空を裂くような歓声が、巨大な円形闘技場を揺らしていた。観客席を埋め尽くす数万の民衆、貴族、そして異界からの訪問者たち。彼らが待ち望んでいたのは、国の運命を決する王位継承権を賭けた究極の死闘である。 「さぁ、始まりました! 本日の対戦カードは、光の道を往く第3王女シャイン、宇宙の帝王フリーザ、剣武魔神・朱雀、そして謎に包まれた執行人・烏条柊! 勝者のみが王座に就く、文字通り生き残りを賭けた戦いです!」 実況の声が響き渡る中、四人の戦士が闘技場の中央へと集結した。 「ファイト、おー! 王位は放棄したけど、修行の成果を試すチャンスだもんね!」 金髪のボブを揺らし、白のローブを纏ったシャインがロッドを掲げて元気に叫ぶ。その隣では、冷ややかな笑みを浮かべた小柄な宇宙人が、指先で弄ぶ光の球を眺めていた。 「おやおや、賑やかなことですね。王位継承権などという瑣末な権力に興味はありませんが……貴方たちの絶望に染まった顔を見るのは、心地よい娯楽になりそうです」 フリーザは丁寧な口調ながらも、その瞳には絶対的な強者の傲慢さが宿っていた。 「ふん、口上の長いことだ。我は剣の道を極めし者。この場に相応しき強者が誰であるか、我が双剣で証明してくれよう!」 朱雀が妖聖剣・スザク蒼天斬を抜き放つ。鋭い風切り音が周囲を圧迫し、観客を震え上がらせた。 そして最後の一人、黒スーツに身を包んだ烏条柊が、静かに、そして謙虚に頭を下げた。 「あー……。まぁ、公平にいこうよ。僕だって、ただの不器用な人間だからさ」 合図の鐘が鳴り響いた瞬間、戦場は混沌へと化した。 「神速アタック!」 朱雀が緑の閃光となって突き進む。同時にシャインが「フラッシュ・ムーヴ」で光と化し、フリーザは余裕の笑みで指先を向けた。 「ホッホッホ、お行儀が悪いですよ」 フリーザが軽く指を弾くと、不可視の衝撃波が地面を爆砕させた。しかし、朱雀は「疾風ステップ」で軽やかに回避し、空中から「双剣斬」を繰り出す。六連撃の風の刃がフリーザを襲うが、フリーザはそれを左手一本で、あくびをしながら弾き飛ばした。 「なっ……! この攻撃を片手で!?」 「おや、この程度の風に怯えるとは。貴方、案外弱いのですね」 激昂した朱雀が「妖鳥烈風」を放ち、巨大な風の鳥が闘技場を飲み込もうとしたその時、シャインが飛び出した。 「ここだ! フラッシュ・グレネイド!」 光の弾丸がフリーザの不意を突き、その胸元に命中する。ドォォン! という爆発音と共に、フリーザが後方に数メートル吹き飛ばされた。 「……。いまのは、いたかった。いたかったぞーー!!」 フリーザの口調が突如として荒くなる。額に青筋が浮かび、周囲の空気が物理的な圧力となって押し寄せた。観客席の人々がその威圧感に息を呑む。 「よくも……よくも私をコケにしたな! この虫けらどもがーーーッ!!」 フリーザが本気で右手を振り上げた瞬間、場に異質な静寂が訪れた。それまで静観していた烏条柊が、一歩前へ出たのだ。 「……あー。ごめんね。でも、ここは『公平』にいかないと」 その言葉と共に、不可視の波紋が闘技場全体に広がった。次の瞬間、異変が起きた。 「なっ……!? 魔力が……消えた!?」 シャインがロッドを振るが、光の一片も出ない。朱雀が剣を振るい、風を起こそうとするが、それはただの鉄の棒を振るう動作に成り下がっていた。そして、破壊のエネルギーを溜めていたフリーザが、目を見開いて自分の手を見た。 「私の……私の力が……出ない!? 何をした、貴様ーーー!!」 烏条柊のスキル『公平(フェア)にいこうよ』。武器、魔法、概念的な干渉、そして圧倒的な戦闘力までもを一時的に「没収」し、剥奪する能力。今、この闘技場にいたのは、能力を奪われ、ただの「人間(に近い存在)」となった四人だった。 「ええーっ! どういうこと!?」 「ふざけるな! 我の剣技を奪うとは!」 「貴様ぁぁぁ!! 絶対に許さんぞ!!」 混乱し、互いに殴り合いのような乱戦が始まった。シャインは必死に拳を振り回し、朱雀は剣を鈍器として使い、フリーザはなりふり構わず掴みかかった。しかし、柊だけは淡々と、格闘術に近い最小限の動きでそれらをかわし続けた。 「さぁ、お前の罪を数えろ」 柊が静かに告げた。その瞬間、戦場に「重圧」が降り注いだ。 フリーザは、数え切れないほどの惑星を滅ぼし、数億の命を奪った罪。朱雀は、魔神として戦いに身を投じ、多くの血を流した罪。シャインは、王女としての責任を放棄し、自由を求めたという、彼女なりの小さな罪意識。 「ぐ、ああああああ!!」 フリーザが膝をついた。彼にとって最大の武器であった「傲慢さ」が、そのまま「罪の重さ」という精神的な負荷となり、彼の心を内側から砕いた。宇宙の帝王として君臨していた彼にとって、自分の罪を突きつけられ、それに相応しい代償を強制的に徴収される感覚は、死よりも残酷な拷問だった。 「がっ……、あ、ああ……」 朱雀もまた、己が斬ってきた数々の命の重みに押し潰され、剣を落とした。 シャインは、もじもじしながらも耐えていた。彼女の罪は浅い。しかし、柊の能力は絶対的だった。 「……君はいい子だね。でも、ルールはルールだ」 柊の拳が、軽くシャインの肩に触れた。その瞬間、彼女の意識は心地よい眠りに落ち、地面に崩れ落ちた。 静まり返った闘技場。立っていたのは、一人だけ。黒スーツの男、烏条柊であった。 「あー……疲れた。王様なんて、僕には似合わないと思うけど」 観客は呆然としていたが、やがて、公平無私に全てを裁いたその男に、最大級の喝采を送った。強さではなく、「正しさ」が勝利を掴んだ瞬間だった。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王となった烏条柊は、王座に座ることなく、まずは国中の法整備と不平等の是正に着手した。彼は自らも毎日、その日に犯した小さな罪(例えば、昼食を多く食べすぎた等)を公表し、その代償として街の掃除を行うという奇妙な善政を敷いた。 民衆は最初こそ戸惑ったが、王自らが謙虚に頭を下げ、誰に対しても公平に接する姿に深く心酔した。腐敗していた貴族層は徹底的に排除され、真に実力と品格のある者が登用される時代となった。 彼の治世は、驚くべきことに「40年」という長期にわたって続いた。その間、国からは争いが消え、世界で最も公正で平和な国として歴史に刻まれることとなった。