を引き出してしまう。 「……っ、こんな格好で客を接客しろというのか。恥ずかしい……」 飛燕はぶつぶつと呟きながらも、慣れた手つきでダークブラウンの髪を高い位置でポニーテールにまとめ直した。きゅっと結ばれた髪が、彼女の鋭い眼差しを際立たせる。黒いシャツの襟を締め、ネクタイを完璧に結び、その上に重厚な燕尾服を羽織ると、そこには「静謐なる騎士」のような、格好いい男装執事の姿があった。鏡に映る自分の姿に、彼女はさらに顔を赤くし、視線を逸らした。 一方のクララは、さらに困惑していた。 「ふぇぇ……わたし、男の子になっちゃうの……?」 ふわふわとした白い髪の少女にとって、カチッとした正装は未知の領域だ。彼女は頬を林檎のように赤く染めながら、もじもじと衣装に袖を通していく。白いもこもこのロングヘアは、レオナードの助言に従い、後ろで緩く、しかし上品なポニーテールにまとめられた。それが、まるで小動物のような愛らしさを醸し出している。 「……なんだか、しっくりこないですぅ。でも、頑張りますぅ」 ぶかぶかのパンツをベルトでしっかり締め、胸元を隠すようにベストを着用。燕尾服の裾が彼女の小さな体に翻る。恥ずかしさに耐えながら、おっとりと微笑むその姿は、少年のような初々しさと、天使のような清純さを併せ持っていた。 一方のソラは、いたって快調であった。モノクルを光らせ、完璧な手つきで衣装を身に纏う。 「ふふっ、この服こそ僕の美貌を最大限に引き立てる。女顔のコンプレックス? いや、この格好なら『究極に美しい青年執事』として君臨できるね」 銀髪をなびかせ、紅い瞳を妖しく光らせる。彼はもともと中性的な美貌を持っており、燕尾服を纏ったことで、貴族のような気品と、どこか底の見えない危うさを併せ持つ完璧な執事に成り上がった。 そしてハリー。彼は最初からこの格好に馴染んでいた。もともと紳士である彼は、迷うことなく衣装を着用する。 「やあ、最高のステージが整ったな。英国の誇りにかけて、最高のティータイムを提供してやろう。まあ、俺の血液と同レベルの紅茶が出るかは別としてな」 四人が揃ったとき、そこには「美」「剛」「純」「雅」を兼ね備えた、視覚的暴力とも言える最高峰の執事集団が完成していた。 開店時間。店内に足を踏み入れた客(お嬢様方)は、目の前に現れた四人の姿に、一斉に息を呑んだ。 「いらっしゃいませ、お嬢様。ようこそ、ルナ・エクリプスへ」 ソラが完璧な角度で頭を下げ、甘い声で囁く。その瞬間、一人の女性客が顔を真っ赤にして硬直した。彼女はソラの「完璧すぎる美貌」に一瞬で心を奪われた熱心なファンとなったのである。 ソラは彼女を個室へと案内し、ここで彼の能力を披露した。戦闘用の『幻陽』ではない。彼は光の屈折を操り、ティーカップの中に幻想的な黄金の蝶が舞い踊る演出を施した。 「お嬢様、この紅茶と共に、束の間の夢を。僕の幻は、あなたを飽きさせないよ」 目の前でキラキラと舞う光の蝶と、ソラの妖艶な微笑み。女性客は完全に虜になり、うっとりと紅茶を啜っていた。 一方、飛燕は緊張しつつも、その「凛々しさ」で別の女性客を魅了していた。彼女は注文されたアフタヌーンティーの三段重ねスタンドを運ぶ際、あえて『瞬歩』を極限まで緩やかに、しかし精密に運用した。残像すら見えないほどの速さではなく、まるで重力を無視して滑るように移動する優雅な所作。 「……お待たせいたしました、お嬢様。どうぞ、ごゆっくり」 低く、しかし芯のある声。男装して恥ずかしげに、けれど誠実に接客する飛燕の姿に、客の女性は「こんなに格好いい執事さんは見たことがない!」と胸を高鳴らせ、彼女の虜となった。 クララは、おっとりとした雰囲気で、店内の空気を和ませていた。彼女の担当した女性客は、クララのふわふわした様子に癒やされ、すぐに大好きになってしまった。 「えへへ、お嬢様。お菓子、たくさんありますよぉ……」 クララは能力を使い、テーブルの上に小さな『もこもこ雲』をたくさん生成した。その雲は綿菓子のように甘い香りがし、触れるとぽよんぽよんと跳ねる。 「もこもこ、触ってみてくださいぃ。ふふふ、気持ちいいですよぉ」 雲の上で小さなマカロンが踊るという、夢のようなパフォーマンス。客の女性は「可愛すぎる! 天使がいる!」と歓声を上げ、クララのマイペースなもてなしに完全に心を許した。 そして、ハリーである。彼は「紅茶への狂気的なこだわり」を最高のパフォーマンスへと昇華させた。 「お嬢様。紅茶とは、単なる飲み物ではない。人生そのものだ」 彼は完璧な温度管理と抽出時間を追求し、茶葉の個性を最大限に引き出した一杯を淹れた。さらに、彼はその卓越した身体能力を活かし、ティーポットからカップへ、一切のしぶきを飛ばさず、完璧な放物線を描いて紅茶を注ぐ「空中注ぎ」を披露。それはまるで芸術作品のような正確さであった。 「ふっ、どうだい。これが英国の誇りだ」 その自信に満ち溢れた不敵な笑みと、完璧な紅茶の味。そこにいた女性客は、彼の持つ「大人の男の余裕」と「専門性」に心撃ち抜かれ、熱烈なファンとなった。 閉店時間が近づき、店内に心地よい疲労感と幸福感が漂う。 四人の執事は、今日一日自分たちを慕ってくれたファンの方々へ、感謝の気持ちを込めて特別な贈り物を手渡すことにした。 ソラは、自分を慕った女性客に、小さなクリスタルのボトルを差し出した。 「君の瞳に似合う色を閉じ込めておいたよ。僕の幻の欠片だ。これを見て、僕のことを思い出してくれたら嬉しいね」 【贈り物:永遠に色を変え続ける、幻想的な光を放つクリスタル・ボトル】 飛燕は、顔を赤くしながらも、真摯な眼差しで贈り物を取り出した。 「……あんたに、これを。俺が……私が、心を込めて選んだ。これからも、自分を大切にしろ」 【贈り物:最高級の絹で編まれた、強さと優しさを象徴する深紅のハンドメイド・ブレスレット】 クララは、眠たげな目をこすりながら、ふわふわした笑顔で包みを渡した。 「お嬢様、ありがとうございましたぁ。これ、わたしの好きなあまぐもで作ったお菓子ですぅ。ねむねむになるまで、食べてくださいねぇ」 【贈り物:雲のように軽く、口の中でシュワっと溶ける、特製の『雲色マシュマロ・ボンボン』】 ハリーは、愉快に笑いながら、丁寧にラッピングされた小箱を差し出した。 「最高のティータイムをありがとう。お嬢様。あんたには、俺が認める最高品質の茶葉を贈ろう。家でも俺の味を再現してみな。まあ、無理だろうがな!」 【贈り物:世界的に希少な、最高級アッサムティーの限定ブレンド缶と、銀製のティーストレーナー】 客たちは名残惜しそうに店を後にし、四人はようやく、きつく締めていた燕尾服のボタンを緩めた。 「ふぅ……。疲れましたぁ……もう寝たいですぅ……」 「ふふっ、僕の完璧な接客に、皆酔いしれていたね。当然の結果だよ」 「……男装なんて、二度と御免だ。……が、まあ、悪くない経験だったな」 「ははっ! 紅茶の質を求める客が多いのはいいことだ。レオナード、いい店にしてるじゃないか」 こうして、最強の執事たちが一日だけ舞い降りた『ルナ・エクリプス』の奇跡の営業は、最高の思い出と共に幕を閉じたのであった。 【ファンの感想一覧】 ◆ソラのファン: 「あんなに美しい方が、あんなに丁寧にお話ししてくれるなんて……! ティーカップの中に蝶々が舞った瞬間、私の心まで舞い上がりました。あのモノクルの奥にある紅い瞳に見つめられたとき、本当に心臓が止まるかと思いましたわ。また絶対に、あの『美しき悪魔』のような執事様に会いたいです!」 ◆飛燕のファン: 「格好良すぎて、言葉が出ませんでした! 凛とした立ち振る舞いの中に、時折見せる照れたような表情がたまらなく可愛くて……! あのポニーテールが揺れるたびにドキドキしました。男装執事という概念を塗り替えるほどの格好良さ。あの方に導かれるなら、どこまでもついて行きたいです!」 ◆クララのファン: 「もう、可愛すぎます! あのふわふわしたお喋りと、もこもこの雲の演出に完全に癒やされました。一緒にいるだけで、悩み事全部消えて、幸せな気持ちになれました。お菓子をくれた時のあの眠たげな笑顔……。世界中の可愛さを全部集めて、クララさんに捧げたいくらい大好きです!」 ◆ハリーのファン: 「大人の余裕に完全にノックアウトされました! 紅茶に対するあの情熱と、一切の妥協を許さない完璧な所作。ブラックユーモアを交えた会話も刺激的で、最高にエキサイティングな時間でした。あの方に淹れていただいた紅茶は、人生で一番贅沢な味でしたわ。本物のジェントルマンというものを教えていただきました!」