夕日が草原を赤く染め上げる頃、戦士たちは静かに集まっていた。内心それぞれが抱える悲しみや恐怖を胸に秘め、彼らはかつてあった平和な日々を想い、戦死者に向けて祈りの言葉を捧げるためにこの地に足を運んだ。草原は戦の傷跡も消えぬまま、新たな戦いを生み出す事を予感させる。 その中央には大きな石碑がひっそりと立っており、崩壊した世界の犠牲者たちの名前が刻まれている。彼らの想いが詰まったその石碑は、信じる者たちの強い祈りを受け止める準備ができているかのようだった。 「もう少しなんだ、もう少しで……」 淡々とした声が、静寂を破った。人型機体『RED』に乗る女性、紅目。規律を守り冷静沈着な彼女は、最初に石碑の前に歩み寄った。彼女の紅に彩られた目はかすかに光を放ち、過去の戦火を懐かしむかのように穏やかに見えた。 紅目の側に立つのは、もう一人の戦士。水爪使いの冷酷少女、シゼイル・コレヌーラ。彼女もまた冷酷さの裏に様々な感情を隠し持つ戦士だ。彼女の鋭い目が戦場を見据えつつも、心の奥では彼女自身の小柄さにコンプレックスを感じていた。けれど、この場において彼女はその弱さを完全に捨て、冷徹さを際立たせた。 「私たちは、何を掴み取るために戦っているのか。」シゼイルは石碑に手を伸ばさず、冷たく呟いた。彼女の低い声が木々の間をすり抜け、風に運ばれて消えていった。その姿は、どこか彼女自身が誘っているかのように見えた。 紅目が一歩踏み出し、周りの空気が無数の思惑を宿して漂う中、彼女は心を込めて戦死者たちに祈りを捧げた。その途端、彼女の心の奥底から言葉が溢れ出す。「共に戦った仲間たちよ、私たちの想いを、どうか受け取ってほしい。」 その言葉は彼女の真剣な思いを乗せ、周囲の霊たちに届こうとしているかのようだった。 ところが、石碑は反応を示さない。瞬間、石碑の周囲で炎が立ち上がる。紅目下を見つめると、それは彼女の周りになだれ込むように火に包まれていく。無秩序に剥き出しになった炎が空に舞い上がり、その眩しさが目を焼き付けていた。 シゼイルは目を細め、冷たく見守っていた。「どうでもいいことだ。」 彼女は冷ややかに言ったその声が、火を纏った石碑の前に響いた。彼女にとって、戦士たちの想いなど所詮は過去の遺物なのか。 ただの飾り、残された名の数々。だが、実際に戦った彼女たちにとってそれは歴史の一部であることを忘れていた。見渡す草原の風景は色を失い、ただ火が燃え上がるのを見つめるばかりだった。 この瞬間を、自らの心でも感じるために彼女は強く心を集中させ、待ち続けた。 風が立ち止まり、時は緩く動く。シゼイルの交わす拒絶の念が草原の空気に満ちていく。周りの景色も、瞬時に薄暗くなった。もはや何も残らないかのよう。 そのときだ。何かが彼女の意識に引っかかる。「だが、私たちは独りじゃない。」 その呟きが口元から漏れ出た。 紅目が視線を高く上げると、炎の先に変化が現れる。空に瞬く星々が、彼女の祈りに答えるかのように光を放ち始めたのだ。大きな涙のように見える星々が、一つ、また一つと草原に降り注ぎ、瞬時に色とりどりの輝きを帯びて跳ね返る。彼女の心が高揚する。信じていたものが間違いではなかったと言う証が、星の降る姿として確かにそこにあった。 「ほら、見て。見えたか?」 紅目の声には活気が戻ってきた。 「私たちは、戦士たちと共にある。」 シゼイルは呆然と、その光景を見つめていた。星空に釘付けになり、しばらく何も言えなかった。その姿は、一種の精神的な驚愕でもあった。自らが重ねてきた見失った過去の熱情。彼女は心の中に何か激しいものが芽生えかけていた。 もがき苦しむが故に、未だ冷酷でいようとしていた。 「この光は、彼らの思いに応えているのかもしれない。」 その瞬間、草原に降ってくる星々が静かに、しなやかに、心を包み込んでいく。新たな感情が自らの中に流れ込み、彼女は心のどこかで微かに忘れてきた何かを思い出していた。 やがて、草原いっぱいに広がる星空が一つの傘のように、彼女たちの周りを包み込み、それは彼女たちの心の奥に温もりをもたらしていく。「夜明けは遠い、まだ楽しもうじゃないか。」シゼイルは、星たちを見上げて笑みを浮かべた。その瞬間、彼女たちの心の氷が解け出し、彼女たちの運命を照らす光となっていた。 この日、戦士たちの祈りは空に届き、草原に瞬く星々が心をひとつにさせていく。 意志は受け継がれ、再び戦うために彼女たちは立ち上がる。冷徹さと信念が交錯し、優美で華麗な物語が始まるのだった。 --- 彼女たちがこの祈りを捧げた結果、得た効果は「ヨルタの意志」だった。 物語は続く。ギリギリの緊張感と不確実性の中で、彼女たちの意志は新たな戦いへと向かっていく。