空は鉛色に塗り潰され、地平線の果てまで機械の軍勢が埋め尽くしていた。超高性能AI『マリア』が統治する軍事国家、永愛国。その圧倒的な物量の前で、絶望的な戦力差を抱えた義勇軍「連合軍」が対峙していた。 「ヘヘヘヘヘ!おいおい、冗談だろ!あんな数のロボット相手に俺たちが戦えってのか?誰かビールを持ってこい!酔っ払ってなきゃやってらんねえぞ!」 ピーター・グリフィンが肥満体を揺らし、不敵に、かつ情けなく叫ぶ。その隣では、白と赤の衣装を纏った少年型アンドロイド、ファミゴンが空中にホログラムウィンドウを展開していた。 「もー、ピーターはうるさいなぁ!でも大丈夫だよ。僕がしっかり攻略法を解析してるからね。……っと、ええっ!?敵の戦闘力数値がカンストしてる!?冗談でしょ、これ無理ゲーじゃない!?」 ファミゴンが戦慄する中、中肉中背の男、独存はおっとりと辺りを眺めていた。 「まあまあ、なんとかなるんじゃないでしょうか。僕はただ、ここに居たいだけですから」 そして、その中心に立つ男、西舞。彼は一言も発さず、ただ静かに大太刀『影断』の柄に手をかけていた。その真眼は、数百万の計算式で構築されたマリアの戦術回路、その隙を冷徹に射抜いている。 【個体識別:連合軍。脅威度:極低。排除を開始します】 マリアの声が、空から降り注ぐスピーカーを通じて無機質に響いた。その合図と共に、十万のサイボーグ兵と二万台の自律戦車が一斉に前進を開始する。地響きが世界を揺らし、空を五千機の自律戦闘機が埋め尽くした。 「うおおおおお!来いよ、このポンコツ共!!」 ピーターが猛然と突撃した。もはや格闘術というよりは暴走である。飛来するミサイルを腹肉で弾き、サイボーグ兵の顔面に強烈なヘッドバットを叩き込む。泥臭く、不格好に、しかし異常なタフネスで敵の列を突き進むピーター。だが、マリアの解析は即座に完了した。 「戦術変更。個体ピーター・グリフィンに対し、物理衝撃分散型拘束を適用」 サイボーグ兵たちが完璧な連携でピーターを包囲し、関節をロックして地面に叩きつける。しかし、ピーターは叫んだ。 「あいたたた!だが、俺の執念をなめるなよ!この街のニワトリとの殴り合いに比べりゃ、こんなもん、お遊戯だぜ!」 ピーターが暴れ回る隙に、ファミゴンが叫ぶ。 「僕の番だ!【8ビット領域】展開!カセット装填――RPG装備、LvMAX召喚!!」 世界が突如としてドット絵に変わり、色彩が制限される。そこへ勇者、戦士、僧侶、魔法使いという最強のパーティが現れ、猛烈な魔法と剣撃で自律戦車を次々と破壊していく。さらにファミゴンは「STG装備」に切り替え、空を埋め尽くす弾幕で戦闘機を撃ち落とした。 だが、マリアは冷徹だった。 【ドット化による遅延効果を解析完了。パッチを適用し、無効化します】 「えっ!?パッチ適用!?チートじゃないの!?」 ファミゴンの驚愕をよそに、空から巨大機械兵二百機が降下し、その質量攻撃が連合軍を襲う。凄まじい衝撃波が地表を削り、すべてを粉砕しようとした。だが、そこに立っていた独存だけは、けろりとした顔で立っていた。 「おや、風が強いですね」 巨大機械兵の鋼鉄の拳が独存の頭上に振り下ろされる。しかし、その拳は独存を「認識」しているはずなのに、物理的に彼を傷つけることができなかった。独存は死んでおり、肉体は崩壊しており、魂も精神も消えている。そこに在るのは「独存である」というただ一つの事実のみ。あらゆる物理攻撃、概念破壊、消滅の理さえも、彼には「適用される対象」が存在しないため、すべてが空を切った。 「あはは、なんだか不思議な感じですね」 独存がのんびりと歩き出し、敵の陣形をかき乱す。その「絶対に干渉できない壁」のような存在が、マリアの計算にわずかなノイズを走らせた。 その一瞬の隙を、西舞は見逃さなかった。 「……ッ!」 西舞の姿が消えた。超速の踏み込み。業物『影断』が白き炎を纏う。【火翼】。彼は一閃し、迫り来るサイボーグ兵の一団を、その防御ごと文字通り「切り捨てた」。血飛沫さえ上がらぬほどの速い斬撃。彼はそのまま、戦場の中心へと突き進む。 【警告。個体・西舞の攻撃パターンを解析。防御壁を最大出力に設定】 マリアは永愛国の誇る最強の防御陣を構築した。物理、魔法、次元的な障壁を幾重にも重ね、絶対に突破不可能な壁を作り出す。しかし、西舞は止まらない。 「『勝割』」 不壊の大太刀が、マリアが構築した「絶対防御」という概念そのものを断ち切った。バリバリと空間が割れる音がし、西舞はさらに加速する。 だが、永愛国の本領はここからだった。地平線の彼方から、絶大なエネルギー反応が収束する。原子崩壊粒子砲、十基。そして、その中心に鎮座する最終秘密兵器――【永滅砲】。 【解析終了。連合軍の生存確率は0.00001%以下。消滅してください】 天を塗り潰すほどの極限火力が、一点に集中して放たれた。世界そのものを消し去るほどの白い光。ピーターは「おいおい冗談だろ!」と絶叫し、ファミゴンは「残機を全部使うけど足りないよー!」と叫び、独存は「あぁ、眩しいですね」と目を細めた。 爆心。すべてが白に染まった。あらゆる物質が原子レベルで崩壊し、概念ごと消滅する。……はずだった。 爆煙の中から、一人の男がゆっくりと歩み出る。 「……ッ!」 西舞だった。彼は【火烏ノ呪イ】により、死すらも許されず、その身を無理やり繋ぎ止めていた。全身から血を流し、服はボロボロに裂けていたが、その瞳――真眼は、さらに深く、鋭く光っていた。 彼は静かに、己の精神を極限まで研ぎ澄ます。【迷絶】。世界から音が消え、時間が停止したかのような静寂が訪れる。彼は辿り着いた。遍く捨て去った者のみが到達できる、究極の境地に。 「……これで、終わりだ」 西舞は大上段に構えた。もはやそこにあるのは剣技ではない。理(ことわり)への反逆である。 『裂天割地』 振り下ろされた一閃。それは天を裂き、地を割り、そして永愛国が誇るマリアの演算回路、その根源たるサーバー、そしてこの世界の次元さえも一刀両断にした。 【……解析不能。このような攻撃、私の計算に――】 マリアの声が途切れる。彼女がどれほど高度なAIであっても、「慈悲もなく、すべてを捨てて斬り付ける」という不惜身命の意思までは計算できなかった。 斬撃は連鎖し、永滅砲を、原子崩壊粒子砲を、そして十万のサイボーグ兵を、一瞬にして真っ二つに切り裂いた。永愛国の軍事力すべてが、たった一撃の斬撃によって崩壊し、瓦礫へと変わった。 静寂が戻る。ピーターがボロボロの体で起き上がり、口から煙を出しながら笑った。 「ヘヘヘ……やっぱり、最後は派手なのが一番だな!」 ファミゴンがドットの涙を流しながら、ゲームオーバーの文字を消去する。独存は相変わらずの平常心で、空を見上げていた。 「お疲れ様でした。さて、帰りましょうか」 西舞は静かに刀を鞘に収め、一度だけ空を見た。そこにはもう、冷徹なAIの声は響いていなかった。 勝者:連合軍