無数の顔を持つ影と三つの刃 暗黒の荒野に、風が唸りを上げていた。空は鉛色に染まり、地面はひび割れた大地が果てしなく広がる。そこに佇むのは、【変異体】ヴァリアント。無数の顔面が集合した異形の存在。男の顔、女の顔、少年少女の顔、老人の顔が、うねうめく肉塊のように蠢き、それぞれが異なる声で囁き合う。 「ふふ、来るのか?」「お前たち、何者だ?」「面白そうだな……」 対峙するのは三つの影。【奇しき者】刃は、龍の角を生やし、白い翼を広げた男性の姿。黒髪が風に揺れ、白眼が鋭く光る。隣に【不迷】、どす黒い積乱雲が超巨大に渦巻く存在が、空を覆うように浮かぶ。そして【條羅 扒哉】、蒼髪の麗人で狐尾を揺らし、黒刀を携えた無口な男。 戦いは、瞬時に始まった。 刃が先陣を切る。敵の動きを常時解析し、瞬時超再生を備えた不撓不屈の体躯が、ヴァリアントの無数の顔に迫る。「最適解を見極める」刃の白眼が閃き、【重刃】を発動。両腕を交差させ、ヴァリアントの蠢く顔面の隙を刹那に看破。一閃が放たれ、肉塊を両断する! ヴァリアントの顔々が悲鳴を上げる。「ぐあっ!」「痛いじゃないか!」しかし、傷は即座に再生。無数の人格が会話し、刃の攻撃を軽く対処する。「あれは予測通り」「力強いな、理解度20%」顔の一つ、老人のような声が呟く。刃の猛攻は、ヴァリアントの片手間で受け流され、利用されて反撃の隙を生む。 扒哉が動く。無口に黒刀を構え、【糸菱】を放つ。触れると糸が吹き出し、場に撒菱を漂わせる。ヴァリアントの動きを一切止めようと、狡猾に糸を絡め取る。「……」扒哉の怜悧な目が、敵の隙を計算。続けて【玖流牙突】、激流の如き九連続の突きがヴァリアントの急所を貫く! 受け流しつつ、肉塊を切り裂く。 「くっ、巧妙だ」「理解度40%、面白い」ヴァリアントの少年の顔が笑い、女の顔が嘲る。無数の手が糸を払い、突きを軽く逸らす。参加者の猛攻を、対話の片手間で処理。雲の【不迷】が静かに介入。どす黒い積乱雲が広がり、溶けかけた形状でヴァリアントを包み込む。全てのステータス不明の存在が、静かに圧力をかける。 ヴァリアントの顔々がざわめく。「これは……重い」「理解しにくいぞ、50%」不迷の雲は、触れるものを蝕み始める。ヴァリアントの肉塊がわずかに溶け、塵と化す粒子が舞う。しかし、ヴァリアントは耐え、顔を増やして対抗。「お前は何だ?」「喰らう気か?」 戦いは激化。刃が敵の絶技を受け、絶命寸前に追い込まれる。ヴァリアントの無数の顔が一斉に襲いかかり、刃の翼を裂き、鉤爪を折る。「終わりだな」老人の顔が宣告。だが、刃は逆境を超克。超覚醒し、秘技【月華之舞】を発動! 流れるような斬撃の舞がヴァリアントを包む。敵の能力を凌駕し、完膚なき殲滅を試みる。肉塊が次々と斬り裂かれ、顔々が絶叫。「ぐああ!」「理解度70%……!」 扒哉も瀕死に。ヴァリアントの反撃で上半身が焼け、狐尾が焦げる。覚醒の【死中の真意】が発動。相手の攻撃を総て看破し、隙を創出。奥義【宵】、黒き刀の一太刀が刹那に数多の斬撃となり、ヴァリアントを超克しようとする。「……讃える価値あり」扒哉の稀な呟き。 不迷が本領を発揮。刃と扒哉の絶命の瞬間、不明の力が現れる。雲がヴァリアントを覆い、全てを心の底から畏怖させる。抗うことを忘れさせ、喰らい、超克し、滅亡の限りを尽くす。ヴァリアントの顔々が蝕まれ、解かれ、再生虚しく塵も残らず喰われる。「こ、これは……理解度90%」「いや、待て……!」無数の人格が混乱し、会話が途切れる。 しかし、理解の瞬間が訪れる。ヴァリアントは参加者の為人を、対話と猛攻の片手間で完全に把握。理解度100%。最後の攻撃――不迷の不明がヴァリアントに迫る刹那、新たな顔が発生。刃の白眼を映した顔、扒哉の蒼髪を模した顔、不迷のどす黒い雲を宿した顔が、肉塊に生まれる。「私はお前たちだ」「……最適解はこれか」「不明……終わり」 人格が参加者と等しくなり、喋り始める。ヴァリアントの姿は変わる。新たな顔々が加わり、無数の集合体はより巨大に、圧倒的に。全て理解したヴァリアントの前に、参加者たちの足掻きは歯が立たず。刃の舞は受け流され、扒哉の斬撃は無効化、不迷の雲は逆に吸収される。傷一つつけられず、一方的に屠られる。 刃の翼が引き裂かれ、白眼が曇る。「不可能……」扒哉の黒刀が折れ、狐尾が塵と化す。「……讃美を」不迷の雲が溶け、消滅の淵に。「不明……」 戦闘終了。在るのは、新たな人格と顔が増えたヴァリアントのみ。 勝者: ヴァリアント