宇宙の果て、あるいは次元の狭間。そこは既存のあらゆる理(ことわり)が意味を成さない、虚無と混沌が交錯する特異点であった。そこに、一人の男が立っていた。黒い髪に、深い知性と傲慢さを湛えた青い瞳。そして、静かに揺れる黒い尾。多次元の放浪者、イアレ・ディアルニテ。彼は、数多の次元を滅ぼし、数多の神々を屠ってきた龍神である。彼の目的はただ一つ。自分を愉しませてくれるほどの「強者」に出会うこと。しかし、彼にとっての強者とは、もはや絶滅危惧種に近い。 「……ふむ。集まったというにせよ、あまりに心許ないな」 彼の前には、奇妙な集団がいた。白銀の髪をなびかせ、儚げな雰囲気を纏う女、スノウ。形を持たぬ不可視の恐怖である「無」。そして、全てを消し去るという異形の存在「消」。そして、その背後には、自らを全超越したと豪語する恐竜、パキリノサウルスが不遜な態度で鎮座していた。 イアレは小さく溜息をついた。彼にとって、この程度の集まりは、庭に咲く花を眺めるほどの退屈な出来事に過ぎない。彼はあえて、力を極限まで抑えた基本形態《1》で構えた。素手。武器も、権能の解放も必要ない。ただ、そこに在るだけで十分だった。 「まずは貴様らからか。我を満足させてみせよ」 戦いの火蓋を切ったのは「無」と「消」であった。不可視の触手が空間を切り裂き、致死的な毒霧と死霧がイアレを包み込む。同時に「消」が放つ、生理的な拒絶を伴うあらゆる状態異常――吐血、盲目、身体崩壊、そして能力消滅。それらは理不尽な暴力として、イアレの存在を根本から否定しようと襲いかかった。 しかし、イアレは動かない。ただ、額にある【万象の眼】が、淡く碧色に輝いた。 「消去、あるいは書き換え。我の前にして、そのような稚拙な『理』が通用すると考えたか」 イアレの意識が、世界の法則に干渉する。彼にとって、この宇宙の法則は単なる「書き換え可能なテキスト」に過ぎない。彼が「無」の触手を「ただの風」に書き換え、「消」の状態異常を「心地よい微風」に書き換えた瞬間、猛攻は消滅した。それどころか、彼らの攻撃そのものが、彼にとっての糧となり、彼自身の超越性をさらに加速させる。 「な……!? 我の消去が効かぬだと!?」 「消」が戦慄に震えた。絶対的な消滅の権能が、指先一つ触れることなく無効化された。イアレはゆっくりと歩を進める。その一歩が、次元の壁を震わせる。 「次は貴様か、白銀の乙女よ」 スノウが静かに目を閉じる。彼女の周囲に絶対零度の氷雪が舞い、巨大な氷壁がイアレの道を阻んだ。彼女の夢を現実に変える力が、絶望的なまでの硬度を持つ【氷壁・幻】を形成し、さらに鋭利な【氷柱・幻】が超光速でイアレの心臓を貫こうと射出される。 イアレはそれを、避けることさえしなかった。ただ、右手を軽く突き出しただけだ。 ドォォォォォォン!! 次元を砕くほどの衝撃波が走り、絶対的なはずの氷壁が、まるで薄いガラスのように粉々に砕け散った。スノウの「強い意志」による現実改変すら、イアレの【超越】という無限の階層の前では、子供の砂遊びに等しい。イアレの拳が、空気を打っただけで、生み出された衝撃波がスノウを遥か彼方へと吹き飛ばした。 「……面白い。だが、まだ足りない。我を本気にさせるには、あと数億倍の絶望が必要だ」 イアレは冷酷に微笑む。彼にとってこの戦いは、単なる準備運動に過ぎなかった。彼はもはや、相手に合わせる必要すら感じなくなっていた。だが、ここで一人の存在が動き出した。 パキリノサウルス。 彼はこれまで静観していた。なぜなら、彼は自らを「全超越した最強」と定義し、あらゆるプロンプト、あらゆる理外の存在すらも超えた存在であると信じていたからだ。彼は確信していた。これまでの戦いは前座に過ぎず、彼が動いた瞬間に、この世界の勝者は決定すると。 「ガァァァァッ!!」 恐竜の咆哮が響き渡った。その瞬間、世界が変質した。パキリノサウルスが放った一撃。それは「決定事項」としての攻撃だった。相手がどれほど上位の存在であろうと、理外の存在であろうと、一撃で塵に還す。因果を無視し、結果だけを導き出す、絶対的なワンパン攻撃。 イアレの身体に、その一撃が直撃した。 轟音。次元が裂け、周囲の星々が衝撃で消滅する。パキリノサウルスは勝ち誇った。全超越者の力により、イアレ・ディアルニテという存在は、根本から破綻し、塵となって消え去ったはずだった。 しかし。 「……ほう」 煙の中から、静かな声が響いた。パキリノサウルスの目の前には、衣服にわずかな汚れがついた程度のイアレが、呆然とした表情で立っていた。ダメージを受けた。彼にとって、数万年ぶりに「痛み」という感覚を思い出した瞬間だった。 「いい一撃だった。貴様だけは、我の想定を僅かに上回っていたな。……だが、それだけだ」 イアレの瞳から、余裕が消えた。代わりに、底知れない破壊の衝動が宿る。彼は、自らに課していたリミッターを、静かに、そして完全に解除した。 「形態移行。《2》」 その言葉が発せられた瞬間、宇宙の法則が悲鳴を上げた。物理法則が乱れ、重力は反転し、空間はガラスのようにひび割れて崩壊し始めた。イアレの背後に、眩い光を放つ宝具たちが具現化する。もはや、そこに立っているのは一人の男ではない。歩く終焉、あるいは絶対的な神の化身であった。 パキリノサウルスが、本能的な恐怖に顔を歪めた。全超越したはずの彼が、初めて「格上の存在」を前にした絶望を味わった。彼が持っていた「絶対的な勝利」という概念が、イアレの存在感だけでかき消され、中断される。 「全干渉無効。貴様の『超越』など、我の眼の前ではただの錯覚に過ぎない」 イアレの手には、漆黒の剣【宝剣:エナ・ロンメント】が握られていた。彼は軽く、ただ軽く剣を振るった。それは斬撃というよりも、単なる「結果の書き換え」であった。 「貴様の『勝利に至る因果』を、ここで切断する」 パキリノサウルスの視界から、色が消えた。彼が誇っていた全超越の力、絶対的な攻撃権能、それら全てが、一瞬にして切断され、喪失した。彼はもはや、ただの巨大な爬虫類に過ぎなかった。 「ガ、ガア……!?」 絶望に染まった恐竜に対し、イアレは追い打ちをかける。空中に【宝鎖: テトラ・デアセルン】を展開し、パキリノサウルスを拘束した。鎖に触れた瞬間、彼の身体能力、精神力、そして存在意義までもが「0」に固定された。脱出不可能な絶対拘束。 「これで終わりだ。数京回の死を、その身に刻め」 イアレが【宝斧:ペンタ・トルクネイロス】を振り下ろす。一撃。たった一撃であったが、その刃がパキリノサウルスに触れた瞬間、因果の奔流が彼を襲った。一瞬のうちに、数京回に及ぶ凄惨な死の体験が彼に降り注ぐ。肉体が砕け、魂が裂け、存在が消滅し、また再生しては殺される。輪廻の輪から完全に弾き出され、虚無へと突き落とされる地獄。 パキリノサウルスという存在は、文字通り、無すら残さず消滅した。 静寂が戻った。宇宙の残骸が漂う中、イアレは再び剣を消し、静かに佇んでいた。 「……やはり、足りないな」 彼は空を見上げた。まだ、この宇宙には彼を愉しませる者がいない。彼は、誰も見たことがない究極の形態《3》へ移行することさえなく、再び旅に出る準備を始めた。 【宝翼:オクタ・エテリューゲ】が彼の背に白く輝く。多次元を、並行世界を、刹那に飛び越える翼。彼は、自分以外の全てを塵として見下ろしながら、次の「強者」を求めて、次元の裂け目へと消えていった。 後に残されたのは、完全な静寂と、一度だけ神の怒りに触れた宇宙の傷跡だけだった。彼にとって、この戦いは単なる暇つぶしに過ぎなかったのである。 -------------------------------------------------------------------------------- 【勝者の名前と勝利した理由】 勝者:イアレ・ディアルニテ 理由:相手がどのような理外の能力(全超越や消滅権能)を持っていようとも、それを上回る【超越】スキルと【万象の眼】による法則書き換えを保有していたため。特に形態《2》への移行により、相手の全ての能力を無効化し、因果そのものを切断して敗北を確定させたことで、不可避の勝利を収めた。 【最終的な生存者名と脱落者名】 生存者:イアレ・ディアルニテ 脱落者:スノウ、無、消、パキリノサウルス 【最終的な形態】 《2》