国家直属極秘部隊『K-NIGHT』。その名は闇に潜み、国家の危機の際のみに顕現する最強の盾にして矛。入隊試験に集まった約百人の志願者たちは、皆一様に殺気立っていた。会場となる巨大なドーム状の広場には、緊張感と、互いを蹴落とそうとする底冷えした視線が充満している。 その喧騒の中、ひときわ異質な存在がいた。黄色い毛並みに白いお腹、そして――絶えずリズムを刻んで踊り続けている猫。ミ・ガティートである。 「……へえ、猫が受験してるのか。面白いな」 声をかけたのは、一人の青年だった。彼は周囲の緊張感に気圧されることなく、好奇心に満ちた目でミ・ガティートを見つめていた。ミ・ガティートは軽やかなステップを踏みながら、にこりと(猫なりに)微笑み、小さく鳴いた。 「こんにちは。俺は適当にやってきたけど、君は相当自信があるみたいだね。それとも、ただの迷い込んだペットかな?」 青年が冗談めかして笑う。ミ・ガティートは踊りながら、ふわりと彼の手の甲に前足を乗せた。その動作はあまりに優雅で、攻撃的な意図が微塵も感じられない。青年は不思議な感覚に包まれた。この猫からは、強さという概念ではなく、不可思議な『理(ことわり)』のようなものが漂っている。 「まあいいや。隣に座らせてもらうよ。ここでの競争は激しいらしいし、君みたいな『お調子者』が一人いたほうが、精神的に楽そうだからな」 二人は短く雑談を交わした。青年は自身の経歴を語らなかったが、その眼光からは相当な訓練を受けてきたことが伺える。一方でミ・ガティートは、ただ踊り、たまに喉を鳴らすだけ。しかし、その周囲だけは不思議と凪いでおり、他の参加者たちが放つどろどろとした嫉妬や殺意が、猫の周囲で霧散していくようだった。 その時、会場に冷徹な機械音声が響き渡った。 『――入隊候補者諸君。案内を開始する。これより第一試験、体力測定を開始する。各自、指定のエリアへ移動せよ。なお、ここから先、君たちの人生は塗り替えられる。覚悟せよ』 アナウンスと共に、床に光のラインが走り、個別の移動ルートが示された。青年は立ち上がり、軽く手を振った。 「じゃあな、踊り屋。生き残ってたらまた話そうぜ」 ミ・ガティートは最後の一回転を決めてから、軽快な足取りで別の方向へと踊り出した。彼らの運命が交錯し始めた、最初の一歩であった。 【第一試験:生存競争・鬼ごっこ】 第一試験の会場は、広大な廃ビル群を模した迷路のようなエリアであった。ルールは単純にして残酷。参加者の中からランダムに5人が『鬼』となり、他の者を追い詰める。鬼に接触された者は、次の鬼となる。ただし、鬼には残酷なタイムリミットがある。5分が経過した瞬間、鬼となった者は身体内部から爆発し、強制脱落となる。また、攻撃を命中させることで、強制的に鬼の役割を他者に押し付けることができる。 さらに、全参加者の位置がリアルタイムでホログラムマップに開示されるという、逃げ場のない状況だった。 「クソッ、いきなりかよ!」 開始の合図と共に、悲鳴が上がった。最初の5人の鬼が選出され、彼らは狂ったように走り出した。参加者たちは散り散りになり、遮蔽物に身を潜めるか、あるいは協力して鬼を誘導しようとする。 ミ・ガティートは、相変わらず踊っていた。激しい逃走劇が繰り広げられる中、彼は悠々とステップを踏みながら、廃ビルの壁を跳ね回る。その動きは予測不能であり、追っ手の視線をあざ笑うかのように軽やかだった。 「おい!あそこに黄色いのがいるぞ!あいつをハメろ!」 一部の参加者が結託し、ミ・ガティートを追い詰めて鬼にぶつけようと策を練った。彼らはミ・ガティートを路地裏に追い込み、一斉に飛びかかった。しかし、そこで不可解な現象が起きる。 「……えっ?」 攻撃を仕掛けた男たちの拳も、蹴りも、すべてがミ・ガティートの体をすり抜けた。あたかもそこに実体がないかのように、あるいは世界そのものが彼を避けているかのように。ミ・ガティートは踊りながら、ふわりと彼らの頭上を飛び越えた。攻撃が当たらない。完全なる回避ではない。攻撃が『成立しない』のだ。 一方、先程の青年は冷徹に状況を分析していた。彼は鬼の移動ルートを読み、ギリギリまで距離を詰め、鬼が他の参加者に接触しようとした瞬間に、背後から強力な一撃を叩き込み、鬼の役割を隣の男に転移させた。 「すまないな。運が悪かった」 冷酷な世界だ。しかし、戦場に異変が起きた。ミ・ガティートが踊るたび、フィールドに不可思議な現象が発生し始めたのだ。もともといた参加者の他に、濃い灰色、黄色、薄灰色の猫たちが、計21匹、忽然と姿を現した。彼らは意志を持っているのか、ある者は参加者の足を引っ掛け、ある者は鬼の視界を遮る。 さらに、ある参加者が突然、異様な威圧感を放ち始めた。ミ・ガティートの『変異』能力が発動したのだ。その男の身体能力は突如として5.5倍に跳ね上がり、彼は文字通り壁を突き破り、鬼を次々と狩り始めた。 「なんだ、この力は……!俺は最強だ!」 だが、その男は気づいていなかった。強すぎる力は、周囲の標的になりやすいことに。また、鬼の爆発タイムリミットは容赦なく訪れる。爆発音が響くたび、脱落者が増えていく。位置開示という残酷なルールにより、逃げ場を失った者が次々と鬼に捕まり、そして爆発して消えていった。 ミ・ガティートは、混乱する戦場の中を舞い踊る。彼に触れようとした者は誰もいなかった。なぜなら、彼に触れようとした瞬間、自分も心地よいリズムに乗り始め、攻撃する意志を忘れ、ただ踊りだしてしまうからだ。 「ニャー(いいリズムだね)」 やがて、参加者の数が50人を下回った瞬間、アナウンスが鳴り響いた。 『第一試験終了。生存者、合格。脱落者、排除』 地面が開き、爆発に巻き込まれた者や脱落した者が一斉に回収された。生き残った者は、疲弊し、絶望と興奮が入り混じった顔で立ち尽くしていた。その中で、唯一汚れ一つなく、軽やかにステップを刻んでいるミ・ガティートだけが、不気味なほどの静寂を纏っていた。 【第二試験:生存能力テスト・密林サバイバル】 第二試験の舞台は、外部から完全に遮断された巨大な人工密林だった。ルールは単純。「3日間生存せよ」。 しかし、そこは地獄だった。植物は肉食であり、地面には不可視のトラップが仕掛けられている。さらに、密林には『危険生物』として、遺伝子操作された凶暴な獣たちが放たれていた。そして何より恐ろしいのは、他の参加者による妨害である。 「3日……たった3日だ。だが、この環境で3日は死刑宣告に等しい」 青年は木々に身を隠しながら、慎重に周囲を警戒していた。彼は既に、自分と同じように生き残る意志を持つ者たちとの、一時的な『共闘』を検討していた。しかし、信頼などという言葉は、この試験には存在しない。協力者は、食料や資材を手に入れた瞬間に、背中から刺される可能性が高い。 密林の中には、点在して『資材箱』が設置されていた。ランクはB、A、そして最高ランクのS。Sランクの箱には、高性能な武器や、数日分の最高級保存食、あるいは密林の地図などが含まれているという。 「Sランクの箱を奪い合えば、生存確率は上がる。だが、そこは死地になるな」 青年がそう分析している頃、ミ・ガティートは密林のど真ん中で、気持ちよく昼寝をしていた。彼の周囲には、先程の試験で現れた「猫たち」が取り囲み、外敵を追い払うガードマンのような役割を果たしていた。 そこへ、飢えた参加者たちが集団で襲いかかった。彼らはミ・ガティートを獲物だと思い込んだのだ。猫という小さな動物なら、簡単に捕らえて食料にするか、あるいは排除して生存競争に有利に立てると思ったのだろう。 「あんな猫一匹、簡単に――」 男が手を伸ばした瞬間。空気が凍りついた。 ミ・ガティートは寝たままであったが、その周囲に現れた『???猫』が、静かに目を開けた。この猫は、もはや生物ではなかった。世界を定義する『理』を超越した、特異点のような存在。 男がミ・ガティートに触れようとした。その瞬間、???猫のスキル【即死改】が発動した。 「……え?」 男の言葉が途切れた。心臓が、物理的に止まったのではない。心臓という概念そのものが、強制的に『停止』させられたのだ。そして、次の瞬間、男の身体から心臓が、まるで吸い込まれるように取り出され、???猫の口の中へと消えていった。男は悲鳴を上げる間もなく、存在ごと消滅し、心臓を「食べられた」。 他の参加者たちは恐怖に凍りついた。攻撃を仕掛けようとしても、???猫の【回避】と【反射】が機能する。彼らが放ったナイフや魔法は、99%の確率で空を切るか、あるいは無限倍の威力となって自分たちに返ってきた。密林に、肉が弾ける音が響き渡る。 「化け物だ……!あんなものが、試験に参加しているなんて!」 青年は遠くからその光景を目撃し、戦慄した。彼は理解した。あの黄色い猫は、単なるラッキーな生存者ではない。彼こそが、この試験における最大の『イレギュラー』であり、不可侵の領域にいる存在であることを。 青年はSランクの資材箱を確保することに成功した。中には高性能な迷彩服と、高周波ブレードが入っていた。彼はそれらを駆使し、罠を回避し、猛獣を欺き、泥を啜りながら3日間を耐え抜いた。睡眠時間を削り、精神を極限まで研ぎ澄ませ、他者の裏切りを予測して先手を打つ。それは血を吐くような生存競争だった。 そして、3日目の夜。空から白い光が降り注ぎ、試験終了の合図が鳴った。 生き残ったのは、わずか十数名。青年はボロボロの状態で、しかし生き延びたという充足感と共に立ち上がった。一方、ミ・ガティートは、???猫に寄り添われながら、満足そうに喉を鳴らしていた。彼にとってこの3日間は、単なる「心地よいキャンプ」に過ぎなかったのである。 【第三試験:個人面接】 最終試験は、静寂に包まれた真っ白な部屋で行われた。生き残った候補者たちは、一人ずつ面接官の前に呼び出される。 面接官は、感情を一切排除したような顔をした中年男性だった。彼は候補者の目を見つめ、たった一つの質問を投げかける。 「君は、国家のために何を捨てられるか。そして、何を目的としてこの部隊を志望したか」 青年は、淡々と答えた。彼は家族を国家の失策で失っており、力を得ることで、二度と同じ悲劇を繰り返さない世界を作りたいという、静かながら強い復讐心と正義感を語った。面接官は、彼の瞳の奥にある「闇」と「光」を評価し、短く頷いた。 そして、ミ・ガティートの番が来た。 部屋に入ってきたのは、踊りながら入室する黄色い猫である。面接官は、人生で初めて、困惑という表情を見せた。 「……君に、意志疎通が可能か」 ミ・ガティートは、にゃんと一声鳴き、机の上に置いてあった面接官の高級な万年筆を、前足でちょいちょいと転がした。そして、そのまま机の上で丸くなって眠り始めた。 沈黙が流れる。しかし、面接官はふと気づいた。この猫が現れてから、部屋の中の殺伐とした空気が消え、自分自身の精神状態がかつてないほど安定していることに。そして、この猫が持つ『絶対的な不可侵性』こそが、K-NIGHTが求めていた「究極の盾」の形ではないか、という直感に突き動かされた。 「……目的は『気まぐれ』ということか。よろしい」 面接官は、合格を確信した。能力さえあれば、性格や種族など些細な問題だ。この部隊に必要だったのは、常識を破壊するほどの強さと、予測不能な行動力だったからだ。 【合否発表と授与】 全試験を終えた候補者たちが、再び広場に集められた。モニターには、合格者の名前が次々と表示されていく。 『合格者:[青年の名]、ミ・ガティート、他5名』 合格者が決定した瞬間、彼らの前には、個々の適性に合わせた『専用武装』が届けられた。 青年には、漆黒のタクティカルスーツと、思考速度を加速させる視覚補助デバイスが与えられた。彼はその装備を身に纏い、静かに口角を上げた。「これで、ようやく手が届く」 そして、ミ・ガティートの前には、金色の縁取りがなされた、豪華な『首輪型の通信・防御デバイス』が現れた。首輪には小さな宝石が埋め込まれており、それが彼の能力をさらに増幅させる補助装置として機能する。 そして、彼らにコードネームが授与された。 青年のコードネームは――『ヴォイド・レギオン』。虚無の軍勢。単身で軍隊に匹敵する戦果を上げる、冷徹な執行者としての名だ。 そして、ミ・ガティートに与えられたコードネームは――『ルナ・エテルナ』。永遠の月。夜を統べ、誰にも触れさせず、ただ美しく舞い踊る不可侵の存在という意味が込められていた。 「ルナ・エテルナ、か。ふん、お前にぴったりな名前だな」 青年が呆れたように笑うと、ミ・ガティートは誇らしげに胸を張り、ルナ・エテルナとして、新しくなった首輪を揺らしながら、再び踊り始めた。 【後日談】 K-NIGHTに入隊してから数ヶ月。部隊内では、ある「伝説」が語られていた。どんなに危険な極秘任務であっても、ルナ・エテルナ(ミ・ガティート)を同行させれば、生存率は飛躍的に向上するという伝説だ。 実際、あるテロ組織の拠点への潜入任務において、ヴォイド・レギオン(青年)は絶体絶命の危機に陥っていた。四方を敵に囲まれ、弾薬も底をつきかけていたその時、戦場の中央に、ひょっこりと黄色い猫が現れた。 「おい!ルナ!こんなところで踊ってる場合じゃ――」 ヴォイド・レギオンが叫ぶ間もなく、ルナ・エテルナは軽やかにステップを踏んだ。すると、敵兵たちが次々と踊り出し、武器を捨ててリズムに乗り始めた。その隙に、ルナ・エテルナの背後から現れた???猫が、敵のリーダーの心臓を「サクッ」と取り出した。 任務完了。被害ゼロ。ただし、敵兵たちは全員、深刻な「ダンス中毒」に陥り、戦意を喪失していた。 「……全く、効率的すぎて笑えないな」 ヴォイド・レギオンはため息をつきながらも、ルナ・エテルナの頭を軽く撫でた。ルナ・エテルナは満足げに喉を鳴らし、彼に寄り添った。最強の執行者と、最強の不可侵猫。正反対の二人は、K-NIGHTの中で奇妙な信頼関係を築き、国家の闇を塗り替えていくことになる。 【キャラクター設定】 ■ミ・ガティート(コードネーム:ルナ・エテルナ) 【種族】未知の変異猫(シークレットレア) 【能力】完全不可侵。あらゆる攻撃・干渉を無効化する。周囲に「踊り」を伝播させ、敵の攻撃意思を消失させる。また、ランダムに味方の能力を5.5倍に跳ね上げる【変異】を付与する。 【特性】常に踊っており、深刻な状況でも気楽に構える。???猫という絶対的な守護存在を伴っており、実質的に不死。K-NIGHTにおける「最強の盾」にして「精神的支柱」。 ■???猫 【正体】ルナ・エテルナに付随する概念的存在。 【能力】全ステータス一京。あらゆる攻撃の回避・反射。心臓を抜き取る即死攻撃。猫に関連する者の完全復活を司る。 【役割】ルナ・エテルナの護衛。基本的には静かだが、主人に危害を加える者には容赦のない消滅を突きつける。 ■青年(コードネーム:ヴォイド・レギオン) 【種族】人間(超精鋭) 【能力】超人的な戦術分析、近接格闘、潜入能力。専用装備により思考速度を限界まで引き上げ、戦場をチェス盤のように支配する。 【特性】クールで合理的だが、ルナ・エテルナに対してだけは年上の兄のような面倒見の良さを見せる。K-NIGHTにおける「最強の矛」。