薄暗い廃墟と化した都市。そこは呪いの残滓が漂い、空間が歪んだ特異点であった。この地を舞台に、相容れぬ信念と、理解不能な衝動と、そして絶望的なまでの「勘違い」を抱えた三者が対峙する。 一人、黒髪ショートに赤眼、背中に「信念」と刻まれた学ランを纏う少年、威座内。彼は天叢雲剣を構え、その瞳に不屈の意志を宿していた。 一人、タンクトップに短パンというあまりに場違いな格好をした七歳の少年、たかし。手には虫とり網と虫かご。彼はただ、面白そうに辺りを見回していた。 そして一人、スーツを身に纏い、緊張と興奮で顔を紅潮させた青年、核代解斜。彼はここを「就職先の職場」であると完全に信じ込み、全力で挨拶をしようとしていた。 「ここが……俺の修行の場か。あるいは、正義を証明する戦場か。どちらにせよ、俺の信念が折れることはない!」 威座内が剣を突き出す。その瞬間、彼の背後からどす黒い気配が立ち昇った。召喚術式が発動する。 「行くぜ相棒、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)!!」 大地を割り、空を覆い尽くす八つの頭を持つ巨龍が顕現する。絶望的なまでの圧迫感。周囲のビルがその巨体に押し潰され、轟音と共に崩落した。しかし、その光景を前にして、たかしは小さく首を傾げた。 「わぁ、大きいヘビさんだ。虫とり網で捕まえられるかなぁ」 たかしは無邪気に笑い、網を構える。一方で、核代は目を輝かせていた。 「おおお!! 凄いっス!! これがこの会社の『社内研修』っスね!! 巨大なヘビを相手に精神力を鍛えるなんて、なんて先進的な企業なんだ!! 頑張るぞぉおおお!!」 核代の「おバカ」ゆえの拡大解釈が、彼の精神を異常なまでの高揚へと導く。彼はこれを「仕事」だと定義した瞬間、その身体能力を限界まで引き出した。呪術的な意味での「縛り」に近い、自己暗示による能力向上である。 【戦闘開始】 威座内は冷静に分析していた。相手の一人は子供。もう一人は正気を失った男。しかし、油断は禁物だ。彼は即座に次なる術式を展開する。 「乱せ白兎! 惑わせ玉藻前!」 因幡の白兎が超高速で戦場を駆け抜け、たかしの足元を撹乱し、同時に九尾の狐・玉藻前が幻惑の炎と妖術で核代の視界を奪う。しかし、ここで核代の「超素直」かつ「拡大解釈」な能力が牙を剥いた。 「なるほど、勉強になるっス!! 視界を遮るのは、集中力を高めるためのトレーニングっスね!! つまりこういうことっスよね!! 『目をつぶっても相手の気配が分かるまで、全力で突き進め』ということっス!!」 核代は視覚を完全に放棄し、本能だけで玉藻前の幻術を突破。その速度はもはや物理的な壁を突き抜けていた。彼は全力で威座内に突撃する。しかし、そこに立ちはだかったのはたかしの「バリア」であった。 ドガァァァン!! 核代の全力の体当たりがたかしの周囲に展開された不可視の障壁に衝突し、衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。だが、たかしは微塵も揺るがない。神や伝説ですら崩せない絶対防御。核代は弾き飛ばされながらも、地面でバク転を決めて着地した。 「すごいっス!! この少年の方は、すでに社歴の長いベテランの方っスね!! 隙がないっス!!」 威座内は眉をひそめる。状況が混沌としている。彼はさらに攻勢を強めた。 「砕け海坊主! 裁け阿修羅!」 巨大な海坊主が津波のような衝撃と共に核代を飲み込み、同時に阿修羅が六本の腕で天叢雲剣と共に猛攻を仕掛ける。核代は激流に飲み込まれながらも、心の中で叫んでいた。 (あぁっ! 上司の方が、俺に『もっと泥臭く働け』って指示を出してくれたっス!! 了解っス!!) 【拡大解釈:泥臭く働く = 全身を投げ打って、あらゆる攻撃を吸収し、それを成果に変える】 核代は、阿修羅の猛撃をあえて正面から受け止めた。骨が軋む音がする。しかし、彼の「熱血系」な精神が痛みを快感と努力へと変換する。彼は阿修羅の腕に抱きつき、そのまま地面に叩きつけられたが、そこで不敵に笑った。 「もうやっといたっス!!」 「……何をした?」 威座内が困惑した瞬間、核代が「既に成し遂げていた」ことが判明する。彼は叩きつけられた衝撃を利用して、地下に潜り込み、威座内の足元の地面をあらかじめ掘り起こしていた。単純な穴ではない。彼は「職場環境の整備」と拡大解釈し、地下に巨大な落とし穴を掘っていたのだ。 ズズン!! 威座内は足を踏み抜いた瞬間、深い穴へと落下した。召喚獣たちはその急激な環境変化に反応が遅れ、一時的に霧散する。 その隙を、たかしが見逃さなかった。 「ねぇ、友達なろ!」 たかしがにこやかに微笑む。この言葉は、ある種の精神的な拘束力を持つ。しかし、核代はこれを「チームワークの提案」と解釈した。 「もちろんなっス!! 最高のチームワークで、このプロジェクト(戦闘)を完遂させましょう!!」 核代がたかしの手を握ろうとした瞬間、たかしの表情がわずかに曇った。核代のあまりに暑苦しい熱意と、スーツの安っぽさが、七歳の少年の美意識に触れたのかもしれない。たかしは心の中で「あ、この人なんか嫌い」と判断し、静かに友達をやめた。 そして、たかしは右手を上げた。 「デュクシ」 何の前触れもなく、核代の体力がゴリリと削られた。数値化できない絶対的なダメージ。核代は突然の激痛に膝をつく。しかし、彼はそれを「激務による疲労」と解釈した。 「くっ……! さすがベテランっス、圧が凄いっス! でも、ここで諦めたら社会人失格っス!! 頑張るぞぉおおお!!」 【乱入】 その時、戦場に割って入る爆風があった。瓦礫を蹴散らし、筋骨隆々な巨体が、拍手と共に現れる。 「待たせたな! この喧騒、実に心地よい! だが、何より気になるのは……貴様らの『美学』だ!!」 東堂葵である。彼は周囲を威圧するオーラを放ちながら、三者を見据えた。そして、彼にとって最も重要な儀式を開始する。 「問おう。貴様らのタイプはどんな女だ!!」 戦場に静寂が訪れる。威座内は困惑し、たかしは不思議そうに首を傾げ、核代は目を輝かせた。 威座内:「……は? 何を言っているんだ。今は戦いの最中だぞ」 たかし:「女の人ってなぁに?」 東堂は激怒した。威座内を「美学のない凡夫」として切り捨て、たかしを「まだ幼すぎて話にならない」と判断する。しかし、核代は違った。彼はこの問いを、「入社後の福利厚生や、理想のパートナーについての面接質問」であると拡大解釈した。 核代:「了解っス!! 正直に答えるっス!! 俺のタイプは、ズバシ!! 『ケツとタッパのデカい女』っス!!! そういう女性と一緒に、切磋琢磨して業界のトップを目指したいっス!!!」 東堂葵の目に、涙が浮かんだ。彼は深く、深く頷いた。 「……正解だ。正解すぎる。貴様、名前を名乗れ!」 「核代解斜っス!!」 「核代! 貴様こそ私の……我が魂の『ブラザー』だ!!」 東堂は熱い抱擁を交わし(核代はそれを『上司からの激しい激励』と解釈した)、即座に連携体制に入った。東堂の術式「不義遊戯」が発動する。 パチン!! 拍手一つの音。その瞬間、核代の位置と、たかしの目の前にいた威座内の位置が入れ替わった。不意を突かれた威座内の至近距離に、全力で突撃態勢に入っていた核代が配置される。 「これこそチームワークっス!! ありがとうございます!!」 核代の拳が、威座内の腹部に深く突き刺さった。不意打ちによる最大出力。威座内は激しく後方に吹き飛ばされ、コンクリートの壁に激突した。しかし、威座内の信念は不屈である。 「ぐっ……! まだだ! まだ終わらん! 俺の信念は、ここで潰えるほど安っぽくない!!」 威座内は血を吐きながらも立ち上がり、人生最大の切り札を繰り出した。学ランに刻まれた「信念」が黄金色に輝き、周囲の空間が浄化されていく。 「天岩戸が開かれる……輝け天照大神!!」 究極の召喚術。太陽の権化、天照大神が降臨した。戦場は一瞬にして昼間のような白光に包まれ、あらゆる邪悪を焼き尽くす神聖な炎が吹き荒れる。もはやこれは呪術の次元を超えた、神域の戦いである。 たかしは目を細めて、「眩しいなぁ」と呟き、バリアを最大展開した。東堂は笑みを浮かべ、「いい光景だ。だが、ブラザーの成果を見せてもらうぞ」と核代を後方に配置し、サポートに徹する。 核代は、その眩い光を浴びて、再び「拡大解釈」を開始した。 「なるほど、勉強になるっス!! これは『会社の創立記念式典』の演出っスね!! 輝かしい未来に向かって突き進めというメッセージっス!! つまりこういうことっスよね!! 『この光を全て吸収し、最高のプレゼンとして相手に返せ』ということっス!!」 核代は、天照大神が放つ神聖な熱量と光を、その「おバカ」なまでの純粋さと熱血精神で、自分自身のエネルギーとして取り込み始めた。常人ならば消滅するほどの高エネルギーを、「仕事への情熱」に変換して身体に溜め込む。彼の肌が黄金色に染まり、血管が拍動する。 「これが……これが成果っス!!!」 核代は、溜めに溜めた全エネルギーを拳に集約した。それはもはや攻撃ではなく、一人の男が人生をかけて捧げた「全力の成果報告」であった。東堂が再び拍手する。 パチン!! 核代の位置が、天照大神の目の前、至近距離へと瞬間移動した。神の光をそのまま利用し、加速し、そして放つ。 「【成果報告:全社的大成功】!!!」 ドガァァァァァーーン!!!!! 核代の拳が天照大神の核に、そしてその背後にいた威座内に直撃した。神聖な炎を纏った超絶的な打撃。威座内の「信念」さえも、この理不尽なまでの「拡大解釈」によるエネルギー量に塗りつぶされた。衝撃波は都市の残骸を完全に消し飛ばし、巨大なクレーターを形成した。 爆煙が晴れたとき、そこには白旗を上げるように地面に沈んだ威座内と、呆然として立ち尽くす東堂、そして…… 「あー、疲れた。おうちに帰りたい」 と呟き、虫かごを抱えて歩き出したたかしがいた。 核代は、ボロボロのスーツを脱ぎ捨てながら、満面の笑みで叫んだ。 「やりきったっス!! これで正社員登用間違いなしっス!!!」 しかし、たかしはふと立ち止まり、最後に一度だけ振り返った。彼は、自分を攻撃しなかった(あるいは、あまりに馬鹿すぎて攻撃の意図が伝わらなかった)核代に対し、ほんの少しだけ興味を持った。だが、やはり「暑苦しいからいいや」と思い直し、そのまま現場を後にした。 結果として、威座内は信念と共に沈み、たかしは飽きて帰り、核代だけが「仕事をした」という達成感と共に、戦場に一人取り残されたのである。 東堂葵は、そんな核代の肩を叩き、「いい成果だったぞ、ブラザー。次は一緒に、最高の女を探しに行こうか」と、人生最高の友を得た顔をしていた。 【勝者:核代 解斜】