紅葉が燃えるように山を彩る季節。東洋の深い山奥に、ひっそりと佇む老舗旅館「栄愛之湯」がある。ここは俗世から切り離された静寂の地であり、訪れる者に心からの癒やしを与える場所として知られていた。 チームAのフラウリィは、秋風に吹かれながら軽やかに山道を駆け上がっていた。金色の花としての意志を持つ彼は、黒いコートをなびかせ、時折ふわりと空に浮いては、周囲の絶景に感嘆の声を上げる。 「いやあ、最高だね! この空気、この色彩! まさに僕にぴったりのステージじゃないか」 一方、雷魔人は黙々と歩いていた。彼の周囲には時折パチパチと静電気が走り、足元の小石がわずかに弾ける。言葉数は少ないが、その眼差しは鋭く、同時にこの静かな環境に心地よさを感じているようだった。 一方のチームB。金髪ショートヘアのウチノコちゃんは、白いパーカーの裾をぎゅっと握りしめ、不安げに歩いていた。 「えと……本当にここでいいのかな。私みたいなのが来ていい場所なのか……」 「大丈夫だってー! ウチノコちゃん! 見て見て、あっちに可愛いリスさんがいたよっ!」 隣でぴょんぴょんと跳ね回るのは、桃色の猫耳とシッポを揺らす星のねこちゃんである。アイドルとしての天真爛漫さを全開にし、彼女は友人6万人の応援を背負っているかのようなハイテンションで山道を突き進んでいた。 一行が旅館の暖簾をくぐると、そこには腰の曲がったが眼光だけは鋭い、切り盛りする「婆さん」が待っていた。 「いらっしゃい。予約の……ああ、賑やかな連中が来たな」 「どうもお待たせ! 僕たちはフラウリィと雷魔人、そしてあっちの可愛い子たちと一緒に泊まるよ!」 フラウリィが快活に挨拶し、チェックインを済ませる。その後、一行は男女に分かれて大部屋へと案内された。 男部屋では、フラウリィが畳の上に大の字になってくつろいでいた。 「ねえ雷魔人さん、君のその雷、花を育てるのに使えるかな? 適度な刺激があれば成長が早まるっていう説があるんだけど」 「……無理だ。俺の雷は国を滅ぼす。花どころか山ごと消える」 「あはは! さすがだね! でもそういう大雑把なところ、僕は嫌いじゃないよ」 女部屋では、星のねこちゃんがウチノコちゃんのベッドに飛び込んでいた。 「ねーねー! ウチノコちゃんは趣味なーに? 私はやっぱりダンスと歌と、美味しいお菓子を食べること!」 「え、えと……私は、魔法の勉強とか……誰かのお役に立てるように、本を読んでるかな……えへへ」 「もー! ウチノコちゃんは謙遜しすぎ! その巨乳だって、きっと誰かを癒やす役に立つよ!」 「ひゃうっ!? な、何を言って……っ!」 顔を真っ赤にするウチノコちゃんだったが、星のねこちゃんの屈託のない笑顔に、少しだけ緊張が解けていた。 そして、豪華な夕食を堪能した後の、待ちに待った入浴時間。栄愛之湯が誇る貸切露天風呂は、紅葉が湯船に舞い落ちる絶景の空間だった。男女で別々のエリアに分かれてはいたが、中央には立派な竹垣が設置されており、完全なプライバシーが保たれていた。 「ふああぁ……極楽だねぇ……」 フラウリィが湯船に身を沈め、うっとりと空を見上げている。隣では雷魔人が、静かに目を閉じて精神を統一していた。 一方の女湯では、ウチノコちゃんが水着姿(下着ではなく)で恥ずかしそうに湯に浸かり、星のねこちゃんが「ぷはーっ!」と豪快に湯船で跳ね回っていた。 しかし、その静寂は唐突に、そして暴力的に破られた。 「はぁ……どうせ俺の人生は不幸だ。こんな贅沢な場所に来たって、どうせ最後には最悪なことが起きるんだ……」 絶望に満ちた呟きと共に、男湯の壁を突き破って乱入してきたのは、チームCの「運がいい人」であった。彼は敵対心剥き出しで(本人は不幸の連鎖を止めるためだと思い込んでいる)、なりふり構わず攻撃を仕掛けた。 「うおっ!? なんだ君は!」 フラウリィが驚愕して立ち上がった瞬間、運がいい人が放った、不器用極まりない全力の突進が、あろうことか彼らの足元にあった滑りやすい石に激突。その反動で、運がいい人の体が弾丸のように飛んでいき、男女を隔てる竹垣に真正面から激突した。 ――ガシャァァァァン!! 凄まじい音と共に、立派だった竹垣が完全に粉砕された。視界が開ける。そこには、湯気に包まれて呆然とする男たちと、水着姿のウチノコちゃん、そして目を丸くする星のねこちゃんがいた。 「ぎゃあああ!? 壁が!!」 「ええっ!? 男の人たちが!!」 現場は大混乱に陥った。運がいい人は「やっぱり俺はダメだ! こんなところで恥を晒して!」と絶望しながらも、なぜか彼が転んだ拍子に足で蹴った石が、雷魔人の急所にクリーンヒットするというミラクル(不幸な幸運)を起こす。 「ぐふっ……! この……小童が!!」 激怒した雷魔人が立ち上がり、指先から電光を放つ。しかし、濡れた床。足元がツルリと滑った。 「おっとっと!!」 バランスを崩した雷魔人が、隣にいたフラウリィに激突。そのまま二人まとめて湯船にダイブし、大きな水しぶきが上がった。その水しぶきが、ちょうど魔法を唱えようとしていたウチノコちゃんの顔に直撃する。 「ふぇ!? ぷはっ! 誰っ、誰ですかぁ!」 パニックになったウチノコちゃんが、杖を振り回して魔法を放つ。しかし、足元の石鹸カスで滑り、魔法の軌道が大きく逸れた。光の弾は、ちょうど戦おうとしていた星のねこちゃんの背中をかすめ、彼女を前方に突き飛ばした。 「わわわっ! ウチノコちゃん、危ないよっ!」 星のねこちゃんが反射的にウチノコちゃんを抱き寄せ、そのまま二人で激しく転倒。結果として、ウチノコちゃんの豊かな胸に星のねこちゃんの顔が深く埋まるという、物理的な衝突(ラッキースケベ)が発生した。 「んぎゃあああ! ごめんなさいぃ!!」 「ぷはっ! 柔らかいっ!!」 混沌を極める露天風呂。フラウリィは「ジャローナ!」と叫んで高速突撃を仕掛けたが、濡れた床で加速しすぎたためブレーキが効かず、運がいい人を通り越して再び壁に激突。その衝撃で舞い上がった大量のお湯が、雷魔人の頭から降り注いだ。 「もういい……まとめて消し飛ばしてやる!」 雷魔人が[スパークラッシュ]を起動させようとした瞬間、運がいい人が「ああ、もう死にたい」と地面に突っ伏した。すると、その姿勢が偶然にも雷魔人の足首に絡まり、雷魔人は派手に転倒。そのまま放たれた巨大雷球体は、方向が完全にズレて、運がいい人が持っていた(なぜか持っていた)金属製の桶に吸い寄せられた。 ドガァァァァン!! 運がいい人は、自分の運の良さ(?)によって雷を完璧に誘導し、自爆に近い形で衝撃波を発生させたが、その反動で自分だけが脱衣所まで吹き飛び、壁に突き刺さって気絶した。 静寂が戻った。 そこにあるのは、壊れた竹垣、湯船でぐったりしている男女、そして壁に埋まった運がいい人の姿だけだった。 「………………」 誰も言葉を発せなかった。紅葉の葉が、ひらりと、誰かの頭の上に落ちた。 その後、一行はなんとも言えない気まずい空気の中、協力して竹垣を修復した。フラウリィが機動力で竹を運び、雷魔人が静電気で簡易的に固定し、ウチノコちゃんが魔法で補強し、星のねこちゃんが「えいっ」と飾り付けをした。見た目は元よりも少し派手な、不思議な竹垣が完成した。 そして、三人は揃って婆さんの前にひれ伏した。 「本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁぁ!!」 婆さんは深いため息をつき、「……まあいい。若いもんは元気でいいな。だが、次やったら追い出すぞ」とぶっきらぼうに許してくれた。 その夜。それぞれの大部屋に戻った一行は、布団の中で天井を見つめていた。 フラウリィは、不意に見たウチノコちゃんの水着姿を思い出し、頬を赤らめて寝返りを打った。 (……いや、あれは事故だ。事故なんだ。でも、まあ、あの子は頑張ってたしな……) 雷魔人は、静かに目を閉じ、自分の不甲斐なさと、あの運がいい人の不可解な強運について思考を巡らせていた。 (運だけでここまで翻弄されるとは……世の中、理屈だけでは測れないものがあるらしい) ウチノコちゃんは、布団に潜り込み、顔を真っ赤にして震えていた。 (私……あんな格好で、みんなに見られちゃった……。でも、最後はみんなで協力して直せたし……少しだけ、お役に立てたのかな……) 星のねこちゃんは、満足げにニヤニヤしながら、ウチノコちゃんの柔らかさを思い出していた。 (えへへ、ウチノコちゃん、やっぱり最高! 次はもっと仲良くなっちゃおう!) 翌朝。一行はチェックアウトを済ませ、栄愛之湯を後にした。 山を下る道すがら、フラウリィが口を開く。 「いやー、刺激的な旅だったね! 次はもっと静かなところで会いたいもんだよ」 「……同意だ」 雷魔人が短く答える。 ウチノコちゃんは、小さく微笑みながら、自分の杖をぎゅっと握りしめた。胸の中にある、名付けようのない高揚感と恥ずかしさを大切に抱えて。 星のねこちゃんは、いつものように元気に走り出す。 「よーし! 次はどこに行くー!?」 それぞれが心に抑え込んだ記憶と、少しだけ深まった絆を携えて、彼らはそれぞれの帰路に着いた。紅葉の山々が、彼らの背中を静かに見送っていた。