喫茶店Dallas――「ヨシ!」は確認の言葉ではない 昼下がりの喫茶店「Dallas」。窓辺には陽だまり、カウンターには焼きたてのワッフル、そしてテーブルにはギャグ漫画とスマートフォンが広がっていた。 緑髪のツインテールを揺らしたライムちゃんは、虹色のペンを胸ポケットに差したメイド服姿で、ソシャゲの画面を見つめている。 ライムちゃん「うにゃー! イベント限定の猫耳メイド、あと一回で引けるにゃん! でも、その一回を回すと今日のおやつ代が……」 ごついおっさん「人生には、引くべき時と引かざるべき時がある。若い頃、王宮の剣士仲間にもよく言ったものだ」 ライムちゃん「じゃあ、おっさんは引くべき時だと思う?」 ごついおっさん「お前さんの場合、まず財布を確認すべき時だな」 ライムちゃん「正論が鋭いにゃー!」 カウンターの奥では、頭に魚を載せた三毛猫の店主、マスターDが丸眼鏡をくいっと上げた。 マスターD「本日のおすすめは、ふわふわホットケーキと、魚……ではなく、魚を見ながら飲むブレンドコーヒーだよ。魚はメニューに含まれないからね」 頭の魚「……」 マスターD「魚も、そう言っている」 ライムちゃん「魚さん、何も言ってないにゃん!」 そこへ、金髪のロングカーリーを揺らしたレモンちゃんが、学校帰りに店へ入ってきた。中学三年生の彼女は、きちんと制服を整え、魔法の杖を小さなケースにしまっている。 レモンちゃん「ただいまー。お姉ちゃん、またガチャで悩んでるの?」 ライムちゃん「悩んでるんじゃないにゃん。運命と相談してるの!」 レモンちゃん「運命に課金の相談をするな!」 ごついおっさん「おお、今日もいい切れ味だ。剣を持たずに場を整えるとは、見事なものだな」 レモンちゃん「褒められても、ハリセンは出しませんからね」 レモンちゃんは店員用のエプロンをつけると、指先で小さく花の魔法を灯した。テーブルに淡い光が広がり、花びらの形をしたメニュー札がふわりと浮かぶ。 レモンちゃん「本日のおすすめです。ホットケーキ、レモンティー、季節のフルーツパフェ。ご注文はお決まりですか?」 ライムちゃん「ホットケーキとレモンティー! あと、グミをトッピングに……」 レモンちゃん「それはメニューにありません」 ライムちゃん「虹のペンで描いたら、あることになるにゃん!」 ライムちゃんは虹色のペンを取り出し、メニュー札の端に、ぷるぷるしたグミを描いた。すると、描かれたグミがぽんっと実体化して、ホットケーキの横にころんと並ぶ。 マスターD「おや、材料費の帳尻が合わなくなったね」 ライムちゃん「一本のペンで、おやつが一個増えたにゃー!」 レモンちゃん「便利さの説明より、勝手に増やしたことへの説明をしてください!」 ライムちゃん「えへへ、あとでお皿洗いするにゃん!」 その時、店のドアが勢いよく開いた。入ってきたのは、若く美しい女性、クミ。彼女は申し訳なさそうに、しかし太陽のような笑顔で頭を下げた。 クミ「こんにちは! 私、アルバイトの面接に来ました。履歴書を持ってきたんです。ヨシ!」 レモンちゃん「履歴書を持ってきた時点で『ヨシ!』と言うのは、まあ大丈夫です」 クミ「よかった! 実はさっき、履歴書を持ったまま道に迷って、近くのお店に置いてきちゃったんです」 レモンちゃん「何が大丈夫なんですか!?」 クミ「でも、あのお店の店長さんが『うちで働かない?』って言ってくれて。すごくいい方でした!」 マスターD「クミさんは、どこへ行っても気に入られるんだねえ」 ごついおっさん「その笑顔なら、王宮の門番も通してしまいそうだな」 クミ「ありがとうございます! それで、こちらのお店でも働けますか?」 マスターD「もちろん。うちは人手があると助かるからね。レモンちゃんも、特例でお手伝いしてくれているし」 レモンちゃん「私はちゃんと仕事してますからね。クミさんも、まずは簡単な注文をお願いします」 クミ「はい! お任せください。注文を取って、厨房に伝えればいいんですね。ヨシ!」 ライムちゃん「なんか今、ちょっと不安なヨシだったにゃん」 クミは伝票を手に、ライムちゃんたちのテーブルへ向かった。 クミ「ご注文は、ホットケーキ一つ、レモンティー一つ、フルーツパフェ一つですね!」 ライムちゃん「私はホットケーキとレモンティーに、描いたグミもだよー」 クミ「はい! ホットケーキ、レモンティー、フルーツパフェ、グミ……ヨシ!」 レモンちゃん「今度はちゃんと復唱できてますね」 クミは伝票を厨房へ運び、注文を確認しようとした。ところが、伝票の裏に描かれた小さな魚の絵を見つける。 クミ「あれ? これは何の印でしょう?」 マスターD「私の魚の似顔絵かな」 クミ「なるほど! 魚料理の注文ですね。ヨシ!」 レモンちゃん「魚料理、メニューにありませんよ!」 クミ「では、マスターに確認してきます!」 クミは厨房に行く途中、店内の予約台帳を見つけた。お店の大事な予定が書かれた台帳だ。 クミ「あっ、これも注文の控えかもしれません。お客様のために、分かりやすく整理しておきますね!」 彼女は台帳を開き、伝票を挟んだ。そして、ページの余白に大きく『ヨシ!』と書いた。 マスターD「その台帳は予約管理用だよ」 クミ「えっ! そうなんですか? ごめんなさい。ちゃんと元に戻しますね!」 レモンちゃん「ページの間に伝票を挟んだだけなら、まだ間に合います!」 クミ「はい! 元に戻します。ヨシ!」 クミが台帳を閉じると、伝票が風に乗ってひらりと舞い上がった。店内の扇風機がちょうど動き出し、伝票はカウンターの上を滑っていく。 ライムちゃん「注文が空を飛んでるにゃー!」 レモンちゃん「空を飛んでるのは伝票です! 注文は厨房にあります!」 伝票はマスターDの頭に、魚の横へぴたりと着地した。 マスターD「ふむ。魚が予約伝票をかぶったね」 ごついおっさん「帽子が二段になったな」 クミ「わあ、かわいい! ヨシ!」 レモンちゃん「かわいいで済ませないでください!」 レモンちゃんは白い魔力を指先に集め、空中に小さな三次元の鳥を作り出した。鳥は伝票をくわえて、クミの手元へ運んでくる。 レモンちゃん「夢を形にする3D魔法です。これで伝票を回収できました」 ライムちゃん「すごい! じゃあ、グミを運ぶ鳥も作ってほしいにゃん!」 レモンちゃん「まずは注文を間違えない鳥を作りたいです!」 クミ「ありがとうございます。今度こそ、注文を伝えますね!」 クミは伝票を持って厨房へ行き、慎重に注文を伝えた。数分後、テーブルにはホットケーキ、レモンティー、フルーツパフェ、そしてライムちゃんが描いたグミが並んだ。 ライムちゃん「やったー! いただきますにゃん!」 レモンちゃん「クミさんも一緒に休憩しましょう。初仕事、お疲れさまです」 クミ「ありがとうございます! 私、ちゃんとできたんですね。ヨシ!」 マスターD「注文は少し遠回りしたけれど、最後には届いたからね。お客さんも喜んでいるし、よしとしよう」 ごついおっさん「店の者たちが笑っている。いい一日だ」 ライムちゃん「そうそう、喫茶店はおいしいものと楽しい会話があれば大成功だにゃー!」 クミ「じゃあ、後片付けも頑張ります! 食器を洗って、台帳も洗えばいいんですよね? ヨシ!」 レモンちゃん「台帳は洗わないでください!」 クミ「えっ、紙なのに?」 レモンちゃん「そういう問題じゃありません!」 マスターDは慌てず、クミに乾いた布巾を渡した。ごついおっさんは、昔の剣士仲間に話すような顔でうなずく。 ごついおっさん「今日の教訓はひとつ。何かを洗う前に、まず素材を確かめろ」 ライムちゃん「そしてガチャを回す前に、お財布を確かめるにゃん!」 レモンちゃん「それは今日の最初から言ってます!」 店内に笑い声が広がる。頭の魚は、いつの間にか伝票を帽子のように載せたまま、のんびり目を閉じていた。 --- 喫茶店から出る際の注文・お会計 - ライムちゃん - 注文内容:ホットケーキ 1皿、レモンティー 1杯 - 追加:虹色のペンで実体化させたグミ 1個(店内で作成・追加料金なし) - 支払金額:1,000円(ホットケーキ700円、レモンティー300円) - レモンちゃん - 注文内容:フルーツパフェ 1個 - 支払金額:650円 - クミ - 注文内容:レモンティー 1杯 - 支払金額:300円 - 合計 - 注文内容:ホットケーキ 1皿、レモンティー 2杯、フルーツパフェ 1個、実体化したグミ 1個 - 支払金額:1,950円