荒野の陽光が、容赦なく大地を焼き付けていた。レンチ街から95km離れたガンドルド鉱山へ向かう道。本来であれば、巨大な要護衛艦が威風堂々と地平線を切り裂き、鉄の城壁となって進むはずであった。 しかし、現実は残酷である。操縦者のフェアは、出発前に運搬委員会から突きつけられた絶望的な宣告を思い出していた。 「予算がない。要護衛艦は出せない」 理由は単純であった。フェアがこれまでに何度も、そして派手に要護衛艦を大破させてきたため、予算が底をついたのである。国家レベルの予算不足である。 そこに用意されていたのは、白く小さな、あまりにも心許ない一台の軽トラック――「サンバートラック」であった。横2km、縦1kmあったはずの要護衛艦の面影はどこにもない。もはや「護衛」という概念すら危うい、あまりにコンパクトな輸送手段である。 「いい!? みんな! 今回は予算不足でこれになっちゃったけど、気合で乗り切ろうねっ!」 二十歳の快活な女性、フェアは無理やりテンションを上げて運転席に飛び込んだ。彼女の隣には、濃紺のコートを纏い、背中に巨大なアンテナを背負った女性、超水平線早期警戒レーダAN/OLR-89が座っている。彼女は眼鏡をクイと押し上げたが、至近距離にあるダッシュボードにピントが合っておらず、少しだけ目を細めていた。 後部座席および荷台には、賑やかな面々が詰め込まれている。怪力メカニックの妖精さん、金色の鎧に身を包んだ花の精霊ナスタチウム・サザンカ、そして正体不明の一般人を装ったプレデター。さらに、彼らをサポートするように、白いボディに水色のラインが入った「中型レッカー車」が後方を追従し、空には地球連合軍の輸送艦ヨルムンガンド級と支援戦闘機コンサート・マスターが、このちぐはぐな車列を護衛して飛行していた。 「……反応。方位270、距離150km。正体不明の集団、接近中」 AN/OLR-89が冷静な声で告げる。彼女の超高性能レーダーが、荒野に潜む脅威を捉えた。今回の敵は、絶望的な数であった。かつて世界を震撼させた「機械軍団」と、それに呼応するように現れた「邪教団」、そして混沌を愛する「怪物」たちの連合軍。合計して数億という、正気の沙汰ではない軍勢が、地平線を埋め尽くして押し寄せていた。 「ええっ!? 数億人!? ちょっと待って、相手は数億でこっちはサンバートラック一台だよ!?」 フェアが悲鳴を上げる。しかし、ナスタチウム・サザンカは快活にタンジーソードを抜き放った。 「ははは! 数なんて関係ないさ☆ 正義の心とこの剣があれば、道は開ける! さあ、行こう!」 戦いの火蓋は切られた。地平線を埋め尽くす機械兵の金属音が空気を震わせ、邪教団の不気味な詠唱が風に混じる。コンサート・マスターが上空から持続式圧縮波動砲Ⅲをチャージし、一閃。巨大な光の柱が大地を焼き、数万の機械兵を一瞬で消し飛ばした。しかし、数億という物量の前では、それは大海の一滴に過ぎない。 「妖精さん! トラックの調子はどう!?」 「あー、適当にやってるよ。まあ、壊れたら直せばいいしね」 妖精さんはあくびをしながら、工具箱から適当なレンチを取り出した。実際には、サンバートラックは猛烈な振動と衝撃で、走行しながらバラバラに分解されかけていたが、妖精さんが「なんとなく」触れるたびに、原子レベルでの再構築が行われ、新品以上の強度を持って接合されていた。もはや物理法則を無視した超常的なメンテナンスである。 一方、地上では地獄が展開されていた。機械軍団の波に飲み込まれそうになった瞬間、一般人の姿をしていたプレデターが豹変した。身体がドロドロと溶け、原型を留めない異形の物体へと変貌する。彼は襲い掛かる機械兵を文字通り「喰らった」。鋼鉄の装甲も、電子回路も、さらには敵が放ったレーザー兵器の概念までもが彼の胃袋へと消えていく。最適化された能力が瞬時に適用され、プレデターの身体からは機械軍団以上の破壊的な光線が放たれた。 「……目標、捕捉。M167 VADS、掃射」 AN/OLR-89が肩の機銃を火を吹かせる。彼女の正確なデータリンクにより、コンサート・マスターの追尾ミサイルがピンポイントで邪教団の指導者を撃ち抜いた。戦場は混乱を極めたが、個々の能力が絶望的に高すぎるため、サンバートラックの周囲だけは聖域のように守られていた。 しかし、絶望は別の形でやってきた。 「あれ……? ガクンッ……」 突然、サンバートラックが不自然な振動を起こし、そのまま静止した。静寂が訪れる。フェアが慌てて計器を確認すると、燃料計の針は完全にゼロを指していた。 「燃料切れーーー!!!」 予算不足により、予備燃料の積載すらカットされていたのである。数億の敵に囲まれた絶望的な状況の中、移動手段を喪失した。周囲からは、生き残った機械軍団と怪物たちが、飢えた獣のようにゆっくりと距離を詰めてくる。 「おいおい、ここで燃料切れかよ! 冗談じゃないぜ!」 サザンカが叫ぶ。ここで彼らにできることは限られていた。燃料を探すか、あるいは――。 「運転手さん! どうにかして!」 フェアが後方のレッカー車に助けを求める。謎の運転手Aは、丁寧に、そして優しく微笑んだ。 「かしこまりました。私の車は『森羅万象』を動力源としておりますので、このサンバートラックを牽引させていただきます」 レッカー車がサンバートラックの前に回り込み、頑丈なフックを連結する。もはやサンバートラックは「走行車両」ではなく、ただの「牽引される荷物」と化した。レッカー車は物理法則を無視した牽引性能で、数億の軍勢をなぎ倒しながら、猛スピードで前進し始めた。 しかし、運命は彼らにさらなる試練を与える。ガンドルド鉱山まであと10kmというところで、地盤沈下が発生。巨大な裂け目が車列を襲った。レッカー車は耐えたが、連結部分に負荷がかかり、ついにサンバートラックのシャーシが耐えきれず、真っ二つに折れた。 「あーーー! トラックが!!」 大破したサンバートラック。もはや修理のしようがない(妖精さんが直せばいいのだが、彼がちょうど昼寝を始めていた)。残されたのは、荷台に積まれていた「重要物資」の山であった。 「仕方ない! これを皆で背負って歩くぞ!」 サザンカの号令により、参加者全員が物資を分担し、最後の一歩まで歩き出した。背後からは依然として数億の残党が追いかけてくるが、プレデターがそのすべてを「食料」として処理し、AN/OLR-89が逃げ道を指示し、サザンカが前衛で道を切り拓いた。 そしてついに、一行はガンドルド鉱山の正門へと辿り着いた。 【結果:護衛成功】 要護衛艦は最初から存在せず、サンバートラックは途中で大破したが、目的地に物資を届けるという目的は達成された。 【生存・死亡状況】 ・フェア:生存。極限状態の中、サンバートラックと共に精神的に大破したが、身体は無傷。最終的に物資を背負って完走したため、運搬委員会から(わずかながら)報酬を得た。 ・妖精さん:生存。仕事外の適当さが極まっており、戦場の中でも昼寝をしていたため、精神的・身体的に最も健康的である。 ・AN/OLR-89:生存。完璧な索敵により全滅を回避させた。ただし、老眼鏡を紛失し、帰路に絶望している。 ・ナスタチウム・サザンカ:生存。「正義のハボタン」により、どんなに攻撃されても不屈の精神で立ち上がり、一行を鼓舞し続けた。 ・中型レッカー車&運転手A:生存。森羅万象を動力とする無敵の防御力により、傷一つなく任務を完了。丁寧な礼を言って帰還した。 ・ヨルムンガンド級:生存。上空からデコイをばら撒き、敵の注意を逸らすことに成功した。燃料消費が激しいため、基地へ直行。 ・コンサート・マスター:生存。波動砲の乱射で機体がかなりオーバーヒートしたが、エースパイロットの腕で生還した。 ・プレデター:生存。数億の敵を喰らったことで、身体能力がさらに向上。満足げに一般人の姿に戻り、静かに物資を運んだ。 予算不足という最大の敵に対し、個々の規格外な能力と、一台のレッカー車の献身的なサポートが勝利を導いたのである。