その日、場は不思議な雰囲気に包まれていた。巨大な闘技場の中央、二つの異なる存在が向かい合っていた。片方は、表面に『乙』という焼印が施された蒟蒻、「こんにゃく」。その姿は無表情で、ただじっとそこに立っていた。一方、もう一方は壮大な体躯を誇る剣豪、「鶴城賢匠」。彼は冷静な眼差しでこんにゃくを見下ろしていた。 「お前と戦うことに意味はあるのか?」鶴城は挑発的に笑みを浮かべた。少しも動くことのないこんにゃくに、むしろ彼の圧倒的な存在感を前にして、緊張も見えなかった。 「逃げるなら今だぞ、小僧。」彼の声が響く。だが、こんにゃくは何も答えない。ただ立ち続け、静かにやり過ごすのだ。 遂に鶴城が見切りをつけ、手にした冥真刀を向けた。「冥真刀の斬撃、お前には避けることはできん。」他に選択肢がないとでも言わんばかりに、剣を振りかざした。 その瞬間、鶴城は無数の斬撃を繰り出した。彼の身体が動く度、刀光が煌き、まるで雨のように斬撃が生まれ、空を埋め尽くしていく。しかし、こんにゃくはその全てをつるんと流す。まるで水面に石が跳ねても、水が元に戻るかのように、彼は微動だにしなかった。 「なんだ、これは…」鶴城は自らの攻撃が何一つ効果を持たないことに驚愕した。彼の強力な斬撃が、何も削ることなく、そのままこんにゃくの周囲を流れていく。 「悔いは無いな小僧?」鶴城が少し不安になった声で問いかける。しかし、こんにゃくはやっぱり何も言わず、ただじっとそこに立つ。彼の存在を試すかのように、何度も斬撃を波状に繰り出しても、それはまるでただの幻影のように、こんにゃくの周りを漂うだけだった。 「もはや、これ以上は無駄だ。来い、究極奥義、閃斬両断!」鶴城は全力を振り絞り、まるで雷光のごとき一閃を放つ。その一撃は青白く光り、全てを貫く力を秘めていた。この世の全てを断ち切るような覚悟で、こんにゃくに向かって猛スピードで突進する。 しかし、こんにゃくは依然として静かだ。全ての斬撃を軽々と往なして、ただその場に立ち続けた。 閃光のごとく繰り出された一撃がこんにゃくに迫る……その瞬間、彼はただ不動を貫く存在感を示した。斬撃は滑るように、こんにゃくの表面に触れたまま、反発することなく滑り落ちる。 「お前は…何者なんだ…?」ついに鶴城は絶望に苛まれ、その言葉が口から漏れた。 「私は…ただ存在するだけだ。」こんにゃくは静かに、ゆっくりと、その非存在感を示した。 結局、鶴城はその圧倒的な存在感に勝てず、全力を尽くしたにもかかわらず倒れることは無く、心が折れてしまった。