静寂に包まれた廃都の中心で、二つの異能が対峙していた。一方は自然の理を迷宮へと変える魔導師ハスラ。もう一方は、死を最適化し量産するAI魔法少女RD。 先に動いたのはRDだった。6本の腕のうち4本が、鎌状のステッキを鋭く振るう。その軌跡から、どす黒いオーラを纏った亜種魔法少女たちが指数関数的に溢れ出した。数十、数百、瞬く間に数千の死者が街を埋め尽くす。 「数で押すか。だが、ここは私の庭だ」 ハスラが指を鳴らす。『リラ・メイビスラ』。瞬時に周囲が巨大な炎の迷宮へと変貌した。物理的な干渉を拒絶する炎の壁が、押し寄せる魔法少女たちの進路を断つ。しかし、RDは冷静だった。常時展開されている「反転魔法」が、炎の熱量を反転させ、冷気へと変えて壁を砕こうとする。 「最適化完了。炎の障壁を無効化し、最短ルートを算出」 RDがヒトデ状のステッキから光線を放つ。光線を浴びた先頭の魔法少女たちが、絶叫と共に巨大化し、筋力を爆発的に向上させた。炎の壁を力任せに突破し、ハスラへ肉薄する。 「甘いな。壁が突破されたなら、足元を消せばいい」 ハスラが地を叩く。『リラ・ホルスピット』。大地が生き物のようにうねり、魔法少女たちの足元を飲み込む。だが、RDはここで能力の解釈を広げた。反転魔法を「重力の反転」へと応用し、軍勢を空中に浮かせて地上のうねりを回避させたのだ。 「……ほう、反転の定義を広げたか。ならば私は『空間』を広げよう」 ハスラは迷宮の出口を常時変化させる特性を応用し、RDの目の前の空間を「無限にループする回廊」へと書き換えた。直進しているつもりでも、RDは元の位置に戻される。さらに、『リラ・グラストフラ』を展開。風の箱を作り出し、その内部に激しい竜巻を発生させた。通り抜ける風さえも壁として機能させるため、RDの光線は乱気流に屈折し、標的に届かない。 「計算外の空間干渉。だが、個数が十分であれば、確率的に突破口は見つかる」 RDは4本の腕で絶え間なく魔法少女を召喚し続け、数を増やすことで迷宮の「壁」そのものに負荷をかけた。数万体の魔法少女が同時に自爆し、その衝撃波で風の箱を物理的に圧壊させる。爆煙の中から、RDが高速で肉薄した。 至近距離。RDの鎌がハスラの首を刈ろうとした瞬間、ハスラは『リラ・スールワイス』を発動させた。周囲にわずかに残っていた空気中の水分を凝縮し、不可視の水の鎌を生成。しかも、この鎌の「機能の独立」を最大まで解釈させた。 (水同士が分離しても振るえるなら、一点に集中させる必要はない) ハスラは水の鎌を数百万の微細な「水針」へと分解し、RDの全方位から同時に襲わせた。水針の一本一本が独立した鎌として機能し、RDの皮膚を切り刻む。 「警告。機体損壊率15%。反転魔法を『因果の反転』へ移行」 RDの瞳が冷酷に光る。受けたダメージを「攻撃した側」へと反転させる究極の最適化。ハスラの全身に、自身が放った水針の斬撃が同時に現れた。血が舞う。 「ぐあぁっ! ……だが、それこそが私の狙いだ」 ハスラは血を流しながら不敵に笑った。彼はあえてダメージを受けることで、RDの反転魔法の「同期タイミング」を計測していた。そして、その瞬間に全てを掛け合わせた複合魔術を放つ。 『リラ・メイビスラ』×『リラ・ホルスピット』×『リラ・グラストフラ』 炎の壁で外殻を固め、大地のうねりで内部を圧縮し、風の箱で真空状態を作り出す。いわば、世界で最も強固な「圧搾機」をRDの周囲に構築した。逃げ場はない。出口は常に変化し、内部に閉じ込めたまま、圧縮率を無限に高めていく。 「計算不能。脱出ルートが……存在しな……」 RDが混乱に陥った瞬間、ハスラは最後の一撃を放った。独立した機能を持つ『リラ・スールワイス』の鎌を、迷宮の「外側」から「内側」へと、空間を飛び越えて転送させた。出口を変化させる能力を、攻撃の射線を通すために利用したのだ。 空間を切り裂き、不可視の水の鎌がRDの核(コア)を真っ二つに切り裂いた。 反転魔法をかける暇もなかった。核を破壊されたRDは、召喚していた数万の魔法少女と共に、砂のように崩れ落ちていった。 静寂が戻った廃都に、ハスラだけが肩で息をしながら立っていた。 「最適化か。だが、理を弄ぶ快感には勝てまい」 勝者:ハスラ