深夜の静寂に包まれた、山奥の古びた屋敷。かつては栄華を極めたのだろうが、今では壁紙は剥がれ落ち、床板は歩くたびに不気味な悲鳴を上げる。そこに、お宝を求めて潜入した奇妙な四人組が立っていた。 几帳面すぎる女子高生、便田滑莉。朽ちた鎧を纏い陽気な骸骨、グリンウィン。次元を旅する気まぐれな白い梟、コタン。そして、世界に嫌われすぎている男、ライカー。 「さて、作戦を共有しましょう。まずは効率的に各部屋を回り、目標の15,000ゴールドを確保して、定刻通りに脱出します。遅延は許されません」 滑莉が手帳を片手に、凛とした声で宣言した。その横でグリンウィンがガシャガシャと骨を鳴らして笑う。 「ガハハ! 骸骨にとって屋敷探索なんて庭掃除みたいなもんだぜ! 宝を山ほど集めて、新しい鎧でも買いたいな!」 コタンは何も言わず、ただパチパチと瞬きをして天井の梁に止まった。ライカーだけが、不安げに帽子を深く被り直す。 「……俺、왠지(왠지)嫌な予感がする。というか、さっきから屋敷の空気が俺を拒絶してる気がするんだけど」 第一章:運行の乱れと不可視の罠 探索が始まって早々、滑莉が異変に気づいた。彼女の心拍数が上がり、顔がわずかに曇る。 「……っ! 運行に乱れが。予定では今、第一ホールを通過しているはずですが、お腹に『調整』が必要です!」 「おい、いきなりどうした!?」 ライカーが声を上げる間もなく、滑莉は【運行】スキルを発動。猛烈なスピードで廊下を突き進み、迷路のような屋敷の中から最短距離でトイレへと消えていった。彼女にとって、トイレでの1時間は聖域であり、精神的なリセットボタンなのだ。 残された三人は、ボロい屋敷の探索を続けた。しかし、この屋敷は「お宝が見つかりにくい」という最悪のコンディションだった。埃を被った棚をひっくり返し、腐った絨毯を剥がしても、出てくるのは古びたボタンや錆びた釘ばかりだ。 「あったぞ! これは……銀の燭台だ! 2,000ゴールドいくだろうか!」 グリンウィンが歓喜して燭台を掴もうとした瞬間だった。燭台の周囲に、白く粘り気のある糸が張り巡らされていることに気づかなかった。 「うおっ!?」 粘着質な糸に足を取られた瞬間、天井から巨大な蜘蛛――【ランカ】が音もなく降りてきた。鋭い牙がグリンウィンの頭蓋骨に突き刺さる。しかし、ここで彼のパッシブスキル【バラバラ】が発動した。ガシャーン! という派手な音と共に、グリンウィンの体はバラバラに分解され、ダメージを完全に無効化した。 「ひょえー! 危なかったぜ! でも、宝は確保だ!」 一方で、後方から歩いていたライカーの周囲では、奇妙な現象が起きていた。彼が歩くたびに、床の腐った板が「こいつは嫌だ」と言わんばかりに彼を避けて崩れ、結果的に彼は罠をすべて回避して歩いていた。もはや幸運というより、世界からの拒絶による副産物である。 第二章:気まぐれと静寂の恐怖 滑莉がトイレから戻ってきた頃、一行は屋敷の二階、豪華な装飾が残るサロンに辿り着いていた。彼女は【運行】後の全能力値上昇により、神々しいまでの集中力を纏っていた。 「お待たせしました。さて、効率的に探索を再開しましょう」 そこにあったのは、見た目こそ豪華だが価値の低い「金メッキの皿(500G)」や「古びた宝石箱(1,000G)」など。ちまちまと集めて合計5,000ゴールド。目標まではまだ遠い。 その時、コタンが不意に低く鳴いた。それは警告だった。一行の背後、空間が歪み、白い布を纏った少女――【テュール】が、音もなく、文字通り「いつの間にか」至近距離に立っていた。 「ぎゃあああ! 出たぁぁ!!」 ライカーが悲鳴を上げる。テュールは無表情のまま、超高速の攻撃を繰り出した。しかし、彼女の攻撃が当たったのは、偶然そこにいたコタンだった。 ガシャン! という音がしたが、コタンは平然としていた。次元を旅する梟にとって、この世の物理法則や攻撃という概念は「すり抜ける」対象に過ぎない。テュールの攻撃はコタンの体を透過し、空を切った。 「ホッホッホ、お嬢ちゃん、俺に触れるのは無理だぜ」と笑ったのはグリンウィンだが、テュールは執拗に追いすがる。足止めが一切効かない彼女の猛攻に、一行はパニックに陥った。 「緊急停車!!」 滑莉が叫び、鋭い直感でテュールの攻撃軌道を読み切り、間一髪で回避する。しかし、テュールの攻撃は止まらない。ライカーは転んで逃げ回るが、なぜかテュールの攻撃さえも「ライカーという人間を攻撃するのが嫌」なのか、わずかに軌道が逸れる。結果的にライカーだけが生き残るという、なんとも皮肉な光景が広がっていた。 第三章:貴婦人の演芸会と青い炎 逃げ込んだ部屋で、彼らは豪華なソファに腰掛ける幽霊の貴婦人【ベルテラ】に出会った。彼女は退屈そうに扇子を揺らし、冷徹な声で告げた。 「あら……こんな夜更けに。私を退屈させない『特技』を見せてくださるなら、ここに眠る最高のお宝を差し上げてもいいわ」 絶体絶命の状況に、グリンウィンが名乗り出た。 「任せな! 俺の十八番、【ガイコツダンス】を披露してやるぜ!」 骨がガシャガシャとリズムを刻み、地中から大量の骸骨たちが飛び出してきて、激しいダンスを踊り始めた。それは狂乱の舞会であり、同時に中毒性の高い楽曲が部屋に響き渡る。ベルテラは最初こそ不快そうな顔をしていたが、次第にそのリズムに乗り、最後には大爆笑しながら拍手した。 「素晴らしいわ! こんなに下品で愉快な踊りは初めてよ!」 彼女が指し示した壁の隠し扉の中にあったのは、「伝説の黄金王冠(12,000G)」だった。これで合計17,000ゴールド。脱出条件である15,000ゴールドを突破した。 「よし! 成功だ! さっさとここを出よう!」 しかし、歓喜に沸く彼らの前に、青白い火の玉【バレイ】が舞い降りた。バレイは冷徹に、このグループの中で最も「強い」と思われる存在を選別した。それは、高い能力値を誇り、精神的に安定していた便田滑莉だった。 「えっ……? 体が勝手に……!?」 バレイの精神支配を受けた滑莉は、操り人形のように虚ろな目で仲間たちに向き直った。彼女の【運行】スキルが、今度は「仲間を排除する」という誤った予定に書き換えられてしまう。 「円滑な……排除を……開始します……」 超高速の突進がライカーを襲う。しかし、ここでも【無償の憎】が発動した。滑莉の突き出した拳がライカーに触れる直前、物理法則が「ライカーに触れるなんて不潔だ」と判断したのか、滑莉の手が激しく弾かれた。その衝撃で滑莉自身が壁に激突し、気絶してしまった。 終章:脱出への疾走 「滑莉さん! 大丈夫か!?」 グリンウィンが駆け寄るが、バレイはまだ彼らを狙っている。そして、部屋の隅に【青色の羽根】が落ちているのをコタンが見つけた。 「ホーッ!(あれを使え!)」 コタンが素早く羽根をくわえてライカーの元へ運ぶ。ライカーは混乱しながらも、気絶した滑莉を背負い、グリンウィンと共にその羽根を握りしめた。 「お願いだ、出口へ! 早くここから出せ!!」 瞬間、眩い光と共に、彼らは屋敷の玄関前に転がり出た。背後で屋敷の扉が重々しく閉まり、中から不気味な唸り声が聞こえてくるが、もう彼らに関係のないことだった。 月明かりの下、泥だらけのライカー、バラバラになりかけているグリンウィン、そしてゆっくりと意識を取り戻した滑莉が、互いの顔を見合わせて脱力した。 「……定刻より3時間42分の遅延。最悪の運行スケジュールでした」 滑莉が溜息をつきながらも、手に入れた黄金王冠を抱きしめた。その隣で、コタンが満足げに夜空へと舞い上がった。 ---