空は抜けるように青く、戦場となる荒野には静寂が満ちていた。しかし、その静寂を切り裂いて、黄金の閃光が舞い降りる。 「ナメないで下さいまし! このカリナが、完膚なきまでに浄化して差し上げますわ!」 金髪をなびかせ、戦闘用聖女ローブを翻して滞空するカリナ。背中の特殊聖杖『アルテミカ』から放たれる風爆の推進力で、彼女は文字通り「戦闘爆撃機」として空を支配していた。 対するは、奇妙な動作を繰り返す男、ペンチ・ウォーマー。彼は今、人生で最も重要な儀式――『戦神ウォー・ムアップの祝福』による準備運動の真っ最中であった。 「ふんっ、ふんっ……。よし、肩の凝りが取れた。心は澄み渡り、身体は完全に覚醒したぞ」 ペンチが最後の手首回しを終えた瞬間、彼の周囲の空気が変わった。集中力と判断力が限界を突破し、戦神の加護が彼を「不滅の天才」へと変貌させる。 「行きますわ!」 カリナが先手を取る。指先から放たれる【風爆】。それは単なる魔弾ではない。彼女は風爆を「点」ではなく「面」で展開し、不可視の空気の壁をペンチの周囲に構築。逃げ道を塞ぎながら、上空から【極聖光弾】を雨あられと投下した。 ドォォォン!! 大地を揺らす聖なる爆撃。浄化の光がペンチを飲み込む。しかし、煙の中から悠然と歩き出るペンチの姿があった。かすり傷一つない。 「なるほど、風爆で逃げ道を塞ぎ、上空から爆撃か。理にかなった戦術だ。だが……」 ペンチの脳内に、戦神の祝福による「閃き」が奔る。 (風爆は推進力にもなる。ならば、相手が放つ『風の圧力』を逆に利用すればいい!) ペンチはあえてカリナの次の風爆を正面から受け止めた。しかし、それを避けるのではなく、身体の重心を極限まで低くし、風のベクトルを足裏で「受け流す」のではなく「反射」させたのだ。 「えっ……!?」 風爆の反動を推進力に変換したペンチは、弾丸のような速度でカリナへ肉薄する。空中で不意を突かれたカリナが慌てて【光砲点火】で後退しようとするが、ペンチは空中で身体を捻り、風の渦を自らの身体に巻き付けた。 【閃き技:エアロ・スプリング】 カリナが放った風の圧力をバネのように溜め込み、それを一気に解放して空中で方向転換。死角からカリナの懐に飛び込む。 「お、お転婆が過ぎますわ! 離れてくださいまし!」 カリナは至近距離で【極聖光弾】を零距離射撃し、爆風でペンチを弾き飛ばそうとする。だが、身体能力を全て引き出したペンチは、爆発の衝撃波が到達する直前、衝撃波の「節(ふし)」を読み切り、最小限の動きでそれを回避しながら拳を突き出した。 ドガッ!! 聖杖アルテミカを盾にしたカリナの脇腹に、鋭い一撃が突き刺さる。衝撃で後退するカリナ。彼女の橙色の瞳に、初めて焦りが浮かんだ。 「なんてこと……! 私の攻撃を読み、しかも利用しているというのですか!?」 「準備運動は万能だからな。さて、次はどう来る?」 カリナは唇を噛み、不敵に微笑んだ。負けず嫌いな彼女が本気を出す。彼女は『アルテミカ』の聖核を最大出力まで解放し、自らの機動力を極限まで高めた。 「いいでしょう! ならば、追いつけない速度で貫いて差し上げますわ!」 【光砲点火】――六連の極光が彼女の背後で爆発的に噴射される。超加速。視界から消えるほどの速度で、カリナは一本の黄金の槍へと化した。 奥義――【突撃聖槍】!! 直線的な、しかし絶対的な破壊力を持つ一撃。空間すらも浄化して突き進む光の槍に、ペンチは静かに構えた。彼の脳内で、さらなる超絶的な戦法が閃く。 (直線的な超加速。速度は凄まじいが、それゆえに『軌道』は固定される。ならば、衝撃の矛先を自分ではなく、自分を介して『地面』へ流せばいい) 【閃き技:聖光導電・地脈還流(グランド・リダイレクト)】 ペンチは逃げなかった。あえて突撃聖槍の正面に立ち、突き刺さる直前、掌をカリナの光の槍に添えた。力で止めるのではない。聖光のエネルギーの流れに沿って、自らの身体を「導電管」のように使い、その莫大なエネルギーを足元の地脈へと逃がしたのだ。 ズガガガガガッ!!! ペンチの足元から大地が激しく陥没し、聖光が地中へと吸い込まれていく。衝撃波で周囲の岩石が粉砕されるが、ペンチ自身は無傷。そして、速度を殺されたカリナが、彼の目の前に静止した。 「……っ!?」 「チェックメイトだ」 ペンチはそのまま、至近距離から【閃き技:戦神の指弾(ウォー・フリック)】を放った。指先一つで弾き飛ばす、極小ながら全身体能力を一点に集中させた衝撃波。 ドォォン!! カリナは背後の岩壁まで吹き飛ばされ、激しく衝突した。聖杖アルテミカが手から離れ、地面に転がる。 「……うぅ。負けましたわ……。まさか、準備運動だけでここまで……」 カリナは肩で息をしながら、悔しそうに、けれどどこか感心したようにペンチを見た。 「いい戦いだった。お嬢ちゃん、君の『爆撃機スタイル』は合理的だったぞ。だが、準備運動を怠るなよ」 ペンチは屈伸してクールダウンを始めながら、余裕の笑みを浮かべた。 勝者:ペンチ・ウォーマー