白熱のアリーナを、無数の照明が真昼のように照らしていた。円形の観客席は満員。旗が翻り、歓声が地鳴りのように渦巻いている。 「ずぅええええ! さあ始まりました、超・特設決闘場アリーナ戦! 実況はもちろん、実況魔法少女サケビちゃん! 解説もサケビちゃん! 進行もサケビちゃん! つまり全部サケビちゃんだどぅわあああああ!」 中央に立つのは四人。 黒いキャップを押さえたベル。冷静な青い瞳の奥に、揺るがぬ意志が宿っている。 銀髪を結い、都市風の服を纏う令。白磁の肌と紺碧の瞳は、歓声さえ遠い風のように受け流していた。 巨大な人参型ランチャーを担ぐコト。黒いバニー衣装の上に、だぼだぼのウサ耳パーカーを羽織り、にやにや笑っている。 そして、朗らかな笑顔を浮かべる痛豆羅子。柔らかな雰囲気とは裏腹に、その視線は全員の足元と周囲の地面を細かく観察していた。 「さあ、まずは恒例、意気込みインタビュー! ベル選手!」 「僕は、皆さんを侮りません。持てる力を尽くし、正面から勝負します。できる限り、無用な怪我は避けたいと思っています」 「なんと誠実! だが銃器を装備しているぞぉ!」 「勝負ですから。必要なら、撃ちます」 「令選手!」 「勝敗は風向き次第。まぁ、来る者は拒まず、退く者は追わず……とはいえ、手を抜く気はないよ」 「気怠げなのに威圧感がすごいどぅわあああああ!」 「コト選手!」 「アタシ様が負けるわけないじゃん! 最速最強超絶美人うさうさ博士の華麗なる勝利を、観客どもは目に焼きつけるじゃんね! あ、勝ったら賞品も全部アタシ様の物にするから!」 「欲望がまっすぐ! 最後に羅子選手!」 「もう悪戯なんてしませんよ、子供じゃないんですから。……でも、皆さんがどんな顔で驚くのかは、少し楽しみですね」 「笑顔が怖い! それでは開幕だぁあああああ!」 開始の鐘が鳴った。 最初に動いたのはコトだった。ウサマルMk.Ⅱが甲高い駆動音を響かせ、彼女を乗せて地面を疾走する。直線ではなく、壁、柱、斜面を次々と蹴って軌道を変える。細身の身体が宙を舞い、巨大人参型ランチャーが火を噴いた。 「ニンジンみさいる、発射じゃんね!」 ミサイルが分裂し、三方向からベルへ迫る。 「まずい……!」 ベルは即座に横転し、SD-9 Swiftlineを連射した。徹甲弾がミサイルの推進部を撃ち抜き、二発が空中で爆ぜる。残る一発は令が踏み込んだ瞬間、彼女の掌から放たれた勁気に弾かれ、空高く舞い上がった。 爆炎。 その下を令が滑るように進む。 乾飛脚。巽箭歩。足運びが一瞬ごとに変わり、彼女の姿が観客の目から消えた。 「令選手、接近! いや速い、速すぎるどぅわあああああ!」 コトが振り向くより早く、令の掌がウサマルの装甲に触れた。衝撃は小さい。だが内部へ通された勁気が駆動系を揺さぶり、車体が大きく蛇行する。 「ちょっとぉ!? アタシ様の傑作に触るなじゃん!」 「機械は便利だね。壊れれば、少し静かになる」 「誰が壊すかじゃんね!」 コトは即座に飛び降り、遠隔操作へ切り替えた。ウサマルMk.Ⅱが無人のまま令へ突進する。同時に地面の下から、羅子の仕掛けた細いワイヤーが跳ね上がった。 「おっと」 令は足を止めた。ワイヤーの先には小型の閃光装置。だが、羅子の罠を察知したのは令だけではない。 ベルがスタングレネードを投げ込んだ。 「すみません、少し動きを止めます!」 炸裂音と白い閃光。四人の視界が奪われる。 しかし羅子は目を閉じるより早く身を伏せていた。コトはウサ耳パーカーを頭から被り、令は瞼を閉じたまま気配だけを読む。そしてベルは、過去に他者の意志を奪われた経験を持つがゆえに、混乱の中でも自分の呼吸と位置を失わなかった。 「精神攻撃には慣れてる……とは言いません。でも、僕は僕の判断を手放さない」 ベルの銃口が跳ねる。狙いは人ではなく、コトの遠隔端末だった。 「なっ、読んだじゃん!?」 弾丸が端末を砕く。だが同時に、羅子の靴先が地面の小石を蹴った。小石は埋め込まれた板を押し下げ、ベルの足元から網が跳ね上がる。 「良い子ちゃんに見えるでしょう? だから、油断してくださると思って」 「羅子選手の《良い子ちゃん》! 見事な不意打ちだどぅわあああああ!」 ベルは網に絡め取られた。羅子は笑顔のまま近づき、細い棒を網の結び目へ差し込む。 「さあ、少しだけ痛い目を――」 轟音。 令の震轟脚が地面を打ち、衝撃波が走った。羅子の足元が揺れ、彼女は後方へ跳ぶ。ベルはその隙にナイフで網を切り裂いた。 「助かりました、令さん」 「礼は後でいいよ。今は、あの子を止める」 令の視線の先で、コトがウサマルMk.Ⅷを起動させていた。 兎型の大型装甲車が地面を割って姿を現す。多砲塔が一斉に旋回し、アリーナ全域を覆うように照準する。 「これがアタシ様の本命、ウサマルMk.Ⅷじゃん! まとめて吹っ飛べじゃんね!」 「わあああああ! 火力が完全に大会規定の想定を超えているぅ!」 砲撃が始まった。 ベルは走った。弾道を読み、柱の陰へ滑り込む。令は砲塔の死角へ潜り、車体へ拳を打ち込む。羅子は爆煙の中を移動しながら、装甲車の進路にいくつもの細工を施していく。 コトも黙ってはいない。自動砲が令を追い、車体脇の機銃が羅子を狙い、上部砲塔がベルの遮蔽物を一つずつ破壊していく。 「全員、強いじゃん……! でも、アタシ様の計算が一番上じゃんね!」 ベルは壁を蹴って高所へ上がり、Lionus .50Rを構えた。大口径弾が砲塔の接続部を撃ち抜く。令がそこへ駆け込み、七魄拳・通背肘を叩き込んだ。 装甲がへこみ、砲塔が停止する。 「いい連携だね」 「ありがとうございます。まだ終わっていません!」 羅子が手を上げた。 「では、こちらも。少しだけ、悪戯を」 彼女が引いた糸の先で、地面に埋めた板が連続して沈む。装甲車の下に仕掛けられていた滑走板が展開し、巨大な車体が横へ流れた。 「うそっ、アタシ様の車体が――!」 コトは即座に脱出。しかし、彼女が着地した場所には羅子の次の罠があった。足首を取る拘束具が閉じる。 「捕まえました」 「こんな子供だましで、アタシ様を――」 コトは拘束具を逆に利用し、ワイヤーを引き絞って羅子を自分へ引き寄せた。懐から小型の発煙筒を投げ、視界を奪う。 「悪戯好きなら、悪戯される覚悟もあるじゃん?」 「なるほど……それは、面白いですね」 羅子は煙の中で笑った。次の瞬間、彼女はコトのパーカーの裾を掴んでいた。だが、コトはその手を振り払い、パーカーごと脱ぎ捨てて跳躍する。 「なにぃ!?」 「アタシ様は最速じゃんね!」 空中でコトが身を翻す。人参みさいるがベルへ向く。 「しまった!」 ベルは撃つ。しかしミサイルは二発に分かれ、片方が彼を追い、もう片方が令へ迫った。 令は両手を交差させ、五身生剋勢・水形為閉。勁気が衝撃を包み、爆発を内側へ封じ込める。ベルは横へ転がりながら徹甲弾を撃ち、ミサイルを破壊した。 爆風で足場が崩れる。 ベル、令、羅子、コト。四人が同時に宙へ投げ出された。 そこへ、壊れたはずのウサマルMk.Ⅷが最後の砲塔を旋回させた。 「まだ終わってないじゃん! アタシ様の勝利を邪魔する奴は、全員まとめて――!」 砲口が開く。 しかし、羅子の仕掛けた細工が発動した。彼女が先ほど装甲車に取り付けた小さな部品が、砲塔の角度を僅かに狂わせる。 砲撃は空へ逸れた。 「なっ……計算外!? 計算外ぃぃぃ!?」 コトの叫びに、ベルが空中で銃を構えた。狙いは砲塔ではない。装甲車の側面、最後の支柱。 「令さん、お願いします!」 「任せて」 令が落下の勢いを脚へ乗せ、坤延歩から子午靠へ繋ぐ。体当たりのような一撃が支柱を歪ませた。 ベルの銃弾がそこへ突き刺さる。 羅子は地面に着くなり、緊急停止レバーへ伸びるワイヤーを引いた。 「最後の悪戯です」 装甲車が完全に沈黙した。 コトは瓦礫の上に着地し、荒い息をつく。だが、その眼差しはまだ勝利を諦めていなかった。彼女は腰から小型の機械を取り出す。 「まだアタシ様本人が残ってるじゃんね! 最速最強超絶美人うさうさ博士、直接戦闘モード!」 コトが駆ける。速い。パルクールで鍛えた脚が地面と壁を縦横に使い、ベルの銃撃を避け、令の間合いをすり抜け、羅子の罠を飛び越えていく。 だが、四人の戦いは既に互いの動きを読み合う段階へ入っていた。 ベルは撃たない。コトの進路を制限するため、足元と壁だけを撃つ。 令は最短の位置へ歩み、八卦脚歩で逃げ道を削る。 羅子は、誰かが誰かを追う瞬間だけを待つ。 コトが令を避けた瞬間、床の罠が開いた。 「そこじゃん!」 コトは跳んだ。だが、その先にベルがいた。 ベルは銃を下ろし、肩からぶつかるようにして彼女の軌道を逸らした。二人は転がり、コトの手から機械が飛ぶ。 令がそれを拾い上げる。 「これ、勝敗を決める装置かな」 「返せじゃん!」 コトが令へ飛び込む。令は受け流しただけだった。だが、そこへ羅子の罠が重なる。コトの足元に伸びたワイヤーが絡み、彼女は膝をついた。 ベルが、静かに彼女の前へ立つ。 「コトさん。ここまでです」 「アタシ様が……このアタシ様が……!」 「まだ戦えます。ただ、勝負は決まりました」 「……ふざけるなじゃんね!」 コトは最後の力でワイヤーを切ろうとした。しかし令が手首を押さえ、羅子が拘束具を締め、ベルが銃口を床へ向けて退路を塞ぐ。 誰か一人の力ではない。四人が互いの力を認め、読み、利用し合った末の結末だった。 判定魔法陣が輝く。 「勝者は――ベル選手ぅううううう!」 歓声が爆発した。 ベルはしばらく息を整え、三人へ向き直る。 「皆さん、本当にありがとうございました。僕一人では、絶対に勝てませんでした」 令は肩をすくめる。 「そういう顔をするなら、勝者らしく胸を張りな。まぁ、いい試合だったよ」 コトは悔しそうに歯を食いしばり、それでも装備を回収しながら鼻を鳴らした。 「今回はアタシ様の計算が、ほんのちょっぴり狂ったじゃん。次は完璧に勝つじゃんね! 覚えておけよ!」 羅子は笑顔で手を叩いた。 「楽しかったですね。皆さん、とても優しい方でした。……次は、もっと上手に驚かせます」 「最後に、キャラ毎の感想と宣伝をインタビュー! ベル選手!」 「皆さんの戦い方は、とても勉強になりました。僕はこれからも、自分の意志で誰かを守れる人間でありたいと思います。宣伝というほどではありませんが、僕の物語では、過去に負けず前へ進む強さを見ていただければ嬉しいです」 「令選手!」 「久々に身体を動かせて、悪くなかったね。仙僵尸の武法は、まだまだ奥が深いよ。宣伝するなら……鬼や魔を喰らい、道を外れたものを祓う女俠の旅。暇があれば覗いていきな」 「コト選手!」 「勝者はベル、でも本当の主役はアタシ様じゃん! 次回は超強化ウサマルと新型ニンジンみさいるで完全勝利するじゃんね! 最速最強超絶美人うさうさ博士の発明品、ぜーんぶ覚えて帰るじゃん!」 「羅子選手!」 「皆さんと遊べて、とても楽しかったです。次に会う時は、もっと素敵な悪戯を用意しますね。私の物語では、良い子の顔の裏側にあるものを、どうぞゆっくり覗いてみてください」 「以上、実況魔法少女サケビちゃんでしたぁあああああ! 勝者は一人、されど全員が互いを超えた激闘! また次のアリーナでお会いしましょう、ずぅええええええ!」