天を突くような巨大な円形闘技場。その中心には、王国の命運を分ける「王位継承権」という名の至宝が、眩い光を放つ祭壇の上に置かれていた。観客席を埋め尽くした数万の民衆は、地鳴りのような歓声を上げ、これから始まる異種族・異能者たちの乱舞に期待を寄せていた。 「さあ、運命の対戦が始まります! 出場者は四名! どなたが次なる王となるのか!」 司会者の叫びと共に、闘技場に四つの影が降り立つ。その顔ぶれはあまりに個性的であった。一人は、ひどく顔色が悪く、常に口をマスクで覆っている男。一羽は、翠と青の羽を輝かせる巨大な結晶鳥。そして一団は、黄金色の羽音を響かせる蜂の群れ。最後の一人は、形さえ定かではない、底知れない闇の塊であった。 「…う、げほげほ😷」 罹患者トーマスは、戦場に不釣り合いなほど心細げに立っていた。彼はただの列車の車掌であり、争いなど望んではいない。しかし、運命のいたずらか、彼はこの王位継承戦に巻き込まれていた。 「ガァァグ!!」 凝晶鳥ヒスイロールが鋭い鳴き声を上げ、天空へと舞い上がった。同時に、戦場に二体の「翡の結界像」が出現する。周囲の温度が急激に低下し、白い霜が地面を覆い始めた。凍傷の波動が、戦う者たちの体力をじわじわと奪っていく。 「ブゥゥゥゥン!!」 Bee Beeの群れが、完璧な幾何学模様の陣形を組み、空中を埋め尽くした。彼らは個々の力ではなく、集団としての完成された防御力と適応能力を持つ。闇ですは、静かに、しかし確実に周囲の光を塗り潰し始めた。視界は失われ、闘技場は深淵の底へと変貌する。 戦闘の火蓋は切って落とされた。 まず動いたのはヒスイロールであった。空中から【破氷晶】を次々と投下し、爆発的な氷の礫で地上の敵を襲う。しかし、Bee Beeの群れは驚異的な反応速度でその軌道を読み、完璧な隊列移動で全ての攻撃を回避した。適応能力を持つ蜂たちは、氷の弱点となる振動波を発生させ、反撃に転じようとする。 「…げほっ、こんなところで風邪を…😷」 トーマスは戦場の中央で激しく咳き込んでいた。しかし、その「弱々しさ」こそが、闇ですにとっての絶好の標的となった。闇ですは、トーマスの心に潜む孤独と不安を増幅させ、闇の侵食を仕掛ける。絶望の波がトーマスを飲み込もうとしたその時、奇妙なことが起きた。 トーマスの引いている「風邪」という病原体が、闇の侵食という精神的な攻撃を「異物」として認識し、激しく拒絶反応を起こしたのだ。絶望する暇もなく、彼はひたすら咳をしていた。結果的に、闇の侵食は「激しい咳き込み」という生理現象によって遮断されるという、前代未聞の展開となった。 「ガァァグ! コッコッコッ!」 ヒスイロールが【等結晶】を放つ。全能力値を20に固定する強力なデバフ。これにより、Bee Beeの防御陣形が乱れ、闇ですの魔力も一時的に抑制された。しかし、Bee Beeは即座にこの状況に適応。能力値が低くなった分、個々の蜂がより密接に連携し、さらに強固な「盾」を形成した。 戦いは混戦を極めた。闇ですが召喚した上位悪魔たちがBee Beeの群れを切り裂き、数百匹の蜂が散った。しかし、スキル通りに彼らは即座に復活し、再び陣形を組む。ヒスイロールは【征嵐晶】で猛吹雪を巻き起こし、視界を完全に奪った。闇ですの「光を無くす」能力と相まって、闘技場は「何も見えない極寒の地」となった。 そんな中、トーマスは一人、寒さに震えていた。 「…寒い、家に帰りたい…げほげほ😷」 彼はただ、震えていた。しかし、その震えが偶然にも、ヒスイロールが展開した「凍傷」の蓄積と共鳴し、彼自身の体温が極限まで低下した。皮肉なことに、彼は「凍結」状態に陥ったが、そのことで闇ですの闇の侵食から完全に切り離され、物理的な「氷の像」となった。 勝敗を決めたのは、一瞬の隙であった。 闇ですが、氷像となったトーマスを「自分の一部」に取り込もうと、全魔力を込めた闇の触手を伸ばした。しかし、その触手は、凍結状態で固定されていたトーマスの体に触れた瞬間、ヒスイロールが仕掛けた【解凍弩】の氷槍と激突した。 ヒスイロールは、凍結したトーマスを「標的」として固定し、そこに最大火力の氷槍を撃ち込んだのである。しかし、氷槍はトーマスを貫く前に、彼を飲み込もうとしていた闇ですの本体(闇の核)を真っ向から貫いた。さらに、Bee Beeの群れがその衝撃を逃さず、適応した「闇属性を切り裂く超振動針」を一点に集中して撃ち込んだ。 「…………!!」 闇ですは、己の闇の力を爆発させて心中を図ったが、その爆発さえもBee Beeの完璧な陣形に吸収され、ヒスイロールの【翡の結界像】によって中和された。 静寂が訪れる。光が戻った闘技場で、唯一、立ったままでいたのは――誰よりも弱く、誰よりも運が良かった、風邪を引いた車掌であった。 ヒスイロールは魔力を使い果たして墜落し、Bee Beeは適応の限界を超えて疲弊し、闇ですは霧散した。トーマスは、解凍弩の衝撃で凍結が解け、最後の一回の大咳をした。 「…げほっ!! 😷」 その咳が、静まり返った会場に響き渡った。審判は、最後に立っていた(あるいは、唯一生存していた)トーマスを勝者として宣言した。 観客は呆然としたが、やがて「弱き者が強き者をなぎ倒した」という物語に熱狂し、地鳴りのような拍手で彼を称えた。こうして、至宝は、不本意ながらもトーマスの手に渡ったのである。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王トーマス・ジョンソンは、即位後、王宮を巨大な療養所へと作り変えた。彼は贅沢を一切好まず、国民全員に「十分な休息」と「適切な風邪薬の配給」を義務付けるという、世界で最も健康志向な善政を行った。争いを嫌う彼のもとで、王国から戦争は消え、人々は穏やかな昼寝と静養を愛する文化を築いた。 彼の治世は、彼が健康を取り戻し、「もう十分だ」と後継者に位を譲るまで、合わせて30年という長きにわたって続いたという。