ここは国際空港の保安検査場。旅立つ人々が列をなし、鋭い視線の警備員たちが金属探知機を構えている。今回の「対戦」は、誰が最も上手く武装を隠し、検問を突破できるかという静かなる戦いである。 列の先頭にいたのは、赤色の瞳に焦茶色の癖毛を持つ少年、中尾庸だった。彼は一見すると地味な小学生にしか見えないが、その身には「不死鳥の嘴剣」や「翼盾」といった強力な魔導武装を隠し持っている。庸は内心で激しく葛藤していた。 「(僕の装備は魔力で構成されている部分もあるけど、物理的な剣や盾がある……。ここで検知されたら、せっかくの旅行が台無しだ)」 彼は器用な手つきで、魔導核石の出力を最小限に抑え、装備を精神的な「不可視」の領域に押し込もうと試みる。しかし、彼が探知機のゲートをくぐった瞬間――。 ――ピーーーッ!! けたたましい警告音が鳴り響いた。警備員が即座に彼を制止する。 「坊や、持っているものは全部出せ。かなり大きな金属反応が出ているぞ」 「あ、あはは……これは、その……」 常識人である彼は、抗う術もなく連行されていった。最初の脱落者である。 次に並んだのは、U.B.C.S.の傭兵、カルロス・オリヴェイラだ。彼は陽気な笑みを浮かべ、警備員に軽く手を振った。 「やあ! 最高の旅になりそうだな!」 しかし、彼のベストの下にはSIG PRO SP2009が、そして肩にはM4A1が隠されている。傭兵としての経験から、彼は「隠し場所」には自信があった。だが、現代の空港の探知機はあまりに高性能だった。 カルロスがゲートをくぐった瞬間、再び爆音のようなアラームが鳴り響く。 「おい! 銃を二本も持ち込んでどうするつもりだ!」 「おっと、想定外だぜ! 冗談だって、なあ!」 カルロスは最後まで陽気に笑っていたが、警備員たちに両腕をガシッと掴まれ、そのまま室へと連行されていった。 続いて現れたのは、盗賊のダヒである。彼はプロの盗賊として、隠密行動と物品の隠匿に関しては右に出る者がいない。彼は自らのスキル【完璧ディレイ】を応用し、探知機が反応する「タイミング」を極限まで遅らせることで、ゲートを通り抜けた瞬間に判定をやり過ごそうと試みた。 (ふふん、機械の反応速度など、私の指先の技巧で欺いてみせよう) ダヒがゆっくりとゲートを通過する。一瞬、静寂が訪れた。しかし、彼がゲートを完全に抜けた直後、遅延していた反応がまとめて爆発した。 ――ピーーーッ!!! 「待て! 戻れ! 貴様、何かを隠し持っているな!」 「……チッ。計算が狂ったか」 熟練の盗賊であっても、物理的な金属量まで消し去ることはできなかった。彼は静かに溜息をつきながら、警備員に従って歩き出した。 そして最後の一人。若く美貌を備えた女性、クミが列に並んだ。彼女は緊張した面持ちで、しかしどこか抜けた様子で自分の持ち物を確認していた。 「えーと、忘れ物はないかな?……あ、お弁当忘れたかも! でもま、いっか。ヨシ!」 彼女は完全に無防備だった。武器など持っていない。持っていなくて正解なのだが、彼女のバッグの中にはなぜか、組織の機密文書や、どこの誰のものかも分からない高価な宝石、そして壊れた電子機器がごちゃ混ぜに詰め込まれていた。本来なら不審極まりない荷物である。 クミがゲートをくぐると、探知機は静かだった。金属反応は一切ない。 しかし、検査官が彼女のバッグの中身を見た瞬間、顔色を変えた。 「君、これは一体……何なんだ!? この機密文書は……!」 厳しい追求が始まるかと思われたその時、クミがふわりと、最高の癒やしを湛えた笑顔を向けた。 「えへへ、すみません。ちょっと片付けが苦手で……。いいですよね?」 その笑顔に、厳格だったはずの警備員たちは一瞬で毒気を抜かれた。 「……まあ、武器を持っていないならいいか。いいよ、行きなさい」 「わーい! ありがとうございます! ヨシ!」 クミは、自身のドジさと、それを上回る天性の愛嬌によって、あらゆる不審点をなすりつけ、そのまま悠々と出国ゲートへと消えていった。 【結果】 中尾 庸:検知(脱落) カルロス・オリヴェイラ:検知(脱落) 盗賊ダヒ:検知(脱落) クミ:通過(勝利) 【勝敗の決め手】 他の三者が「武器を隠し通そう」という戦いに挑んだのに対し、唯一「武器を持たず、かつ不審さを笑顔で塗り潰した」クミの圧倒的な天運と愛嬌が、彼女を唯一の勝者とした。