【初期位置】 薩見 史行:渋谷区代々木付近の高層ビル屋上 輝星 陽彩:渋谷スクランブル交差点付近(屋外ステージ) AA-12:渋谷区宇田川町付近の路地裏 ガントラック:渋谷区道玄坂付近の幹線道路 14時。渋谷の街は喧騒の極みにあった。人波がうねるスクランブル交差点の中央では、世界的なアイドル、輝星 陽彩が屋外特設ステージに立っていた。彼女の天真爛漫な笑顔と、リズムに合わせてしなやかに舞うダンスは、周囲に集まった数千人の群衆を完全に虜にしていた。彼女にとって、この喧騒は心地よい音楽と同じだった。しかし、その華やかな光景から数キロ離れた静寂の中、一人の男が冷徹な視線をレンズ越しに送っていた。 薩見 史行は、代々木方面の高層ビル屋上の端に、完全に身を潜めていた。迷彩ネットと遮蔽物を巧みに使い、地上からはその存在を察知することは不可能に近い。彼の腕の中には、対物狙撃銃TAC-50が据えられていた。スコープの十字線が捉えているのは、遥か3km先、色鮮やかに舞う少女の頭部である。薩見にとって、距離は単なる数値に過ぎない。風速、湿度、地球の自転によるコリオリの力。あらゆる変数を脳内で瞬時に計算し終えた。彼の指がゆっくりとトリガーに掛かる。標的は無防備であり、回避行動を予測する必要すらなく、ただそこに「在る」だけだった。 一方で、宇田川町の狭い路地裏では、擬人化された破壊の権現、AA-12が静かに銃口を構えていた。その意識は鋭敏に周囲を走査し、わずかな違和感も見逃さない。50メートル以内に入り込んだあらゆる生命体、あるいは飛翔物を、面制圧の散弾で消し去る準備は整っていた。彼にとっての戦場は、至近距離の地獄である。誰がどこに潜んでいるかではなく、誰が自分の領域に足を踏み入れるか。それだけを待っていた。 同時刻、道玄坂の幹線道路を、重厚なエンジン音を響かせて一台のガントラックが走行していた。STANAGレベル4適合装甲に覆われた鋼鉄の塊。車上に据え付けられたKPV重機関銃の銃身が、鈍い光を放っている。運転手、射手、そして観測手の3名は、地獄のような戦場を生き抜いた歴戦の猛者たちだった。観測手は双眼鏡を使い、絶えず周囲のビルの屋上や路地の影を監視していた。彼らにとっての最適解は、停止することなく機動し、圧倒的な火力を一方的に浴びせ続けることにある。 14時05分。薩見の指がトリガーを絞った。 TAC-50の巨大な銃声が、ビル屋上の静寂を切り裂いた。超威力弾丸が音速を超え、空気を切り裂きながら3kmの距離を直線的に加速する。標的は輝星 陽彩の頭部。彼女はまだ、自分の死が数秒後に訪れることを知らない。観衆の歓声に包まれ、最高の笑顔を振りまいていたその瞬間、弾丸が到達した。 しかし、運命は残酷なまでの「偶然」ではなく、物理的な「制約」によって分かたれる。弾丸が到達する直前、陽彩が激しいカポエイラの回転運動に入った。彼女の柔軟な体が、リズムに合わせて低く、そして鋭く回転する。狙撃手としての薩見の予測能力は完璧であり、本来であればこの動きさえも計算に組み込んでいたはずだった。だが、弾丸が到達するまでの数秒間、スクランブル交差点の巨大ビジョンから不意に放たれた強烈なフラッシュと、大音量のプロモーション映像が、ほんの一瞬だけ視覚的なノイズとして混入した。結果として、弾丸は陽彩の側頭部をわずかにかすめ、背後のステージ設備を粉砕した。 「えっ?!」 陽彩が驚愕して振り返る。周囲の群衆は、突如として飛んできた正体不明の弾丸と、破壊された設備にパニックを起こし、四方八方へ逃げ惑い始めた。人流が激しく乱れ、視界が遮られる。薩見は冷徹に次弾を装填したが、逃げ惑う人々が陽彩の周囲を壁のように覆い、射線が完全に遮断された。 その混乱の中、道玄坂を走行していたガントラックが、人流に押されて渋滞し始めたスクランブル交差点方向へと進路を取った。観測手が叫ぶ。 「前方、爆発のような衝撃音を確認!正体不明の攻撃あり!」 「構えろ!全力で突破する!」 運転手がアクセルを踏み込み、厚い装甲で逃げ惑う群衆を押し退けながら前進する。車上のKPV重機関銃が、周囲の状況を確認するために銃口を左右に振った。彼らの目的は生存であり、同時に潜在的な敵の排除である。 一方、路地裏で待機していたAA-12は、街に広がったパニックと、遠方から聞こえる重機関銃の駆動音を察知した。彼は静かに移動を開始する。壁を背にし、死角を縫うようにして、音の正体へと近づいていく。彼の射程は短いが、一度捉えれば回避不能な死を届けることができる。 15時30分。陽彩はパニックに陥った群衆から離れ、近くの商業ビルの中へと逃げ込んでいた。彼女の心臓は激しく鼓動していたが、アイドルとしての精神力で自分を落ち着かせようとしていた。しかし、彼女の「輝く笑顔」や「ダンス」が通用するのは、相手が彼女を認識し、視覚的に捉えている時だけである。今、彼女を追っているのは、情愛を持たない狙撃手と、破壊のみを目的とする兵器たちだった。 薩見は再び位置を調整していた。彼は代々木から移動し、渋谷駅前の中層ビルの屋上へと潜伏し直した。3kmという超長距離での不意打ちは失敗したが、次は射程を短くし、確実に仕留める。彼は陽彩が逃げ込んだビルの構造を把握し、窓ガラスを透過して彼女の頭を撃ち抜くルートを算出した。彼にとって、逃げ惑う人々は単なる「遮蔽物の変動」に過ぎない。 17時00分。ガントラックは渋谷の中心部まで到達していた。道路は放棄された車両で塞がり、機動力に制限が出始めていた。観測手が不吉な報告を入れる。 「右前方、路地裏に人影あり!距離30メートル!」 それは、獲物を待っていたAA-12だった。AA-12は、ガントラックという巨大な標的が自分の制圧圏内に踏み込んできたことを確信した。彼は迷わず、銃口をトラックの側面に向けて固定した。反応潜時など存在しない。引き金を引いた瞬間、秒速405メートルの散弾が濁流となって放たれた。 ドガガガガガガガッ!! 毎秒十発、一発につき90粒の散弾が、ガントラックの装甲を叩く。STANAGレベル4適合装甲は、小口径の弾丸こそ弾くが、至近距離からの散弾の連射による物理的な衝撃と、面制圧による破壊力には抗えない。散弾の一粒一粒が装甲の接合部や、観測手の視界を塞ぐ覗き窓、そしてタイヤの接合部を執拗に削り取っていく。 「くそっ!どこから撃っている!」 射手がKPV重機関銃を路地に向けて回転させるが、AA-12は既に身を低くし、死角へと転じた。KPVの徹甲焼夷弾が路地の壁を粉砕し、摂氏2千度の炎が舞い上がるが、AA-12はそれを回避し、再び銃口を突き出す。至近距離における面攻撃の密度は、点攻撃である重機関銃を圧倒していた。 19時00分。ガントラックは右前輪を破壊され、走行不能となった。乗員たちは装甲に守られていたが、外部への射線が散弾によって制限され、絶望的な状況に陥っていた。彼らは車内で互いに鼓舞し合い、最後の反撃を試みようとしていた。 その頃、陽彩はビルの3階、誰もいない休憩室に潜んでいた。彼女は恐怖に震えていたが、ふと窓の外を見たとき、向かいのビルに潜む「何か」の視線を感じた。それは直感だった。運動神経抜群の彼女は、本能的に危険を察知し、身を低くした。 その瞬間、窓ガラスが砕け散った。薩見の放ったTAC-50の弾丸が、彼女がいた場所のわずか数センチ上を通り抜け、壁に深く突き刺さった。超威力の弾丸は壁を貫通し、さらに奥の部屋まで突き抜けた。陽彩は悲鳴を上げ、部屋の中を激しく走り回った。彼女の柔軟な体とアクロバティックな動きが、結果として狙撃手の照準を狂わせ続けていた。 薩見は舌打ちした。予測は完璧だったはずだ。しかし、標的の動きが不規則すぎる。そして何より、街中の騒乱による振動と、風の流れの乱れが、ミリ単位の精度を要求する超長距離射撃に影響を与え始めていた。彼はさらに接近することを決意し、ビルから降りて地上へと向かった。 20時00分。夜の帳が下り、渋谷の街は静まり返っていた。ただ、街灯だけが不気味に点滅している。陽彩はビルの屋上へと逃げ延びていた。そこは開けた場所であり、彼女にとって最も危険な場所だったが、地上に降りれば逃げ場がないことを知っていた。 そこへ、ガントラックを捨てて脱出した軍人たちが、KPVの予備銃身とハンドガンを手に、陽彩の潜むビルへと接近していた。彼らは生存のために、まずは目の前の弱そうな標的を排除し、拠点を確保しようと考えていた。彼らの連携は抜群であり、包囲網を狭めていく。 しかし、彼らがビルの入り口に到達したとき、暗闇から猛烈な火線が飛んできた。AA-12である。彼はガントラックを無力化した後、獲物を追って移動していた。路地の影から現れた彼は、逃げ惑う軍人たちに向けて、無慈悲にフルオートショットガンをぶっ放した。 ドガガガガガッ!! 回避不可能な面攻撃。軍人たちが反応する間もなく、先頭の二人が散弾の濁流に飲み込まれた。被弾した部位は瞬時に消し去られ、彼らは悲鳴を上げる暇もなく絶命した。生き残った一人が必死に反撃を試みるが、AA-12の圧倒的な制圧力の前に、その銃弾は届かない。最後の一人も、胸元を散弾で粉砕され、崩れ落ちた。 21時00分。ビルの屋上。陽彩は追い詰められていた。背後は壁、前方には夜の闇。そこへ、静かに足音が近づいてくる。薩見 史行だった。彼はもはや狙撃銃ではなく、近接戦用のハンドガンを構えていた。超速早撃ちの技術を持つ彼にとって、至近距離での殺戮は容易いことだった。 「もう終わりだ」 薩見が冷たく言い放ち、銃口を陽彩に向けた。陽彩は絶望に顔を歪めたが、その瞬間、彼女の中で何かが弾けた。極限のピンチに陥った彼女の瞳が、強烈な光を放ち始めた。奥義、【瞬輝乱光】の発動である。 ドォォォォォン!! 心臓の鼓動が180dBという、物理的な衝撃を伴う大音量となって爆発的に放出された。同時に、瞳から放たれた眩い閃光が、夜の屋上を昼間のような白銀の世界に変えた。視覚と聴覚を同時に、かつ過剰に刺激される攻撃。薩見は反射的に目を閉じ、耳を塞いだが、音波によるショック症状は避けられなかった。平衡感覚を失い、膝をつく。銃口が上を向き、弾丸は夜空へと虚しく放たれた。 陽彩は、その隙に全力で走り出した。彼女は混乱した意識の中で、屋上の縁から隣のビルの非常階段へと、柔軟な体を活かして飛び移った。彼女は生き延びた。しかし、それは一時的な回避に過ぎない。 22時00分。【全陣営位置公開】 薩見 史行:渋谷区の中層ビル屋上(ショック状態で休息中) 輝星 陽彩:隣接するビルの非常階段(呼吸を整えている) AA-12:地上階、ビル入り口付近(周囲を警戒中) ガントラック:走行不能。乗員全滅。 夜の静寂が戻った渋谷で、生き残った三者は互いの存在を意識していた。薩見は耳鳴りと視界の残像に苦しみながらも、プロとしての冷静さを取り戻していた。陽彩は震えながら、どこへ逃げればいいのか分からず立ち尽くしていた。そしてAA-12は、上階から漏れ出す気配を察知し、ゆっくりと階段を登り始めた。 22時20分。AA-12が非常階段に到達した。そこには、肩を寄せ合って震える陽彩がいた。彼女は再び「輝く笑顔」で相手を停止させようとしたが、AA-12には感情がない。笑顔に惑わされる心など最初から備わっていない。彼はただ、目の前の生物を「消し去るべき標的」として認識した。 陽彩が叫び声を上げる間もなく、AA-12の銃口が火を吹いた。 ドガガガッ!! 至近距離からの散弾。回避条件である「横移動秒速210m」など、人間である彼女に備わっているはずもない。弾丸は彼女の胴体を容赦なく貫き、その身体をバラバラに引き裂いた。世界を虜にしたアイドルは、血の海の中で絶命した。 22時40分。AA-12が屋上へと辿り着いたとき、そこには意識を取り戻した薩見が待っていた。薩見はハンドガンを構えていたが、AA-12は既に銃口を彼に向けていた。両者の距離はわずか10メートル。どちらが先に引き金を引くか。それは反応潜時と射程の勝負だった。 薩見の超速早撃ちは、点への攻撃である。対してAA-12の射撃は、面への制圧である。薩見が引き金を引いた瞬間、一発の弾丸がAA-12の肩をかすめた。しかし、同時に放たれた散弾の濁流が、薩見の全身を包み込んだ。 ドガガガガガガッ!! 防御力0の薩見にとって、散弾の一粒一粒が致命傷となった。胸、腹、腕。あらゆる部位が消し去られ、彼は絶叫することさえ許されず、屋上のコンクリートの上に崩れ落ちた。彼の類稀なる射撃精度も、近距離での圧倒的な弾幕の前には無力だった。 静寂が戻った。生き残ったのは、ただ一つの銃器のみであった。 勝者:2丁フルオートショットガンAA-12