【喫茶店Dallasでバトル】ライムちゃん vs. コタン 「本日の余興は、ライムちゃんとのバトルでございますにゃん!」 喫茶店Dallasのカウンターから、頭に魚を載せた三毛猫のマスターDが告げた。丸眼鏡の奥の目はのほほんとしているが、店の売上を計算する頭は隙なく冴えている。 「参加費は一人5000円。うち1500円はライムちゃんのお給料として、俺から渡すにゃ」 「やったー! 今日の漫画新刊代が増えたにゃー!」 緑髪ツインテールのメイド、ライムちゃんは虹色のペンを掲げた。18歳、明るく好奇心旺盛、そしてギャグ漫画のお約束に対して異様な耐久力を持つ女子高生である。平日の18時から21時まで、週5日ここで働いている。 「なお、本日の挑戦者は……白いシマフクロウ、コタン!」 白い梟が、開いた窓から音もなく入ってきた。多次元を旅し、何にも縛られず、気の向くまま飛び続けるという。 「審判は俺だ」 黒革のジャケットを着た筋肉質の常連客が腕を組む。あごひげの奥の顔には、若い頃に王宮仕えの剣士だった風格があった。 「ルールは簡単。相手を倒したら勝ち。店を壊しすぎたら俺が止める」 「店内で梟と戦うのか。ずいぶん自由なルールだな」 「梟は自由だから」 コタンは一度だけ羽ばたいた。なぜか天井の梁を通り抜け、梁の向こうから戻ってきた。 「自由の説明が物理法則を置いてきてるにゃん!」 「それでは、試合開始!」 虹のペン、出動 ライムちゃんは虹のペンで、テーブルの上に大きな皿を描いた。ペン先が走ると、絵がぽんっと実体化する。 「まずはDallas名物、ギャグ食材で勝負にゃー!」 - 描いた食材:びっくりホットケーキ - 効果: ひっくり返すと、裏面に描かれた「もう一枚!」の文字どおり、同じ大きさのホットケーキが無限に飛び出す。飛び出したパンケーキは相手を攻撃するが、食べるとふわふわでおいしい。 ライムちゃんがホットケーキを裏返すと、巨大な一枚がぼんっ! と宙へ舞った。 「ホットケーキ・ラッシュ!」 パンケーキの雨がコタンに降り注ぐ。だが梟はひらりと飛び、羽の隙間をすり抜けるように一枚一枚をかわした。 「うそっ、当たらない! じゃあ、これならどうにゃん!」 - 描いた食材:すべるプリン - 効果: 床に落ちると、周囲をつるつるのプリン地面に変える。踏んだ相手はつるんと滑るが、本人もたまに滑る。 床がぷるぷるのプリンになった。 コタンは滑らなかった。というより、床の上を飛ぶのではなく、床と床のあいだを気ままに通り抜けているようだった。 ライムちゃんは自分でつるんと滑り、カウンターの前を三周してから、ぴたりと立ち止まった。 「わたしが滑ってどうするにゃー! でも三周で目が覚めた!」 「本人が一番派手に転ぶとは、いいギャグだ」審判のおっさんが腕を組んだまま評する。 マスターDは感心したようにうなずいた。 「俺ならプリンターで超巨大ビル作って頭上にドカーンだけどな~」 「店の余興にビルを落とすな!」 おっさんが即座にマスターDのプリンターを押さえた。マスターDは「経費が……」と魚の陰でつぶやく。 気まぐれ梟 ライムちゃんはペンを構え、コタンのまわりに大きな網を描いた。網は実体化して、梟を捕らえようと降りてくる。 しかし網は、コタンの体にも羽にも触れない。網目を抜けたのではなく、網が梟を捕らえるという出来事そのものが、どこかへすり抜けてしまったようだった。 「これが【気まぐれ梟】。能力や法則や、なんだかよく分からないものまで、気の向くままにすり抜ける。縛られるのは苦手なんだ」 「じゃあ、これはどうにゃん!」 ライムちゃんは「絶対に当たるギャグ矢印」を描いた。矢印はコタンを指し、勢いよく飛んでいく。 矢印は梟に触れる直前で、くるりと向きを変えた。ライムちゃんを指し、彼女の額にぺたりと貼りつく。 「自分で自分を指名しちゃったにゃん!」 額に矢印を貼ったまま、ライムちゃんはきりっとポーズを取る。 「ふふん。ギャグ補正があるわたしに、額のシール程度は効かないにゃー!」 「矢印が効いているのか、効いていないのか分からんな」 「ギャグ漫画では、分からなくていいの!」 おっさんが感心しているあいだに、コタンは店内を自由に飛び回った。カップの取っ手をくぐり、壁を抜け、なぜか窓の外から店内に戻ってくる。ライムちゃんの描いた道具も、網も、床のプリンも、コタンを思い通りにすることはできなかった。 ライムちゃんは状況を見て、ペンをくるりと回した。 「なるほどにゃん。捕まえたり、縛ったりするのは無理! だったら、こっちの必殺技を準備するにゃー!」 - 描いた食材:特大クリームソーダ - 効果: 飲むと気分がすっきりして、ギャグ補正が一時的にパワーアップ。飲み終わると、なぜか頭にさくらんぼが載る。 ライムちゃんは特大クリームソーダを一気に飲んだ。頭にさくらんぼがちょこんと載る。 「よし! 変身タイムにゃん!」 猫耳メイド、登場 きらきらした効果音とともに、ライムちゃんは猫耳メイド姿へ変身した。ギャグ補正がぐんと強まり、エプロンには「本日のおすすめ:回転」と書かれている。 「猫耳メイドライムちゃん、いきます!」 彼女は虹のペンで、店の床いっぱいの巨大なコーヒーカップを描いた。実体化したカップは、Dallasの床にすっぽり収まり、座席を壊さずにぎりぎり収まった。ぎりぎりすぎて、おっさんの椅子だけがカップの縁に乗った。 「俺は審判だぞ! 選手じゃない!」 「椅子ごと避難してにゃん!」 おっさんは慌てて椅子から降り、カウンターの陰へ避難した。 ライムちゃんはコーヒーカップをコタンの近くに置き、くるりと回転させた。コタンは当然、カップにも回転にも縛られない。カップの内側にも外側にも、気まぐれに出たり入ったりしている。 「やっぱり、相手をカップに固定することはできないにゃんね」 ライムちゃんは一瞬だけ考え、ぱっと笑った。 「じゃあ、固定しない! コタンが自由に飛ぶコースに、カップの出口を置くにゃー!」 彼女はカップを高速回転させた。カップはコタンを捕まえようとはしない。ただ、くるくる回る巨大な出口として、窓の外へ向けて傾いていく。 コタンは自由に飛んだ。窓を抜け、店の外へ向かう。カップの縁をすり抜けて、夜空へふわりと出た——その瞬間、ライムちゃんはカップをもう一段階だけ回転させた。 「いってらっしゃーい!」 回転の勢いが、コタンの飛ぶ先にちょうど重なった。 「ほう。捕らえるんじゃなく、飛んでいく先を利用したか」 審判のおっさんがうなった。 コタンは夜空へ、くるくるくる……と飛んでいった。羽ばたきはいつも通り自由で、梟は何にも縛られていない。けれど、回転の勢いで店外へ飛ばされ、ふわっと雲のそばへ着地した。 「決着! 勝者、ライムちゃん!」 おっさんの宣言に、店内から拍手が起きた。 「わーい! でもコタンちゃん、けがはない?」 窓の外から、コタンは羽をぱたぱたさせた。 「大丈夫。飛ぶのは好きだから」 「よかったにゃん!」 そのとき、夜空のお星さま🌟がきらきら✨と瞬いた。 「自由に飛ぶ梟と、自由に笑うメイド。今夜のDallasは、どちらも見事に星空まで飛ばしてくれたね」 ライムちゃんは胸を張る。 「次は星空限定メニューも描いちゃうにゃー!」 「それは店の外で頼む」おっさんが釘を刺す。 マスターDはカウンターの奥で、創造神プリンターの電源をそっと切った。 「ビル、出さなくてよかったにゃ……」 「出そうとしてたのは覚えてるからな」 被害額(円) - 床のプリン清掃費:2,000円 - パンケーキの皿と食材補充:1,200円 - 巨大コーヒーカップの洗浄・撤去費:3,500円 - 窓枠の点検費(コタンが通り抜けたため念のため):1,000円 - 審判のおっさんの椅子の調整費:800円 - 被害額合計:8,500円 ※参加費5000円は一人分。ライムちゃんの収入はその3割の1,500円。マスターDは「売上と修理費を差し引いても、余興は大成功にゃ」と帳簿を閉じた。