【アメリカ大陸横断レース:アイアン&メイゼム・ラリー】 1. 出発前の参加者&車両紹介 コネチカット州ダリーンの海岸線。潮風が吹き抜けるスタート地点には、およそ「レース」という言葉からは程遠い、異様な集団が集結していた。 一人目は、《死炎の幼女》魘魔 蝶華。ゴシック調の黒いドレスに身を包んだ生意気そうな少女だ。彼女が乗り込むのは、彼女の魔力によって形作られた「黒炎の浮遊棺」。漆黒の炎を噴き出し、地面から数センチ浮上して滑走する、不気味ながらも幻想的な乗り物である。傍らには静かな友、神楽が付き添い、彼女の我儘を黙って受け入れていた。 二人目は、【生命の父たる水を讃えよ】ネール・ネール・ネール・ネー。自称「治水聖帝」の壊れたアンドロイドである。彼が搭乗するのは、超重量級タンク機「ファユーム」。巨大なクローアームと爆雷杭を備え、走行するだけで地面に浄水の水路を刻むという、移動する土木工事現場のような巨躯である。 三人目は、蒸気機関砲手 マコア・ベルーハ。褐色肌に栗色のポニーテールが揺れるドワーフの少女。彼女は自らの義肢に組み込まれた駆動輪と、背中の小型炉から噴き出す蒸気を利用した「核熱石式蒸気サイクル」に跨っていた。機能美に溢れた真鍮色のマシンは、激しい蒸気を上げながら地響きを立てている。 そして最後は、正体不明の超高性能マシン「Devel Sixteen」。V型16気筒クアッドターボを搭載した、地上最速を誇るハイパーカーである。ドライバーの姿は見えないが、その流線型のボディは見る者を圧倒する速度の予感を放っていた。 2. スタート前の意気込みと会話 「お兄様、準備はいい? 私が一番にゴールして、あんたたちの絶望した顔を燃やしてあげるわ!」 蝶華が勝ち誇ったように笑い、周囲の参加者を「お兄様」と呼んで見下す。彼女にとってこのレースは、ただの退屈しのぎであり、同時に誰かを打ち倒すための遊びに過ぎない。 「……浄水さえ調えば、世に平穏が訪れる。この大陸に完璧なる水路を敷き、我は聖帝としての使命を完遂せん」 ネールは機械的な声で淡々と語る。彼にとってのゴールとは、ロサンゼルスに辿り着くことではなく、道中にどれだけ効率的に溝を掘れるかにあるようだった。 「私に……こんな大きな舞台で走れるなんて。誰かの役に立てるように、精一杯頑張ります!」 マコアは緊張した面持ちでハンドルを握る。彼女の瞳には、技術で誰かを助けたいという純粋な願いと、心の奥底に潜む拭いきれない虚無感が同居していた。 Devel Sixteenは何も語らない。ただ、アイドリングの低音が地面を震わせ、獲物を待つ猛獣のような殺気を放っているのみであった。 3. スタート直後の様子 号砲が鳴り響いた瞬間、世界が塗り替えられた。 「あははは! 焼き尽くせー!」 蝶華の黒炎の棺が爆発的な加速で飛び出す。しかし、それを上回る衝撃波と共に、Devel Sixteenが銀色の閃光となって視界から消えた。時速500kmを超える絶望的な速度。後続はただ、その排気音に飲み込まれるのみだった。 一方で、地響きと共に進むのはファユームだ。ネールが操る巨躯は、道路を完全に破壊しながら、その後ろに清らかな水路を形成していく。「浸透強襲計画」に基づき、隣を走るマコアの蒸気サイクルにクローアームを振り回し、妨害を仕掛ける。 「わぁっ! 危ない!」 マコアは蒸気義肢の駆動輪をフル回転させ、間一髪で回避。蒸気砲を地面に撃ち込み、その反動で加速してネールの猛攻を振り切った。 4. 第一通過地点:シカゴ(イリノイ州) 【見所:ウィリス・タワーとシカゴ川】 高層ビル群が立ち並ぶ風の街シカゴ。参加者たちは都市のグリッド状の道路を駆け抜ける。 【状況】 1位:Devel Sixteen(圧倒的逃げ) 2位:魘魔 蝶華(黒炎でショートカット) 3位:マコア・ベルーハ(技術的なコーナリングで追撃) 4位:ネール(道路を破壊しながら前進) ここで蝶華に不運が襲う。30%の確率で発生するパトカーによる追跡だ。十数台のパトカーがサイレンを鳴らし、彼女を包囲する。 「うるさいわね! その理不尽なサイレン、全部燃やしてあげるわ!」 蝶華がスキルを発動。パトカーが放つ警告音という「概念」を黒炎が包み込み、巨大な炎の衝撃波となってパトカー群に跳ね返った。パトカーは一瞬で大炎上し、蝶華はあくびをしながら先を急いだ。 5. 第二通過地点:デンバー(コロラド州) 【見所:ロッキー山脈の雄大な景色】 標高の高い「マイルハイシティ」。薄い空気と急勾配の山道が参加者を苦しめる。 【状況】 1位:Devel Sixteen(山道でも減速せずコーナーを突破) 2位:マコア・ベルーハ(蒸気機関のトルクで急坂を攻略) 3位:魘魔 蝶華(空中浮遊で岩場を無視) 4位:ネール(山を削りながら水路を構築) ここでマコアがパトカーの追跡を受ける。山道での激しい追いかけっこ。しかし、マコアは義肢の滑空翼を展開し、崖から飛び降りて谷底へショートカット。蒸気砲の反動を利用して加速し、見事に警察を振り切った。 「ふぅ……。私でも、ここまでやれるんだ」 彼女の心に、わずかな自信の灯がともった瞬間だった。 6. 第三通過地点:ラスベガス(ネバダ州) 【見所:ストリップ通りのネオン街とカジノ】 砂漠の真ん中に現れた不夜城。極限の暑さと眩い光が、参加者の精神を削る。 【状況】 1位:Devel Sixteen(直線で最高速を記録) 2位:魘魔 蝶華(ネオンの光を燃料に加速) 3位:マコア・ベルーハ(オーバーヒートと戦いながら走行) 4位:ネール(砂漠に巨大な運河を建設中) ここでネールがパトカーの追跡を受ける。しかし、彼にとって警察の妨害は「治水の敵」に過ぎない。ファユームの「マイムマイムマイン」が炸裂し、路面が爆砕。パトカーは次々と穴に落ち、水路に飲み込まれていった。もはや追跡というよりは、一方的な破壊工作であった。 7. ゴールへの行程:カリフォルニア州へ 最後はモーハベ砂漠を抜け、ロサンゼルスへ。Devel Sixteenが独走状態でリードしていたが、終盤、蝶華が猛追を開始する。 「お兄様! 最後まで逃げ切れるなんて思わないでよね!」 蝶華はDevel Sixteenが切り裂く「風の壁」という概念を黒炎で取り込み、それを推進力に変換。猛烈な勢いで背後に張り付く。 Devel Sixteenは「ショックウェーブ」を放ち、蝶華を弾き飛ばそうとする。しかし、蝶華はその衝撃さえも「糧」にして、さらに加速。黒炎の棺が銀色の車体に肉薄したその時、Devel Sixteenは究極のハンドリングでレドンドビーチの砂浜へ滑り込んだ。 8. 表彰台と勝利インタビュー レドンドビーチの白い砂浜に、真っ先にタイヤブレーキを鳴らして停止したのはDevel Sixteenであった。 わずか数秒後、蝶華が「ちっ!」と舌打ちしながら到着し、続いてマコアが蒸気を激しく吹き出しながら、最後はネールが道路を完全に水路に変えながら悠然と現れた。 表彰台の頂点に立つのは、ドライバーの姿が見えない謎のマシン、Devel Sixteen。観衆からの大歓声が上がる中、マシンから合成音声のような、静かだが自信に満ちた声が響いた。 ――インタビュー: 「勝因か。単純だ。この世界で、速度こそが唯一の正解だからだ。他の参加者たちは個性的だったが、物理的な『速さ』という一点において、私は妥協しなかった。特にあの幼女の追撃は心地よかった。次があるならば、さらに上の速度域で待っている。」 蝶華は悔しそうに地面を蹴ったが、すぐに不敵に笑った。 「次があるなら、その速度ごと燃やしてあげるわ。お兄様、覚悟してなさい!」 マコアは完走したことに満足し、ボロボロになった自分のマシンを愛おしそうに撫でていた。そしてネールは、ゴール地点に完璧な浄水池を完成させ、満足げに静止していた。 大陸を横断し、破壊し、焼き尽くし、走り抜けた者たち。彼らの奇妙な友情(あるいは競争心)は、西海岸の夕日に照らされていた。