第一章 金色の夜 冬の夜だった。 本来なら、凍てついた空気の中に星が浮かび、街灯の明かりが白い息を照らしているはずだった。 しかし、その夜の空は明るかった。 ベルは黒いキャップのつばを押さえながら、足を止めた。青い瞳に映ったのは、夜空一面を覆う金色だった。雲ではない。光そのものが空を埋め尽くし、街の建物も道路も、まるで黄金の海に沈んだように照らし出されている。 「……何でしょう、あれは」 答える者はいなかった。 次の瞬間、空が裂けた。 轟音。 大気を引き裂きながら、無数の金色の隕石が降ってきた。ひとつひとつが約二メートル。燃えさかる尾を引き、道路へ、ビルへ、住宅地へ落下していく。 爆発の連続で地面が跳ねた。窓ガラスが一斉に砕け、電線が火花を散らす。遠くで悲鳴が上がった。 ベルは即座にSD-9 Swiftlineを抜いた。 「皆さん、落ち着いてください! 地下通路へ向かってください。走る際は、建物の壁際を避けて!」 彼は叫びながら、最も近い隕石へ銃口を向けた。 徹甲弾が連射される。 鋭い発砲音が爆発音の合間を縫った。金色の表面に弾痕が刻まれ、三発目が内部へ食い込んだ瞬間、隕石の輝きが不安定に明滅する。 ベルは異変を察した。 「核……中心部に反応があります」 彼はさらに狙いを絞った。金色の岩盤の隙間から覗く白い光へ、連続して徹甲弾を叩き込む。 隕石が内側から砕け、音もなく崩れ落ちた。 だが、それは一つに過ぎなかった。 次々と隕石が着弾する。ベルは住民の避難路を確認しながら、射線を切り替えた。ある時はビルの陰から撃ち、ある時は道路を滑るように走って至近距離から核を撃ち抜く。逃げ遅れた人を見つければ、スタングレネードを投げ、爆発の閃光で落下地点の動きを鈍らせて救出した。 「こちらです! 大丈夫です、僕が誘導します!」 着弾の衝撃で、道路が大きく裂けた。 ベルは倒れた標識を飛び越え、瓦礫の向こうにいた親子を引き起こした。直後、頭上から金色の隕石が落下する。 彼はLionus .50Rを抜いた。 一発。 大口径弾が隕石の中心を撃ち抜き、金色の塊が空中で破裂した。灼熱の破片が降り注ぐ前に、ベルは親子を庇って地面へ伏せる。 「怪我はありませんか」 「あなたは……?」 「僕は大丈夫です。急いで避難してください」 彼の左肩には破片が食い込んでいた。それでも声は震えなかった。 街の各所で、同じ戦いが繰り広げられていた。 鎧を着た巨体が、落下する隕石を拳で粉砕していた。 「オレサマの舞台に、勝手にオブジェを増やすんじゃねえ!」 オメガだった。 彼は跳躍し、空中で片腕を巨大な砲へ変えた。グリッチウェポンによって呼び出された、別の世界の兵器。砲口から放たれた光線が複数の隕石を貫き、隕石は落下途中で消滅した。 「へえ、こいつらの耐久値は高めか! なら書き換えだ!」 指を鳴らすと、隕石の表面に奇妙な文字列が走った。防御性能が崩れ、次々と粉砕されていく。 黒衣の女性、エルゼは、ただ立っていた。 飛来した隕石が彼女に触れる寸前、その存在が白紙になった。音も光も、砕けた痕跡すら残らない。 彼女は何も言わず、避難中の住民の前に立つ。彼女へ向かって落ちてきた隕石も、彼女の背後にいた人々を巻き込むはずだった衝撃も、成立する前に消えていた。 一方、巨大な影が炎の中を歩いていた。 「あの日の怪獣」だった。 その姿は、子供の空想から抜け出したように不定形だった。角の数も、腕の長さも、見るたびに変化する。怪獣は吠え、落下した隕石を両腕で掴むと、地面へ叩きつけて粉砕した。 さらに口から炎を吐き、空中の隕石をまとめて焼き払う。 ベルは遠くからその姿を見た。 敵か味方かは分からない。それでも今は、住民を守る方向に動いている。 「助かります。ですが、建物の近くでは戦わないでください!」 怪獣は返事の代わりに咆哮した。 その咆哮で雪が舞い上がった。 戦いは一時間近く続いた。 街の三分の一が炎に包まれ、道路は崩れ、避難所となった駅にも亀裂が走った。それでも四人は戦い続けた。 最後の金色の隕石がベルの射撃で砕けた時、空はようやく暗くなった。 だが、静寂は一瞬だった。 遠い空に、二つの黒い影が現れた。 金色の隕石とは比較にならない。直径十メートルほどの黒い隕石が、燻んだ光を纏って落下してくる。 ベルは息を呑んだ。 「……二つ。落下地点は、東区と中央区です」 オメガが肩を回した。 「オレサマは東を取る。お前らは中央だ!」 「あの、単独行動は危険です」 「危険だから楽しいんだろ!」 オメガは笑い、東区へ走った。 ベル、エルゼ、怪獣は中央区へ向かう。 黒い隕石が落ちた瞬間、街全体が沈んだ。 爆発ではない。 重力そのものが押し潰してくるような衝撃だった。ベルは膝をつき、肺から空気を奪われた。それでも倒れず、住民が避難した地下施設の入口を確認する。 「全員、無事ですか!」 返事が返る。 彼は立ち上がり、Lionus .50Rを構えた。 黒い隕石の表面に、小さな亀裂が走る。ベルはそこへ全弾を撃ち込んだ。弾丸が弾かれ、手に痺れが走る。 「硬すぎる……!」 怪獣が吠え、拳を振り下ろした。 隕石が大きく陥没する。しかし次の瞬間、亀裂の奥から黒い光が噴き出した。 エルゼが一歩進む。 黒い光は彼女に届かなかった。成立する前に失われた。隕石の表面に広がった白い空白へ、ベルは銃口を向ける。 「今です!」 徹甲弾が空白の中心へ突き刺さった。 隕石が内部から崩壊する。 同時刻、東区ではオメガが黒い隕石を両手で押さえ込んでいた。 「オレサマのバグは、こんなもんじゃねえぞ!」 グリッチチェンジによって自らの攻撃力を限界まで書き換え、拳を叩き込む。黒い隕石に巨大な亀裂が走り、彼はそこへ異世界の剣を突き立てた。 「グリッチオーバーロード!」 無数の武器と魔法が、ひとつの隕石へ同時に叩き込まれた。 大地が割れ、東区の建物が連鎖的に倒壊する。それでも黒い隕石は、最後には崩れ落ちた。 二つの隕石が消えた。 街は半壊していた。 それでも、避難所から人々の声が聞こえた。 ベルは崩れた道路に座り込み、血の流れる肩を押さえた。疲労で手が震えている。それでも、安堵の息を吐く。 「……守れたんですね」 この章でベルが倒した隕石:47体。オメガ:68体。エルゼ:31体。あの日の怪獣:54体。 住民20万人中、19万3,842人を守れた。 生存者:ベル、オメガ、エルゼ、あの日の怪獣。 その時だった。 遠くで、悲鳴が上がった。 安堵は、凍りついた。 --- 第二章 金色の殺戮者 悲鳴は、避難所の一つから聞こえた。 ベルは立ち上がった。傷口が開き、肩から血が流れたが、構っている暇はない。 「行きます」 彼が瓦礫を越えた先で見たものは、金色の地獄だった。 金色の隕石が落ちた場所から、何かが這い出していた。 人型に近い。しかし腕は長く、関節は逆に曲がり、全身を金色の硬質な皮膚が覆っている。顔には目も口もなかった。胸の中央にだけ、赤い核が脈打っていた。 それが、一体ではない。 数十体の金色の生物が、避難所の中で住民を襲っていた。 金属製の扉を紙のように引き裂き、逃げ惑う人々を爪で薙ぎ払う。 ベルはSD-9を連射した。 弾丸が金色の皮膚に当たる。火花が散る。しかし、浅い。 生物が振り向いた。 次の瞬間、視界から消えた。 「速い!」 ベルは反射的に身を伏せた。頭上を爪が通り過ぎ、背後のコンクリート壁が斜めに切断される。 彼は転がりながらスタングレネードを投げた。 閃光と轟音。 生物の動きが一瞬止まる。 その胸部へ、Lionus .50Rの弾丸を撃ち込んだ。 核が砕け、金色の身体が糸の切れた人形のように倒れた。 「核を破壊すれば倒せます!」 ベルは叫び、住民を背後へ誘導した。 しかし金色の生物たちは、すでに彼を包囲していた。 銃声が連続する。 ベルは走りながら撃った。徹甲弾で脚を削り、動きを止めた個体へ近づいて核を撃ち抜く。別の個体が側面から飛びかかってくれば、瓦礫を盾にしてかわし、SD-9の銃床を叩き込んで距離を取る。 一体。 二体。 三体。 倒しても、隕石の残骸から新たな生物が這い出してくる。 「数が多すぎます……!」 その瞬間、巨大な拳が金色の生物をまとめて吹き飛ばした。 怪獣だった。 怪獣は倒れた生物へ足を振り下ろし、核をまとめて潰す。続けて炎を吐き、路地の奥から迫っていた群れを焼き払った。 オメガは宙に浮かぶ巨大な銃を構えた。 「金ピカの雑魚ども、オレサマを楽しませろ!」 連射された光弾が生物の装甲を削り、彼は瞬時に武器を鎖付きの斧へ切り替えた。斧が横薙ぎに振るわれ、金色の身体が複数まとめて砕ける。 「核を壊さなきゃ復活するってか? ゲームとしては分かりやすいぜ!」 エルゼは、避難所の中央に立っていた。 生物が彼女へ飛びかかる。 その身体は、触れる直前に消えた。 金色の核も、名前も、存在したという事実さえも空白になる。 エルゼは一歩ずつ進んだ。 彼女が向いた方向では、生物たちの姿が次々と失われていった。攻撃も、再生も、核の働きも、成立する根拠ごと無かったことになる。 だが、その力は住民を巻き込まなかった。エルゼは無表情のまま、消す対象を正確に選び続けていた。 戦場の中央で、ベルは負傷した少年を見つけた。 少年の前に金色の生物が立っている。 ベルは残弾を確認した。SD-9の弾倉は空に近い。Lionus .50Rも残り二発。 生物が跳んだ。 ベルは少年を抱えて横へ転がった。爪が地面を抉る。起き上がる前に、生物が再び迫る。 ベルは少年を庇い、正面からその腕を受け止めた。 衝撃で背中が瓦礫へ叩きつけられる。 肺から空気が抜けた。 「大丈夫です。僕が……守ります」 最後の一発を、至近距離から核へ撃ち込む。 金色の怪物が崩れ落ちた。 その直後、ベルの背後で別の個体が立ち上がった。 炎が噴き上がる。 怪獣の尾が生物を弾き飛ばした。怪獣は少年を見下ろし、次にベルを見る。言葉はなかったが、そこには明確な意思があった。 守る。 半時間後、金色の生物の数は目に見えて減っていた。 しかし、それでも終わりではなかった。 最後の金色の群れが崩れた時、地下から不気味な音が響いた。 ゴリ、と何かが擦れる音。 黒い隕石の破片が、ゆっくりと動いた。 亀裂の中から、黒く燻んだ生物が立ち上がる。 金色の生物より大きい。身体は煙のような黒い装甲に覆われ、胸部には赤黒い核が埋まっている。 その一体が腕を振った。 衝撃波が道路を走り、数台の車が宙へ舞った。 避難所の壁が崩れた。 ベルは住民へ向かって叫んだ。 「伏せてください!」 次の攻撃が来る。 オメガが割り込んだ。 黒い生物の拳と、オメガの腕が衝突する。爆風で周囲の瓦礫が吹き飛んだ。 「なるほどな……金ピカの上位互換ってわけか!」 オメガは笑っていた。 だが、その片膝が地面についた。 「一撃でこれか。いいじゃねえか!」 黒い生物が再び腕を振り上げる。 エルゼの前へ到達するはずだった攻撃が、成立前に消えた。 しかし、黒い生物は止まらない。消失した攻撃の余波で、周囲の建物が崩れ落ちる。 怪獣が住民の前に立ちはだかり、倒壊する壁を背中で受け止めた。 ベルは黒い生物の核を見た。 金色の個体より深い位置にある。外殻が幾重にも重なっている。 「核を撃つだけでは届きません。装甲を剥がす必要があります!」 オメガが叫ぶ。 「なら、剥がしてみろ!」 彼はグリッチチェンジを発動した。自身の防御力を一時的に限界まで引き上げ、黒い生物の攻撃を正面から受け止める。 ベルはその隙に走った。 SD-9を連射し、関節部へ徹甲弾を叩き込む。装甲がわずかに割れた。 「今です!」 怪獣が黒い生物の背後へ回り、尾で巨体をなぎ倒す。エルゼの空白が外殻の一部を消し、赤黒い核が露出した。 ベルはLionus .50Rを構えた。 しかし、引き金を引く直前、別の黒い生物が現れた。 一体ではない。 二体、三体、四体。 黒い隕石の残骸から、次々と燻んだ怪物が這い出してくる。 街の上空に、黒い光が集まり始めた。 オメガが空を見上げる。 「おいおい……第二ラウンドってか?」 ベルは銃を握り直した。 遠くで、守られた住民たちの泣き声が聞こえる。 その声が、彼を立たせていた。 「まだ終わっていません。皆さん、もう一度、守ります」 この章でベルが倒した金色生物:29体。オメガ:43体。エルゼ:51体。あの日の怪獣:37体。 この章で確認された黒色生物:4体。撃破数はベル0体、オメガ0体、エルゼ0体、あの日の怪獣0体。 住民20万人中、19万1,406人を守れた。 生存者:ベル、オメガ、エルゼ、あの日の怪獣。 黒い怪物たちが、同時に動いた。 即死級の一撃が、街を覆った。 --- 第三章 燻んだ死神 最初の黒色生物が放った攻撃は、光ではなかった。 空間そのものが折れ曲がり、通過した建物を内側から潰していく。コンクリートが粉になり、鉄骨が飴のように曲がった。 ベルは住民の避難路へ向かって走った。 「地下へ! 全員、地下施設へ避難してください!」 黒色生物が腕を向ける。 彼の背後にいた住民たちへ、黒い槍のような衝撃が放たれた。 ベルはスタングレネードを投げた。 炸裂した閃光が生物の視界を奪う。完全に止めることはできない。それでも、攻撃の軌道がわずかに逸れた。 ベルは住民の列を押し倒すように伏せさせた。 衝撃波が頭上を通過し、背後の建物を消し飛ばした。 「今のうちに走ってください!」 彼は振り返り、SD-9を構えた。 徹甲弾が黒色生物の肩を撃つ。装甲には傷がつくが、金色の個体ほど簡単ではない。 黒色生物が姿を消した。 ベルは足音を探した。 右ではない。 背後でもない。 上だ。 空から降ってきた怪物の拳を、彼は横へ転がってかわした。地面が陥没し、破片が頬を裂く。 「速い……!」 黒色生物が連続して攻撃を放つ。拳、蹴り、黒い刃、重力の塊。ひとつひとつが直撃すれば即死に至る威力だった。 ベルは瓦礫の隙間を走り、敵の死角を探す。撃つ。移動する。撃つ。遮蔽物を変える。 だが、弾丸は装甲を貫ききれない。 一体の黒色生物がベルへ腕を伸ばした。 その攻撃が届く前に、怪獣が割り込んだ。 黒い一撃が怪獣の胸を直撃する。 巨体が数十メートル吹き飛び、ビルの残骸へ叩きつけられた。 ベルの顔から血の気が引いた。 「あの日の怪獣!」 怪獣は立ち上がった。 胸部は大きく裂け、黒い煙が噴き出している。それでも怪獣は吠えた。 そして炎を吐いた。 黒色生物の装甲が赤熱し、ベルはその中心へ弾丸を撃ち込んだ。装甲にひびが入り、核がわずかに露出する。 「見えました!」 ベルは全力で走った。 敵が腕を振るう。 ベルは地面に滑り込み、脇腹をかすめた攻撃の衝撃で転がった。肋骨が軋む。呼吸ができない。 それでも、銃口は核を捉えていた。 Lionus .50R。 一発。 核が砕けた。 黒色生物の身体から黒い煙が噴き出し、崩れ落ちる。 「一体……倒しました」 ベルが立ち上がるより早く、オメガが空から落下した。 「オレサマも負けてられねえな!」 彼は両腕を巨大な刃へ変え、二体の黒色生物へ突撃した。敵の即死攻撃をグリッチチェンジで逸らし、刃を交差させて片方の装甲を切断する。 だが、もう一体の拳がオメガの胸部へ入った。 鎧がひしゃげ、彼の身体が地面を何度も跳ねる。 「オメガ!」 「まだ……終わってねえぞ!」 オメガは立ち上がった。鎧の隙間から光が漏れている。 「オレサマを倒すなら、もっと派手に来い!」 彼の周囲に、無数の異世界武器が浮かんだ。 剣、銃、魔導砲、鎖、雷の槍。 「グリッチオーバーロード!」 すべてが一斉に放たれた。 黒色生物の防御を破壊し、二体の核を同時に貫く。黒い巨体が崩れ、街路へ沈んだ。 オメガは片膝をついた。 「へへ……今のは、なかなか面白かったぜ」 エルゼは、三体の黒色生物に囲まれていた。 黒い攻撃が同時に放たれる。 しかし、すべてが消えた。 攻撃だけではない。生物たちがエルゼへ向かうという意思、その動線、彼女を認識していた記録さえも白紙になっていく。 三体は、そこにいたという痕跡を失った。 エルゼは無表情のまま、次の敵へ向く。 その時、空が裂けた。 黒い光が渦を巻き、巨大な影を形作る。 金色生物の数十倍の質量を持つ、超大型の黒色生物だった。頭部はない。胸部に巨大な核があり、その周囲を幾重もの装甲が囲んでいる。 街の各所から、黒い線がそれへ集まっていく。 倒された黒色生物の残骸が吸収されていた。 「融合……ですか」 ベルは絶望を覚えた。 巨大生物が腕を振るう。 その一撃だけで、中央区の高層ビルが倒れた。 怪獣が真正面から受け止めた。足が地面へ沈み、全身の皮膚が裂ける。それでも押し返す。 オメガが横から砲撃した。 エルゼの空白が巨大生物の装甲を削る。 ベルは銃を構え、露出した核を狙った。 だが、距離が遠すぎる。 彼は走り出した。 崩れた道路を駆け、落下する鉄骨をかわし、黒い衝撃波の間をすり抜ける。何度も死の境界を越えた。足がもつれ、脇腹が裂け、視界が赤く染まる。 それでも止まらない。 十歳の頃、彼は他人の意思に囚われた。 四年間、犯罪シンジケートの命令だけを聞き、自分が誰なのかさえ失いかけた。 だが、そこから戻った。 だから今も、何者にも自分を支配させない。 「僕は……僕の意思で、ここにいます!」 巨大生物がベルを捉えた。 即死級の黒い光が放たれる。 エルゼが一歩前へ出た。 光は成立前に消失した。 だが、エルゼの黒衣も、髪も、表情も変わらない。彼女はただ、ベルへ道を開けた。 ベルはその道を走った。 怪獣が咆哮し、巨大生物の腕を押し止める。 オメガが最後のグリッチウェポンを呼び出した。巨大な槍が空から落ち、装甲へ突き刺さる。 「ベル! 今だ!」 ベルはLionus .50Rを握り、最後の一発を込めた。 走る。 跳ぶ。 巨大生物の腕を足場にし、肩へ駆け上がる。黒い装甲が迫る。核は目の前だった。 巨大生物の腕が彼を薙ぎ払う。 ベルは身を低くした。帽子が吹き飛ぶ。攻撃は髪をかすめ、空中へ抜けた。 彼は核へ銃口を押しつけた。 「これ以上、誰も傷つけさせません」 引き金を引く。 銃声は、轟音の中でもはっきり聞こえた。 核に亀裂が走る。 一発では砕けない。 巨大生物が咆哮し、ベルを振り落とそうとする。 エルゼの空白が核の周囲へ広がった。 怪獣が全身で敵を押さえ込む。 オメガが傷ついた身体で立ち上がり、拳を握った。 「オレサマの、とっておきだ!」 グリッチオーバーロードの残滓が、巨大生物の核へ集中した。 ベルは空になった拳銃を捨て、SD-9を構えた。 残弾は三発。 一発目で外殻を砕く。 二発目で核の亀裂を広げる。 三発目が、中心を貫いた。 巨大生物が停止した。 黒い身体に白い空白が広がり、そこから崩れていく。 核が砕けた瞬間、街全体を覆っていた黒い光が消えた。 誰もすぐには動けなかった。 やがて、遠くの地下施設から声が上がった。 生きている。 住民たちは、まだ生きている。 ベルは瓦礫の上に膝をついた。肩も脇腹も血に染まり、立つ力は残っていなかった。それでも、彼は避難所の入口を見つめていた。 オメガは鎧を軋ませながら笑った。 「いやあ、最高のラスボス戦だったぜ」 怪獣は大地へ倒れた。胸に受けた傷は深い。しかし、まだ呼吸している。 エルゼは何も言わず、暗い空を見上げていた。 その姿が消えることはなかった。 夜明けが近づいていた。 黄金に染まっていた空は、ようやく本来の黒へ戻っていた。 破壊された街の中で、住民たちが互いに手を取り合う。 ベルは目を閉じ、静かに息を吐いた。 「……守れた」 完全ではない。 多くの命が失われ、街は半壊し、彼ら自身も深く傷ついた。 それでも、守れた命はあった。 その事実だけが、崩壊した街に残っていた。 この章でベルが倒した黒色生物:2体。オメガ:2体。エルゼ:3体。あの日の怪獣:0体。ベルが最後に超大型黒色生物1体の核破壊に貢献。 敵撃破総数:ベル79体、オメガ113体、エルゼ85体、あの日の怪獣91体。超大型黒色生物1体を全員の連携で撃破。 住民20万人中、18万8,977人を守れた。 ベル:生存。重傷だが意識あり。 オメガ:生存。鎧は大破、戦闘継続不能。 エルゼ:生存。無傷。 あの日の怪獣:生存。重傷だが、再生の兆候あり。 空が白み始める。 ベルは瓦礫の上で、失った黒いキャップを見つめた。 そして、まだ眠れない街の人々へ向かって、ゆっくりと歩き出した。 戦いは終わった。 少なくとも、この夜の戦いは。