謎の洞窟、その最深部。そこは現世の理が通用せぬ地獄の釜の底であった。視界を染めるのはどろどろと沸き立つ橙色の溶岩と、絶えず降り注ぐ火の粉。硫黄の臭いが鼻を突き、大気そのものが熱波となって皮膚を焼き焦がす。その溶岩の海に浮かぶ巨大な岩盤の上に、「彼」は鎮座していた。 橙色の強靭な皮膚、天を突くほどに巨大な二本の角。かつて魔族の王として君臨し、不老不死の究極へと至った最強の生物――エスタークである。彼は深い眠りに落ちていたが、その肉体は眠りながらも進化を続けていた。空気が震える。その存在感だけで周囲の空間が歪み、圧力で地面がひび割れる。 そこに、異様な一団が足を踏み入れた。天界の守護天使スフェーン、ドットの光を纏う少年ファミゴン、慈悲深き微笑みを湛えた微睡みの墓守。そして、場違い極まりない肥満体の男ピーター、毒舌な赤ん坊ステューウィー、そして知的な犬ブライアンのグリフィン一家である。 彼らの頭上には、この世界の創造主にして残酷な観測者である「視聴者」が、退屈そうに頬杖をついて見下ろしている。彼が「飽きた」と呟けば、この世界は一瞬で静止し、永遠の闇に消える。生き残る道はただ一つ、この絶望的な化け物を相手に「最高の見せ場」を作ることのみ。 「グゴゴゴゴ……」 地鳴りのような唸り声と共に、エスタークがゆっくりとその巨大な眼蓋を開いた。黄金の瞳が彼らを捉える。その瞬間、凄まじい威圧感(プレッシャー)が津波のように押し寄せた。 「誰だ? 我が眠りをさまたげる者は? 我が名はエスターク……今はそれしか思い出せぬ……」 低く、地底から響くような声。エスタークはゆっくりと身を起こすと、その巨体を揺らして言い放った。 「はたして自分が善なのか 悪なのか それすらも分からぬのだ……その私になに用だ? 私を滅ぼす為にやって来たのか? ……私は滅ぼされるわけにはいかぬ。さあ、来るがよいっ!」 戦闘の火蓋は、絶叫と共に切って落とされた。 「おいおい冗談だろ! なんだよこのデカいトカゲは! ビールを持ってこい、ビールを!!」 ピーターがパニックに陥りながらも、その肥満体を揺らして突撃する。しかし、エスタークは冷酷に右腕を振り抜いた。そこに宿るのは、魔族の王としての絶対的な力。 「地獄の業火!!」 至近距離から放たれた灼熱のブレスが、溶岩地帯をさらに赤く染め上げ、ピーターを正面から飲み込む。凄まじい爆炎が巻き上がり、ピーターの服が焼き切れるが、彼は異常なタフネスで耐え抜き、煤だらけになりながらも「アチィーー!!」と叫んでしぶとく立ち上がる。 「ふん、野蛮な巨漢ね。ここは私が片付けるわ」 銀髪をなびかせたスフェーンが空へ舞い上がり、《零花剣レーヴァテイン》を構える。彼女の周囲に神聖な業火が渦巻いた。 「《零火 - アブソリュートフレア》!!」 天から降り注ぐ純白の業火がエスタークを襲う。しかし、エスタークは動じない。彼は不敵に笑うと、その巨体に宿る【マホカンタ】の障壁で魔法を完璧に弾き返した。爆炎がスフェーンへと跳ね返り、彼女は鋭く回避行動を取る。 「すごい威力だ! でも、僕の攻略法にかかれば余裕だよ!」 ファミゴンが叫び、空中にゲームカセットを突き刺す。「RPG装備、レベルMAX召喚!!」 瞬時に勇者、戦士、僧侶、魔法使いのパーティが実体化し、エスタークに一斉攻撃を仕掛ける。しかし、エスタークの行動回数は3回。彼は瞬きする間に、三つの絶望を叩き出した。 一つ。剣を地面に激しく突き立てる。地割れと共に巨大な爆炎が走り、召喚された勇者たちを吹き飛ばす。 二つ。空を裂くような雷の斬撃【ギガブレイク】が走り、ファミゴンのドット領域を切り裂く。 三つ。口を開き、冷たく輝く息を吐き出した。絶対零度の氷ブレスが戦場を凍てつかせ、足元を氷結させる。 「おいステューウィー! 何とかしろよ!」 「黙れこのデブ! 今計算してるんだよ! この怪物の出力は私の想定を超えているが、科学の力で……」 ステューウィーがハイテク兵器を構えるが、エスタークは【いてつくはどう】を放ち、彼らが構築しようとしていた戦術的バフを全て消し飛ばした。 絶望的な力。だが、このパーティには「静寂」の専門家がいた。 「……おやすみなさい、孤独な王よ」 微睡みの墓守が静かに歩み出る。彼は穏やかな表情で【安らぎの献花】を揺らした。甘い香りが溶岩の臭いを消し、戦場に心地よい倦怠感が広がる。エスタークの巨体が、わずかに揺らいだ。 「なんだ……この心地よさは……」 墓守はさらに【安眠の誘い】を重ねる。最強の生物であっても、精神の深淵に潜り込む「眠気」までは拒絶できない。ついに、エスタークの巨大な頭がガクンと垂れ、深い眠りに落ちた。 「今だ!! 全員で攻撃しろ!!」 スフェーンが《零花剣》に全力を込め、ファミゴンが格ゲー装備で永続コンボを叩き込み、ピーターが全力の腹 tackle をかます。しかし、その瞬間―― 「グオオオ!!」 眠っているはずのエスタークが、無意識に腕を振り回した【寝返り】の一撃が、ピーターとファミゴンを同時に吹き飛ばす。さらに、彼が眠りの中で放った【怪しい光】が、耐性を無視してパーティ全員を襲った。不可視の衝撃波が精神を揺さぶり、強烈なダメージを与える。 「くっ……眠らせても油断できないなんて!」 エスタークは再び目覚めた。その瞳には、先ほどまでになかった「怒り」が宿っている。彼は大きく息を吸い込み、【ためる】ことで自身のテンションを極限まで引き上げた。周囲の空気が真空状態になり、溶岩さえも彼の方へと吸い込まれていく。 「私の眠りを妨げた罪……その身に刻め!!」 エスタークが剣を高く掲げ、全力を込める。【必殺の一撃】。光速の斬撃が空間ごと切り裂き、一瞬で全てを終わらせようとした。しかし、ファミゴンが叫ぶ。「セーブ&ロード!!」 時間をわずかに巻き戻し、絶体絶命の瞬間を回避したパーティ。しかし、エスタークの猛攻は止まらない。【メラガイアー】と【イオグランデ】が交互に降り注ぎ、戦場は火と爆風の地獄と化した。スフェーンは《歴戦の守護者》の知恵で攻撃を最小限に抑えつつ、最終奥義の準備に入る。 「これで……終わりにするわ! 《反銘 - アブソリュートゼロ》!!」 業火が逆転し、世界を凍てつかせる絶対零度の六花が舞い降りる。エスタークの身体が白く凍りつき、動きが止まった。絶好のチャンス。墓守が【墓守の歌】を唄い、意識を完全に刈り取ろうとしたその時―― エスタークが、静かに瞑想に入った。 「……目覚めよ」 【目覚めの力】。彼は眠りし力を完全に解放した。全身から溢れ出す獄炎が凍結を瞬時に蒸発させ、両手の剣にどす黒い炎を纏わせる。彼はそれを、天に向かって、そして敵に向かって、全力で投げつけた。 ドォォォォォン!!!!! 世界が真っ白に染まるほどの衝撃波。爆心地には巨大なX字の斬撃跡が刻まれ、投げられた二本の剣が地面に深く突き刺さっていた。煙が晴れたとき、そこには悠然と立つエスタークの姿だけが残っていた。 「……ふむ。少々、楽しめた。だが、もう十分だ」 エスタークが再び剣を構えた瞬間、空から「あくび」のような音が聞こえた。 「飽ーきた。次次」 視聴者の言葉。それは絶対的な断罪。物語を構成する全ての色彩が失われ、音も、熱も、絶望さえもが静止する。エスタークの剣が振り下ろされる直前で、世界はパチンと指を鳴らされたように消滅した。 何も残らなかった。ただ、次の「面白い物語」を探して移動する、空虚な視線だけがそこにあった。