第一章:最悪のパーティと凍てつく門扉 深夜、月さえも厚い雲に遮られた森の奥。そこには、見る者の精神を削るような陰惨な空気を纏った巨大な屋敷が佇んでいた。この屋敷に眠るお宝を集め、最低15,000ゴールド分を持ち帰ることができれば成功。だが、一歩足を踏み入れれば、そこは理不尽な死(気絶)が待ち受ける迷宮である。 そこに集められたのは、およそ「協力」という言葉から程遠い、あまりに不釣り合いな四人の男女(および一匹のスライム)であった。 「……ふふ、人間界の『お宝探し』という文化には興味がありますね。精一杯、頑張らせていただきます」 そう微笑むのは赤髪の美少女、マヲミ。見た目は可憐だが、その正体は世界を恐怖に陥れた元大魔王である。背中には身の丈ほどもある巨大な大剣を背負い、Tシャツの裾が長すぎて下半身が完全に見えないという、少々奇妙な格好をしていた。 「(プルプルプル……!)」 彼女の足元で激しく震えているのは、体長30cmの銀色スライム、ヘタスラ。知性は人類と同等だが、その精神はガラス細工よりも脆い。彼はすでにこの屋敷の雰囲気に絶望し、脱出ルートを計算しながら全力で震えていた。 「……」 そして、空間がノイズのように歪み、一人の少年が現れる。B氏。パーカーに長ズボンという地味な格好だが、その姿は絶えずバグったようにブレており、足元には破壊不能の鎖が絡みついている。彼の手には、本来武器であるはずのものが「気の棒(ただの棒)」に変換され、虚しく握られていた。 「おい、いつまで突っ立ってる。さっさと入るぞ。俺は金さえ手に入れば、この不気味な場所からすぐに消えたいからな」 不機嫌そうに言い放つのは、狐の耳と尾を持つ男、フォクスティア。強欲の化身である彼は、他人から力を奪うことに快感を覚える性質を持っており、すでに仲間たちの能力をどうやって奪うか、その計算に没頭していた。 屋敷の扉を開いた瞬間、刺すような冷気が一行を襲った。骨の髄まで凍りつかせるような寒さだ。指先は悴み、足取りは重い。この「寒さ」こそが、この屋敷に潜む最初の罠であることを、彼らはまだ知らなかった。 第二章:静寂の廊下と青い影 屋敷の内部は、贅沢ながらもひどく荒れ果てていた。至る所に埃が舞い、壁紙は剥がれ落ちている。一行は慎重に、しかし欲に突き動かされて探索を開始した。 「あ、あそこに何かあります!」 ヘタスラが震えながら指差したのは、サイドテーブルに置かれた金色の花瓶だった。マヲミがそれを手に取り、鑑定する。 「これは……3,000ゴールドほどの価値がありそうですね」 「チッ、安いな。もっとデカいのが必要だ」 フォクスティアが舌打ちしたその時、廊下の突き当たりに「それ」が現れた。青い服を着た、小さな少年人形。ロタである。人形は無機質な顔で、カチ、カチと関節を鳴らしながら、ゆっくりと、しかし確実に彼らに近づいてくる。 「な、ななな、なにあれ!? 来る! 来てる!!」 ヘタスラが絶叫し、文字通り弾丸のような速度で後退した。あまりの恐怖に「ヘタレ心」が発動し、彼は物理法則を無視して壁をすり抜け、隣の部屋へと逃げ出した。 「ふむ。人形ですか。私が斬り伏せましょう」 マヲミが大剣を抜き放とうとした瞬間、B氏がボソリと呟いた。 「……無理。倒せない」 B氏の言葉は正しかった。この屋敷の住人は不滅であり、攻撃は一切通用しない。ロタが距離を詰め、冷たい指先がマヲミに触れようとしたその時、B氏のパッシブスキルが発動した。空からランダムに「大量のキャンプファイヤー用薪とライター」が降ってきたのである。 「えっ?」 困惑する一同だったが、フォクスティアが素早くライターで火を点けた。激しい炎が上がると、ロタは悲鳴さえ上げず、猛烈な勢いで後ずさりし、闇の中へと消えていった。火を極端に嫌うという弱点を、運良く突いた形だ。 「ふぅ……。危ないところでしたね。Bさん、変なものを降らせる能力は意外と役に立ちますね」 「…………」 B氏は無言で、足元の鎖を引きずりながら歩き出した。 第三章:見えない弾丸と氷の牢獄 一行は二階へと上がり、さらに高価な宝物を求めた。豪華なシャンデリア、銀の食器セット、宝石が埋め込まれた鏡。彼らは貪欲にそれらをかき集め、合計額はすでに12,000ゴールドに達していた。 しかし、屋敷の「状態」が彼らを追い詰める。寒さは増し、指先が感覚を失い、単純な歩行さえも困難になってきた。特にB氏の動きは鈍くなり、鎖が床に擦れる音が不気味に響く。 (ドォォォン!!) 突如、壁を突き破って巨大な氷の塊が飛んできた。壁を貫通して攻撃してくる魔導士の霊、ナイメの仕業だ。 「きゃあああ!?」 ヘタスラが再び叫び、超高速で回避する。しかし、不運にもフォクスティアがその衝撃に巻き込まれ、壁まで吹き飛ばされた。ナイメはワープを繰り返し、至る所から氷魔法を乱射する。回避不能の広範囲攻撃に、一行はパニックに陥った。 「いけない! 皆さん、私の後ろに!」 マヲミが大剣を盾にし、大魔王時代の強靭な防御力で氷の礫を弾き返す。しかし、ナイメの攻撃は止まらない。さらに、彼らが逃げ込んだ部屋の四隅に、ぼんやりと青白く光る氷の幽霊、オビスが静止していた。 「なっ、いつからそこに!?」 オビスの能力が発動する。周囲の空気が一瞬で絶対零度となり、参加者たちの足元から凍りつき始めた。身体が動かない。寒さで悴んでいた体に、トドメを刺すような凍結が襲う。 「くっ……! 身体が……!」 フォクスティアがもがくが、氷は容赦なく彼を飲み込んでいく。一方、B氏はそのバグった特性により、凍結の判定をわずかに「すり抜けて」いた。彼は無表情に、凍りつきかけたマヲミとフォクスティアを見た。 だが、ナイメの最後の一撃がB氏の頭上から降り注ぐ。氷の槍がB氏の身体を貫いた。 (ガシャン!!) B氏は一撃で気絶した。同時に、意識を失ったフォクスティアと、氷漬けになったマヲミが、静寂の中に沈んだ。生き残ったのは、別の部屋に逃げ込んで震えていたヘタスラのみ。しかし、彼一人では脱出条件の15,000ゴールドを集めることはできず、また扉を開ける力もない。 ……はずだった。 第四章:時を戻すバグと、強欲の末路 (――リセット) 世界が巻き戻った。B氏の固有スキル「コンティニュー」である。彼は倒された瞬間、時間を巻き戻し、最初からやり直す。ただし、敵の行動パターンは変わらない。 B氏は意識の中で、ナイメの攻撃タイミングとオビスの配置を「学習」した。二度目の挑戦。一行は前回よりもスムーズに宝を集め、合計額は18,000ゴールドまで跳ね上がった。 「よし、これで十分だ。さっさと出るぞ!」 フォクスティアが叫ぶ。しかし、彼の中の強欲が疼いた。もう一つ、あそこにある「伝説の黄金杯」を手に入れれば、さらに財産が増える。彼は仲間の制止を振り切り、一人で奥の部屋へ飛び込んだ。 それが、最大のミスだった。 暗闇から、地響きと共に巨大な影が飛び出した。獰猛な猪、ヒボである。ヒボは一切の迷いなく、フォクスティアに突撃した。 「ぐあああ!?」 一撃。文字通り、一撃でフォクスティアは気絶した。そして、ヒボは習性に従い、気絶したフォクスティアの首根っこを咥えると、猛烈な速度で屋敷の深淵へと運び去った。 「ああっ! フォクスティアさんが!!」 マヲミが叫ぶが、ヒボに追いつくことはできない。ルールは残酷だ。ヒボに運び去られた者は、その時点で脱出失敗となる。 残されたのは、マヲミ、B氏、そして相変わらず震えているヘタスラ。彼らは絶望的な状況の中、なんとか入り口へと走り出した。背後からはナイメの氷魔法が降り注ぎ、オビスの凍結が彼らの足を止める。 「走ってください! Bさん、ヘタスラさん!!」 マヲミが二人の腕を掴み、大魔王の身体能力で強引に疾走する。B氏は足元の鎖に躓きそうになりながらも、テレポートを駆使して距離を詰め、ヘタスラは恐怖のあまり時速100kmで転がりながら出口へ向かった。 (ドン!!) 扉を突き破るようにして、三人は深夜の森へと転がり出た。背後で屋敷の扉が重々しく閉まる。彼らは生き延びた。そして、マヲミが抱えていた袋の中には、かき集めたお宝がぎっしりと詰まっていた。 エピローグ 月明かりの下、三人は激しく息を切らしていた。 「……ふぅ。人間界のレクリエーションは、刺激が強すぎますね」 マヲミはTシャツの裾を直し、苦笑いした。ヘタスラは地面にへたり込み、銀色の体を波打たせて号泣している。B氏は相変わらず無口に、自分の手にある「気の棒」を眺めていた。 彼らは最低限の目標金額を大きく上回るお宝を持ち帰ることができた。しかし、その代償として、強欲に心を染めていた狐の男は、猪に運ばれ、屋敷のどこか暗い場所で心地よい眠り(気絶)についていた。 後日、フォクスティアは屋敷の掃除担当の幽霊によって、玄関先まで丁寧に「返却」されたという。 【ゲーム結果】 脱出成功者: マヲミ、B氏、ヘタスラ 脱出失敗者: フォクスティア(ヒボにより運び去られたため) 集めたお宝総額: 18,000ゴールド