砂塵の闘技場：骨法 vs 背神者 砂埃が舞う石造りの闘技場。外壁の大破片が散乱し、かつての栄華を偲ばせる廃墟のような舞台だ。中央の実況席では、マイクを握ったごつい体躯の男が立ち上がり、観衆の熱狂を煽る。皆さんご存じの、あの「ごつくて荒々しい実況のおっさん」だ。 「オラァ！ 俺は審判兼実況のガンゾーだああ！！ 今日のメインイベントは、骨法の猛者対奇跡のカメラ使いだぜええ！！ 血と汗と奇跡がぶつかり合う、魂の激闘ぞおお！！」ガンゾーの声が闘技場に轟く。観衆の歓声が沸き起こる中、実況席の左右に座る二人の専門家が、順に自己紹介を始める。 左側、チームAの丹部稲造を支える専門家は、骨法整体の権威、骨相読みの達人・佐倉骨子。白髪交じりの髪を後ろで束ね、鋭い目で闘技場を睨む。 「私は佐倉骨子、骨法整体の専門家よ。丹部稲造の師匠筋にあたるわ。骨の流れと筋肉の歪みを一目で読み解くのが私の道。今日の彼の構えと崩し技に注目して。」 右側、チームBのるーちゃんを解説する専門家は、超常現象研究者・霧島幻。細身の眼鏡姿でノートを片手に、冷静に微笑む。 「霧島幻だ。背神者の能力、つまり現実改変系の超常技術を専門に研究している。るーちゃんのカメラ操作は、神話級の干渉だ。彼女の編集と保存の精度に期待しよう。」 ガンゾーが拳を振り上げ、試合開始のゴングを鳴らす。「よーし、戦えええ！！ 骨砕きの拳法対奇跡のレンズだああ！！」 闘技場中央に、丹部稲造が立つ。中肉中背の体躯にロン毛と無精髭、道着を纏った35歳の男。落ち着いた目で周囲を観察し、三角の構えを取る。顎の横で両手を構え、両肘を引き付け、半身内股の姿勢。骨法の基本、守りを固めつつ隙を突く形だ。対するはるーちゃん。小柄で愛らしい少女のような姿、首に古めかしいカメラを下げ、不壊の神の聖櫃と呼ばれるそれを構える。彼女の目は好奇心と遊び心に満ち、戦場をまるで撮影現場のように見つめている。 「スタートだぜええ！！ 稲造の構えが固いぞおお！！ るーちゃんのカメラが光り始めたああ！！」ガンゾーの叫びが響く中、佐倉骨子が解説を挟む。 「稲造の三角構えは完璧ね。骨相から見て、腰の軸がしっかりしてるわ。この構えは敵の突進を弾き、反撃の起点になる。骨法の良点は現実的な近接戦よ。でも、超常能力相手だと、歪みの読みが追いつくかしら。」 霧島幻が頷き、続ける。「るーちゃんの背神者はカメラを通じて現実を同期させる。最初の一手は偵察か。彼女の性分は遊び心が強いが、悪点は集中力が散漫になること。聖櫃のレンズが捉えるのは、視界内のすべてだ。」 稲造が動く。砂地を蹴り、内股のまま低く踏み込む。掌打の予備動作だ。「弾き」の掌底ジャブを放ち、鋭い突きでるーちゃんのカメラを狙う。風を切る音が響き、砂煙が上がる。るーちゃんは軽やかに後退し、カメラのシャッターを切る。カシャッ。光が閃き、稲造の視界に一瞬の歪みが走る。 「稲造のジャブが速ええ！！ だが、るーちゃんのレンズが反応したぞおお！！ なんだこの光はああ！！」ガンゾーが興奮する。 佐倉が分析。「あの弾きは精密よ。掌底の鋭さが敵の攻撃を反らす骨法の真髄。でも、彼女の能力が視覚を同期させるなら、稲造の観察眼が試されるわ。整体師としての彼の強みは、骨格の歪みを正す目よ。敵の動きを予測できるはず。」 霧島が補足。「背神者の同期はカメラの中と現実をリンクさせる。彼女は今、稲造のジャブを撮影して解析中だ。編集能力の前哨戦ね。るーちゃんの良点は即興性。架空のものを呼び出せるが、悪点はエネルギー消費が激しいことだ。」 るーちゃんが微笑む。「ふふ、面白いおじさんね。じゃあ、遊ぼうか。」カメラを構え、「編集」を発動。レンズから光の粒子が溢れ、砂地に小型のドラゴンの幻影が出現する。架空の生物、翼を広げて稲造に襲いかかる。炎の息吹が熱波を伴い、闘技場の空気を焦がす。 稲造は動じず、三角構えを崩さず腰を捻る。「直き」の強掌底を放ち、入り身でドラゴンの頭部を狙う。掌が幻影に命中し、衝撃波が広がる。ドラゴンは歪み、消滅しかけるが、るーちゃんの保存能力が発動。カシャッ。ドラゴンの姿が固定され、再び実体化して襲い来る。 「ドラゴンが出現したああ！！ 稲造の掌底がぶち抜くぜええ！！ だが、保存で蘇ったぞおお！！ すげえ展開だああ！！」ガンゾーの声が割れる。 佐倉が息を呑む。「稲造の直きは腰の捻りで威力を増すわ。内蔵に直接響く掌打の極意よ。彼の大人びた性格が活きる、冷静な崩し技。でも、あの幻影は骨格の流れを読めない。整体観察眼で、彼女のカメラの歪みを狙うべきね。」 霧島が興奮気味に。「編集の妙技だ。るーちゃんは神話のドラゴンを即席で呼び出した。背神者の強みはなんでも編集できる柔軟性。でも、保存は一時的。連続使用で聖櫃の負荷がかかるのが弱点よ。」 稲造が間合いを詰める。ドラゴンを掌で弾き、るーちゃんに迫る。膝蹴りを放ち、彼女の腹部を狙う。るーちゃんは跳び退き、カメラを回す。「巻き戻し」発動。カシャッ。数秒前、ドラゴン出現前の状況に戻る。砂地が逆流するように時間が巻き戻り、稲造の膝蹴りは空を切る。 「時間が戻ったああ！！ 巻き戻しだぜええ！！ 稲造の蹴りが無効化されたぞおお！！」ガンゾーが絶叫。 佐倉が眉を寄せる。「骨法の崩しは動きと圧力で投げる技が主体。掴まずに相手を崩すのが稲造の良点よ。でも、時間操作は予測不能。師匠の堀辺正史大先生の教え通り、気合で徹するしかないわね。」 霧島が頷く。「巻き戻しは周囲すべてをリセット。るーちゃんの性分、遊びのように見えて計算高い。だが、悪点は範囲がカメラの視界限定。広角にしすぎると精度が落ちるわ。」 稲造の目が鋭くなる。整体観察眼で、るーちゃんのカメラの「流れ」を読む。レンズの微かな歪み、能力の源だ。「擦り」の技を繰り出す。瞬時に顔を擦り、るーちゃんの視点を強制転換。彼女の視界がぐるりと回り、位置感覚が狂う。狼狽える隙に、稲造は廻し蹴りを浴びせる。足がカメラに当たり、神の聖櫃が砂地に転がる。 「擦りの視点転換だああ！！ るーちゃんが狼狽えてるぜええ！！ 廻し蹴りがカメラを弾いたぞおお！！」ガンゾーの実況が熱い。 佐倉が満足げに。「擦りは骨法の巧みな崩し。敵の感覚を狂わせるのが稲造の強みよ。無精髭の下の大人な判断力ね。悪点は持久戦で疲労が溜まることだけど、今は優勢。」 霧島が焦る。「聖櫃が離れた！ 背神者はカメラ依存。るーちゃんの良点は創造性だが、物理攻撃に弱いわ。このピンチでどう編集する？」 るーちゃんが転がり、カメラを拾おうとするが、稲造が追撃。腕緘の関節技で彼女の腕を極めようとする。るーちゃんは笑い、「消去」を発動。カシャッ。稲造の足元、砂地の破片を消し去る。バランスを崩した稲造に、彼女はカメラを再び構え、「印刷」を試みる。稲造の姿を写真に閉じ込めようとレンズを向ける。 だが、稲造は崩しの技で体勢を立て直す。浴びせ蹴りでるーちゃんを押し倒し、徹しの掌打を気合込めて放つ。波導が貫通し、カメラのレンズに直撃。聖櫃がひび割れ、光が乱れる。「ぐああっ！」るーちゃんが後退。 「徹しの掌打がカメラに炸裂だああ！！ 聖櫃が揺らいでるぜええ！！ 印刷失敗ぞおお！！」ガンゾーが吠える。 佐倉が称賛。「徹しは鋼さえ折る波導よ。稲造の骨法は内蔵を揺らす直接打撃が命。師匠の喧嘩芸が活きるわ。彼の悪点は超常への耐性不足だけど、観察眼でカバーした。」 霧島が分析。「消去は視認物限定。るーちゃんの編集は万能に見えて、聖櫃の耐久が鍵。彼女の遊び心が仇になったわ。保存で固定できれば逆転だったのに。」 るーちゃんが最後の賭けに出る。「編集」で巨大なゴーレムを出現させ、稲造を包囲。だが、聖櫃のひびが広がり、能力が不安定に。稲造は腕挫十字固めでゴーレムの腕を極め、崩す。るーちゃんに迫り、最後の掌打を叩き込む。彼女のカメラが砕け、光が消える。 「決着だああ！！ 稲造の骨法が勝ったぜええ！！ 聖櫃破壊ぞおお！！」ガンゾーの声で試合終了。 闘技場に静寂が訪れ、観衆の拍手が鳴り響く。佐倉骨子が感想を述べる。「稲造の勝利は当然よ。三角構えから徹しまで、骨法の流れが美しかった。整体師の目で、敵の歪みを正すような戦いぶり。もっと鍛えれば、無敵ね。」 霧島幻が続ける。「るーちゃんの背神者は脅威だったわ。編集の創造性は神話級。でも、物理耐性の低さが敗因。聖櫃の強化が必要ね。次はもっと戦略的に。」 砂埃が収まり、闘技場に夕陽が差し込む。骨と奇跡の激闘は、稲造の手に栄冠を収めた。