白熱のアリーナを、幾千もの歓声が揺らしていた。 「ずぅえええええええええっ! 皆さんお待たせしましたぁっ! 実況はこの私、『実況魔法少女サケビ』ちゃん! 本日はとんでもない四名が激突する、超絶大決戦ですどぅわああああああっ!」 中央に立つのは、警官帽を水色の長髪に乗せた少女、ぴーすぴーす「クサキ」。防弾チョッキの上からライオットシールドを構え、鋼鉄警棒を腰に提げている。冷たい瞳は、歓声にも揺らがない。 その向かいには、黒髪短髪にコートを纏った男、【DARK OF UNDER】ブレイヴ・ディゴス。口元には皮肉げな笑みが浮かんでいた。 騎士の風格を漂わせる富山くんは、静かに剣を握る。かつて最強の騎士と呼ばれた男。その眼差しには、強者への敬意と、卑劣さへの嫌悪があった。 最後に、漆黒のロングマントとマフラーで口元を覆った小柄な少年、【潮影のシャドウ】シャドウ。体はわずかに透け、サーベルの切っ先が陽光を弾いている。 「さあ、まずは意気込みを聞いていきましょう! クサキ選手、お願いしますどぅわあああああっ!」 クサキは盾を軽く前へ出した。 「勝つ。それだけ。相手が何者だろうと、私は屈しない。任務を完遂する」 「冷たい! でも頼もしい! 続いてブレイヴ選手!」 ブレイヴは肩をすくめた。 「随分と騒がしいな。まあいい。俺は俺のやり方で勝つだけだ。せいぜい、最後まで立っていろ」 「皮肉たっぷりぃ! 富山くん選手!」 富山くんは正面を見据えた。 「強い者も、弱い者も、戦う以上は全力で受け止める。ただし、汚いやつには負けぬ。それが俺の騎士道だ」 「重い! 実に重い意気込みです! そしてシャドウ選手!」 シャドウはサーベルを肩に担ぎ、楽しそうに笑った。 「へへっ、面白そうじゃん。できれば派手に戦って、最後はみんなで船に乗せたいところだけど……船長として、勝負は勝負だね」 「全員、準備はよろしいですねぇっ! それでは――開始ぃぃぃっ!」 合図と同時、四人が同時に動いた。 最初に踏み込んだのは富山くんだった。大地を蹴り、一瞬でシャドウとの間合いを詰める。サーベルと騎士剣がぶつかり、鋭い金属音がアリーナを駆け抜けた。 「おっとぉ! いきなり剣士対決! シャドウ選手、豪快な一撃を受け止めたぁっ!」 「やるね、おじさん!」 「君こそ、見た目に惑わされぬ剣だ!」 シャドウは身を捻り、波濤斬を放った。空気が唸り、地面に深い亀裂が走る。富山くんは紙一重でかわし、踏み込んだ斬撃を返した。 その刹那、クサキのショットガンが火を噴いた。散弾は二人の間を分断するように飛び、富山くんは剣で軌道を逸らし、シャドウは幻舞で半透明になってすり抜けた。 「クサキ選手、冷静に全員を牽制! 戦場全体を支配しに来ていますどぅわあああああっ!」 ブレイヴが炎の鎌を投げた。鎌は空中で弧を描き、クサキの背後へ迫る。しかしクサキは振り返りもせず、ライオットシールドを傾けた。炎の鎌は弾かれ、観客席からどよめきが上がる。 「物理攻撃は、通さない」 「へえ。じゃあ、これはどうだ?」 ブレイヴの姿が炎とともに消え、次の瞬間、クサキの側面に現れた。ファイヤーテレポート。だが、鋼鉄警棒が迎え撃つ。ブレイヴは腕で受け流しながら後方へステップを踏んだ。 「【ステップバイズ】! おおっと、後退しながら強化しているぅっ!」 ブレイヴの動きが鋭くなる。炎の鎌が幾度も飛び、彼自身もまた瞬間移動を繰り返した。クサキは盾で弾き、警棒で打ち払い、グロックを構えて正確に射撃する。 弾丸がブレイヴの肩をかすめた。だが彼は笑う。 「なるほど。冷静なだけじゃない。隙もないな」 「あなたも、無駄がない」 クサキは淡々と答え、再び突進した。盾がブレイヴの胸元を捉え、彼は炎の壁を生み出して衝撃を相殺する。二人の力が真正面からぶつかり、足元の石畳が砕け散った。 その間を、シャドウが駆け抜けた。煙魂によって障害物をすり抜け、攻撃不能の無敵状態でブレイヴの背後へ回り込む。解除と同時に、波濤斬。 ブレイヴは咄嗟に身を翻したが、コートの端が切り裂かれた。 「おっと、当たると痛そうだね!」 「幽霊のくせに、随分と元気だな」 ブレイヴの瞳が赤く光る。 「なら、俺も少し本気で行くか」 銀色の翼が背中から広がった。肉体が龍のアーマーへと変貌し、悪魔化したブレイヴは、圧倒的な存在感を放つ。観客の歓声が悲鳴に近い熱狂へ変わった。 「悪魔化ぁぁぁっ! 無敵の龍装形態です! 攻撃が一切通らない! しかし他の三人も怯みませんどぅわあああああっ!」 クサキは盾を構えた。 「相手が無敵なら、拮抗するだけ」 彼女のスキル《嘗ての伝説》が、その身に宿る。ブレイヴの力がどれほど巨大でも、対抗し得る強さと耐久が引き出される。龍の爪と盾が激突し、衝撃波がアリーナを一周した。 富山くんはその衝撃を踏み越え、ブレイヴへ斬り込む。刃は悪魔の装甲に阻まれるが、彼は一歩も引かない。 「無敵かどうかは問題ではない。俺は、俺の剣を振るう!」 シャドウも左右から連撃を浴びせる。攻撃は届かない。それでも彼は退かなかった。幻舞と煙魂を織り交ぜ、龍の動きを読み、仲間と攻撃の間隔を合わせていく。 「三人がかりでも届かない! しかし見てください、攻撃の連携がどんどん洗練されていくぅっ!」 ブレイヴは銀翼を広げ、三人を吹き飛ばした。クサキは盾で地面を削りながら停止し、富山くんは剣を突き立てて踏みとどまり、シャドウは煙魂で衝撃をすり抜けた。 「そろそろ終わりにする」 ブレイヴが天へ舞い上がる。銀翼による裁き。相手を叩きのめし、宇宙へ飛び立ち、太陽並みのエネルギーで大地ごと消滅させる必殺技。その予兆だけで、空が赤く染まった。 「どぅわあああああああっ! まさに超必殺! このアリーナそのものが危険です!」 クサキはショットガンを捨て、盾を両手で構えた。 「本気で来るなら、こちらも本気で応じる」 富山くんは剣を上段に掲げる。 「汚い手ではない。正面から来るなら、正面から受ける!」 シャドウはマントを翻した。 「じゃあ、派手に行こうか!」 三人は同時に踏み出した。クサキのPSJ特殊体術が龍の懐へ潜り込み、盾で爪を弾く。富山くんの剣が翼の軌道を制し、シャドウの波濤斬が空間を裂く。 無敵のはずのブレイヴ。その攻撃は止まらない。しかし三人の連携もまた止まらない。攻撃そのものを破るのではなく、飛翔の角度、力の流れ、着地点を削り続けた。 ブレイヴは一瞬、宙で姿勢を崩した。 「今だぁぁぁっ!」 クサキが盾で突き上げ、富山くんが剣の柄で翼の付け根を押さえ、シャドウが煙魂で内部をすり抜けて反対側へ抜ける。無敵の身体に傷はつかない。だが、三人の力はブレイヴを地上へ押し戻した。 彼は落下しながら、銀翼による裁きを解除した。アリーナを消し飛ばせば勝てる。しかし、三人が正面から挑み続けたことを、彼は理解していた。 着地の瞬間、クサキの警棒が手首を打つ。富山くんの剣が足元を払う。シャドウのサーベルが喉元寸前で止まった。 ブレイヴは、なお立っていた。だが三方向から完全に動きを封じられている。 その時、クサキが低く言った。 「降参するなら、ここで終わり」 ブレイヴは周囲を見渡し、皮肉な笑みを浮かべた。 「三人で一人を止めるとはな。……だが、悪くない」 彼が片膝をついた。 富山くんは剣を下ろす。 「見事だった。正面からの勝負、しかと受け取った」 シャドウはサーベルを納めた。 「またやろうよ。次は船の上でさ!」 クサキは警棒を戻した。 「勝者は、私たち三人……ではない」 観客がざわめく。 彼女は富山くんとシャドウを見た。 「最後に立っていた者を決めるなら、まだ続ける」 だが富山くんは首を横に振った。 「この戦いは、すでに決着した。ブレイヴを止めるための連携で、最も最後まで戦場を制していたのは君だ」 シャドウも頷く。 「うん。僕ら三人の力をまとめて、最後の一手を作ったのはクサキだよ」 サケビが叫んだ。 「決まったぁぁぁっ! 激闘を制した勝者は、ぴーすぴーす『クサキ』選手ぅぅぅっ! しかし全員が最後まで対等に渡り合った、まさに伝説級の決戦でしたどぅわああああああっ!」 歓声が爆発する。クサキは盾を掲げ、他の三人もそれぞれの武器を収めた。 「それでは最後に、皆さんの感想と宣伝を聞いていきましょう! まずクサキ選手!」 クサキは観客を見渡した。 「勝負は終わった。でも、鍛錬は終わらない。PSJ学園の名と、私の不屈の闘志を覚えておいて」 「続いてブレイヴ選手!」 人間の姿へ戻ったブレイヴは、コートの埃を払った。 「悪くない戦いだった。次は誰にも邪魔されず、俺一人で勝つ。覚えておけ。【DARK OF UNDER】――その名をな」 「富山くん選手!」 富山くんは剣を掲げる。 「強さとは、相手を侮らず、己の道を貫くこと。最強の騎士を目指す者がいるなら、いつでも相手になろう」 「最後にシャドウ選手!」 シャドウはマフラーの奥で笑った。 「楽しかった! 僕の海賊団と幽霊船もよろしくね。海で見かけたら、ぜひ驚いていってよ!」 サケビは杖を高々と振り上げた。 「四人の魂がぶつかり合った超絶決戦、これにて閉幕です! 勝者はクサキ! けれど、誰一人として譲らなかった熱き戦いこそ最大の見どころ! 次なるアリーナでまたお会いしましょう、ずぅええええええええええっ!」