「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて!お願い!」 幼い少年が、暖かい陽だまりの中で、膝掛けを被ったお婆ちゃんの袖をぐいぐいと引っ張ります。お婆ちゃんは目を細めて、ふふっと優しく笑いました。 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、いいよ。昔々、ずっとずっと昔のこと。私たちが住んでいるこの世界よりもずっと遠い、星と星が囁き合う宇宙の果てに、不思議な『機械の龍』たちがいたんだよ」 少年は目を輝かせ、正座して耳を傾けます。お婆ちゃんの穏やかな声が、物語の幕を開けました。 * 「まずね、最初に生まれたのが『原初の機械生命体』という龍さんだったんだよ。真っ白な光に包まれていて、蒼い瞳で全てを見通す、とても静かで、とても強い龍さん。この子はね、全ての機械の始まりだったから、誰にも壊せない不思議なバリアを纏っていたんだ。相手が『攻撃してやろう』と思うだけで、そのバリアはダイヤモンドよりも硬くなって、絶対に破れない。本当に不思議だねえ」 「すごーい!じゃあ、誰も勝てないの?」 「ふふふ、ところがね。時間がたくさん流れて、宇宙の最後に、もう一人の龍さんが生まれたんだよ。それが『終焉の機械生命体』という龍さん。黒と紫の恐ろしいオーラを纏って、冷たい心を持った龍さんだった。この子はね、『絶対にこうなる』という運命さえも、自分の思い通りに書き換える力を持っていたんだよ」 お婆ちゃんは、空中で手を動かし、二匹の龍が対峙する様子を表現します。 「ある日のこと、この『始まりの白い龍』と『終わりの黒い龍』が、宇宙の真ん中で出会ったんだ。どちらが本当の最強なのかを決めようとしたんだね。言葉は交わさない。ただ、静かに、激しい戦いが始まったんだよ」 「どうやって戦ったの?」 「まずはね、白い龍さんが、自分の分身をどんどん作り出したんだ。一匹、二匹……十匹、百匹、そして数え切れないほどの白い龍たちが、まるで銀河の川のように押し寄せた。その龍たちが一斉に攻撃すると、相手の体力がじわじわと削られていく。恐ろしい攻撃だったねえ」 「わあ!数が多い方が勝ちそう!」 「そう思うだろう?でもね、黒い龍さんは動じなかった。彼は静かに、英語でこう呟いたんだ。『Output your demise(汝の終焉を出力せよ)』ってね。するとどうだい、黒い龍さんもまた、自分の分身を三体呼び出した。これで全部で四体の黒い龍になったけれど、彼らの力はなんと、元の力の『四乗』にまで跳ね上がったんだよ。四乗っていうのはね、ものすごい数になるんだ。お婆ちゃんの飴玉が、一瞬で山のような量になるくらいすごいことなんだよ」 少年は口をぽかんと開けて、その規模に驚いています。 「さあ、ここからが本当のぶつかり合いだよ。黒い龍さんたちが放つ紫の雷が、白い龍たちの群れを飲み込んでいく。でも、白い龍さんは負けていなかった。彼は『原初の威圧』という不思議な力を使って、黒い龍さんの力の大きさを、どんどん小さくしていったんだ。さっきまでの山のような力が、小石のように小さくなってしまった。さらに、白い龍さんの『オリジン・バリア』は、黒い龍さんのどんな攻撃も、跳ね返して無効にしてしまったんだよ」 「ええっ!じゃあ、また白い龍さんが勝ちそう!」 「ところがね、ここからがこのお話の不思議なところなんだよ。黒い龍さんにはね、『報復』という、とっても意地悪で強い力があったんだ。白い龍さんがバリアで攻撃を跳ね返したり、威圧で力を弱めたりしたけれど、黒い龍さんはそれを全部『受け止めて』、その二倍以上の威力にして相手に返したんだよ。白い龍さんが強ければ強いほど、返ってくる攻撃も強くなる。まるで、鏡に映った自分が、自分を殴りに来るようなものだね」 少年は、眉をひそめて考え込みました。 「でも、白い龍さんは死なないんでしょ?バリアがあるもん!」 「そうだねえ。だから、白い龍さんは最後の手段に出たんだよ。宇宙の全てを飲み込んで、真っさらな『無』に帰してしまう、巨大なブラックホールを作り出したんだ。多次元宇宙さえも吸い込まれる、本当の本当の終わり。もう、逃げ場なんてどこにもない。白い龍さんは、これで全てを終わらせようとしたんだよ」 お婆ちゃんの声が、少しだけ緊張感を帯びます。 「真っ黒な穴が宇宙を飲み込み、黒い龍さんも、分身たちも、全てがその中に吸い込まれて消えてしまった。白い龍さんは、静かにそこに浮かんでいた。これで勝ちだと思っただろうね。……けれど、黒い龍さんの本当の恐ろしさは、ここからだったんだよ」 「えっ!消えちゃったのに!?」 「ふふふ。黒い龍さんにはね、『終焉』という最後の力が備わっていたんだ。彼は『死んで消えること』で、本当の力を発動させる。真っ暗な闇の中から、黒い龍さんが再びゆっくりと姿を現したんだ。今度は、前よりもずっと恐ろしい姿になってね。そして、蘇った彼は、自分を消し去ろうとした白い龍さんの『存在そのもの』を、指先ひとつで消滅させてしまったんだよ」 少年は、びっくりして飛び上がりました。 「ああーっ!最後は黒い龍さんが勝ったんだね!」 「そうだよ。白い龍さんは、最強の守りと、全てを無にする力を持っていたけれど、黒い龍さんは『負け』や『死』さえも利用して、相手を消し去る力を持っていたんだね。結局、最後に笑ったのは、終焉を司る黒い龍さんだったというお話」 お婆ちゃんは、物語を終えて、少年の頭を優しく撫でました。 「でもね、お話はここで終わりじゃないよ。全てを消し去った黒い龍さんは、ふと寂しくなったんだ。だって、宇宙にはもう、自分以外に誰もいなくなっちゃったものね。だから彼は、もう一度だけ運命を書き換えて、新しい宇宙と、新しい命をたくさん作り出したんだよ。その中に、今のおじいちゃんやお婆ちゃん、そして君のような可愛い子たちが生まれたんだねえ」 「そっかぁ!黒い龍さんが、今の世界を作ってくれたんだね!」 「そうだよ。だから、喧嘩をした時は、黒い龍さんのことを思い出してね。『相手が強ければ強いほど、自分に返ってくる』ということ。だから、みんな優しく、仲良くすることが一番なんだよ」 少年は満足そうに頷くと、お婆ちゃんの胸にぽすんと寄りかかりました。 「お婆ちゃん、大好き!」 「ふふふ、私も大好きだよ。さあ、おやつの時間にしようか。美味しいお饅頭があるよ」 窓の外では、穏やかな風が吹き、空には白い雲が龍のような形になってゆっくりと流れていました。宇宙の果てで起きた激しい戦いも、今では心地よい午後のまどろみの中に、静かに溶け込んでいきました。