喧騒に包まれた国際空港の第3ターミナル。そこには、旅の期待に胸を膨らませる人々ではなく、互いに不穏な空気を纏わせた異色の四人が、保安検査場の長い列に並んでいた。 列の先頭にいたのは、深縹色の軍服に身を包んだ美女、シシェンスである。彼女は陽気な笑みを浮かべていたが、その橙色の瞳は周囲の人間すべてを「掃除対象」として精査する冷徹さを秘めていた。彼女の懐には、触れるものすべてを分解する量子型全分解刃『アサルトカッター』と、機能無効化網投射拳銃『クリーンリッパー』が潜んでいる。彼女にとって、この検査は単なる退屈な手続きに過ぎなかった。 その後ろには、森林迷彩服に身を包み、帽子を深く被ったエクリプスが立っていた。彼女は寡黙に前を見据え、背負ったバックパックの重みを調整する。中にはVz61とスペツナズナイフ、そして手榴弾。熟練の兵士である彼女は、探知機の仕組みと死角を完璧に計算していた。幸運値100という不可思議な加護が、彼女の緊張感を心地よい集中力へと変えていた。 さらに後ろでは、モフモフの耳をぴこぴこと動かし、不安そうに辺りを見回す少年、魔王くんがいた。彼は元魔王という肩書きなどどこへやら、今ではただの「愛くるしい犬獣人」である。彼には武器などない。あるのは純粋な心と、誰をも惹きつける圧倒的な可愛さだけだ。彼は隣に並ぶ大人の足元を見て、「ぼく、ちゃんと通れるかなぁ……」と小さく呟き、不安からつい自分の耳の付け根をいじっていた。 そして最後尾にいたのは、実体があるのかさえ怪しい幽霊、ヴァルブハトである。彼は退屈そうに空中に浮き、隣の列の人間の荷物を指先でちょいちょいと動かすいたずらを繰り返していた。彼が所持しているのは日本刀と機関銃。だが、彼は物理法則を超越した存在だ。彼にとって「隠す」とは、次元の隙間に物を置くことに等しい。 「次の方、どうぞ!」 警備員の鋭い声が響く。最初にゲートに向かったのはシシェンスだった。 彼女は軽やかな足取りで金属探知機のアーチをくぐろうとする。だが、その瞬間――。 『ピーーーーーーーッ!!』 耳を突き刺すような警告音がターミナルに鳴り響いた。量子型の武器は、その特殊な構造ゆえに現代の探知機に強烈に反応したのだ。 「あははっ、やっぱりダメかぁ。最近の機械ってば、意外と正直だねぇ」 シシェンスは困ったように頬を掻いたが、その瞳には温度がない。警備員たちが慌てて駆け寄り、彼女の腕を掴もうとした瞬間、彼女は反射的に相手の手首を軽く捻り、制圧の体勢に入ろうとした。しかし、ここは空港である。彼女はふと思い出したように力を抜き、「あー、はいはい。連れてってよ」と陽気に、それでいて冷徹な諦めと共に警備員に連行されていった。 続いて、エクリプスがゲートに立つ。彼女は深呼吸し、重心をミリ単位で調整しながら、最も検知されにくい角度でアーチを通過した。バックパックの中の武器は、彼女が事前に施した特殊な遮蔽処理と、天文学的なまでの「幸運」によって、奇跡的に反応しなかった。 『……(静寂)』 警備員は怪訝そうに彼女を見たが、何も検出されなかったため、そのまま通過を許可した。エクリプスは一言も発さず、ただ小さく頷いてゲートを抜けた。 次に進んだのは魔王くんである。彼はガタガタと震えながら、恐る恐る探知機をくぐった。武器など持っていないため、当然反応はない。しかし、彼は緊張しすぎて足がもつれ、警備員の胸元にダイブしてしまった。 「ふぇぇっ! ごめんなさいっ!!」 もふもふの耳を伏せ、潤んだ瞳で上目遣いに謝る魔王くん。その破壊的な可愛さに、厳格だったはずの警備員たちの心は一瞬で蕩けた。 「いいんだよ、可愛いなあもう! さあ、おいで。ゆっくり行きなさい」 警備員に頭を撫でられながら、魔王くんはトボトボと勝利のゲートをくぐった。 最後に残ったのはヴァルブハトだ。彼はあくびをしながら、日本刀と機関銃をあえて「見える位置」に具現化させていた。警備員が絶叫して警報ボタンを押そうとしたその瞬間、ヴァルブハトは静かに指を鳴らした。 「時間停止」 世界から色が消え、すべての時間が止まる。ヴァルブハトは悠々と歩き出し、探知機のアーチをすり抜けた。そして、再び時間を動かす。警備員が気づいたときには、彼はすでに検査場を通り抜け、遠くで手を振っていた。 【判定】 シシェンス:検知され連行(敗北) エクリプス:技術と幸運で通過(勝利) 魔王くん:所持品なし&愛され体質で通過(勝利) ヴァルブハト:能力による時間操作で通過(勝利) 勝敗の決め手となったシーン: シシェンスが量子武器の特性により、激しい警告音と共に真っ先に警備員に拘束されたシーン。