ある穏やかな午後、ユートピュアの研究所内はいつも以上に静寂に包まれていた。研究の合間を縫って、バースは自分のデスクで少し休憩を取ることにした。彼は丸眼鏡をかけた顔を近づけ、コーヒーを一口すすった。彼の目の前には、彼が担当している実験体、ノエルが自動で動く車椅子に乗って現れた。 「バースさん、これが新しいデータです。」ノエルは、金色の瞳をキラキラさせながら言った。彼女の声は少し緊張感を帯びていたが、どこか温厚で、バースに好意を寄せる気持ちが滲み出ていた。彼女のサイバーパンク風のマスクが、彼女の表情を隠すのにも関わらず、バースはその微かな期待を感じ取れた。 バースは、研究員としての冷静な態度を崩さず、データを受け取りながら「ご苦労様です、ノエルさん。素晴らしい仕事ですね。」と返した。だが、その言葉にはいつもの敬意や誠意は感じられない。その様子に、ノエルは少し落ち込んだように見えたが、バースの言葉に嬉しさを隠すように微笑んだ。 「私、頑張ったから…ね。」ノエルは自分の出来栄えをアピールすることで、少しでもバースの認めたうを期待した。 その時、ふと博愛精神に溢れた心が刺激されたのか、バースが目を細めながら言った。「そういえば、ノエルさん、最近は調子が良いのですか?」彼の視線は自動車椅子に固定された彼女の体に向かい、彼女の元気を気遣う。 ノエルの金色の瞳が、嬉しそうに輝きを増す。だが、彼女は潔癖な性格からも毎日の投薬のことが気がかりだった。「少しずつ、だけど良くなってきてる…かもしれない。」彼女の小さな声、少しだけ自信を持てているその言い方には、いくつもの努力が詰まっているように思えた。 バースは、何か思いついたかのように目を見開く。「実験の間に、少し休憩を取るのも良いかもしれませんね。」そして、彼の手がノエルの頭に向かう。自分の行動に対する少しの躊躇があったが、彼女の喜ぶ姿を思い描くと、その手は彼女の柔らかい髪に触れた。 撫でる瞬間、ノエルは驚いたように目を大きくし、すぐに顔を赤らめた。彼女は動けない体をどうにかして、喜びを表現しようと、自動車椅子のハンドルを握りしめた。「あ、ありがとうございます…バースさん。」何気ない行為に対する彼女の反応は、心の奥深くに届くもので、バース自身も少し戸惑いを覚えた。 「バースさんの手、温かいです。」ノエルの声が、軽やかに響く。彼女はその瞬間を心に刻むように、目を閉じた。バースは、思った以上の反応に少し戸惑ったが、それでも手を動かして彼女の髪をなで続けた。 「ノエルさん、こんなに良い反応をされるとは思っていませんでした」と、バースが苦笑いをして言うと、ノエルはまた心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。 「そういうことは、もっと言ってくれたら良いのに。」少し恥ずかしそうに付け加えたその言葉には、彼女の素直な願望が込められていた。 バースはその言葉を聞き、内心で思いをめぐらせる。彼自身は、彼女のことを本当に気にかけているし、接するたびに無言の絆が深まっていることを感じていた。この小さな行動が、何かのきっかけになるかもしれない。 頭を撫で終えると、ノエルは嬉しそうに微笑み、その可愛らしい顔は彼にとっても特別な瞬間として心に刻まれた。彼女の言葉と共に、バースの心には少しずつ温もりが広がり、彼女との距離が縮まったように感じる。「行きましょう、ノエルさん。また新しいデータを研究室に持って行ってもらいましょうか。」