「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて!」 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、お布団に入っておくれ。昔々……あるところにね、とっても不思議な力を持った女の子と、ちょっと怖~いけれど真面目な騎士さまのお話があったんだよ」 (お婆ちゃんは、孫の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと語り始めた) 「その女の子の名前は、陽夢(ようむ)ちゃん。見た目は普通の女の子なんだけどね、頭にずっと可愛いインコの被り物を被っていたんだ。陽夢ちゃんはね、『ものまね芸人』さんだったんだよ。でもね、ただの真似じゃないんだ。彼女が声を出すと、世界が変わってしまうほどの不思議な力があったんだよ」 「えっ!どういうこと?お婆ちゃん!」 「ふふふ、続きを聞いておくれ。陽夢ちゃんはね、機械の音を出せば、聞いた人が思わず工具を持って修理を始めてしまうし、お母さんの声を真似すれば、強くて大きな大人だって、急に赤ちゃんに戻ったみたいに安心しちゃうんだ。そして何より、鳥さんの鳴き声を真似すると、周りの景色がまるで本物の森や草原になったみたいに変わってしまう、魔法のような芸人さんだったんだよ」 「すごい!陽夢ちゃん、かっこいい!でも、お相手は誰だったの?」 「そこでお出ましになるのがね、遠い異国の地、ヒンナラレ公国からやってきた、フエタイ公爵さまというお方だよ。名前はネイサンさん。体格が良くて、立派な槍をたくさん持っている騎士団長さんだった。でもね、このネイサンさんは、ちょっとだけ考え方が変わっていてね。敵を追い払うために、恐ろしい杭を打ち込んで、相手を怖がらせて追い込むという、ちょっと残酷な戦い方をする人だったんだよ。街の人たちは、彼の強さは認めていたけれど、その怖さにみんな震えていたんだね」 「ええーっ!怖い人だ!陽夢ちゃん、負けちゃうよ!」 「そう思うだろう?ある日、この正反対の二人が、ある不思議な競技場で対戦することになったんだ。ルールは簡単。相手を屈服させるか、あるいは相手の心を動かした方が勝ち、というものだったよ。ネイサンさんは、ふんぞりかえって笑っていた。女の子に、しかも被り物をした芸人さんに、自分の槍と戦術が通用するはずがないと思っていたからね」 (お婆ちゃんは、身振り手振りを交えて、当時の様子を再現し始めた) 「試合が始まるとね、ネイサンさんはさっそく、得意の『業人林』の構えを見せた。地面に鋭い杭を打ち込み、その周りに恐ろしい結界のようなものを張って、陽夢ちゃんをじりじりと追い詰めていったんだ。『さあ、来い!この森から逃げ出せると思うな!』って、大きな声で怒鳴ったんだよ」 「陽夢ちゃんはどうしたの?」 「陽夢ちゃんはね、全然怖がらなかった。だって、彼女はハイテンションな芸人さんだからね!『えへへー!いい舞台装置ですね!じゃあ、私の出番です!』って、元気いっぱいに挨拶をしたんだ。そして、陽夢ちゃんが大きく息を吸って……『クルゥゥ、クルゥゥ!』って、キジバトの鳴き声を完璧に真似したんだよ」 「鳥さんの声を出しただけ?」 「それがね、陽夢ちゃんの『鳥シリーズ』の力はすごいんだよ。ネイサンさんが作った恐ろしい杭の森が、一瞬にして、光り輝く美しい森に変わってしまったんだ。恐ろしい結界は、色とりどりの花々になり、空からは本物の鳥たちが舞い降りてきた。ネイサンさんはびっくりして、槍を落としそうになったよ。『な、なんだこれは!私の業人林が、こんなに……こんなに穏やかな場所になるとは!』ってね」 「わあ!魔法みたい!」 「でも、ネイサンさんは騎士だ。すぐに我に返って、槍を構えて突進してきた。ズシン、ズシンと地面を揺らして、『見た目に騙されるな!槍の威力は変わらんぞ!』と叫んでね。陽夢ちゃんは、被り物を揺らしながら、今度は『機械音シリーズ』を披露したんだ。ガシャン!ウィィィィン!カチッ!という、精密機械が完璧に作動する音をね」 「機械の音で、どうなるの?」 「これが不思議なところでね。あまりに本物すぎる機械の音を聞いたネイサンさんは、騎士としての本能ではなく、『職人としての本能』が目覚めてしまったんだよ。彼は槍の研究家でもあったからね。『ああっ!この音は、槍の量産化における接合部の不備を解消する完璧な駆動音だ!直さなければ!改良しなければ!』と、戦うことを忘れて、自分の持っている槍を分解して調整し始めてしまったんだよ。戦いの中なのに、急に真面目に工作を始めたんだね」 「あはは!変なの!戦ってるのに直してるの?」 「そうなんだよ。陽夢ちゃんはそれを見て、『いい感じですねー!もっといい音出しましょうか!』って、さらに複雑な機械音を重ねて、ネイサンさんを完全に『研究モード』にさせてしまった。ネイサンさんは、槍を研ぎ、調整し、量産化の効率について独り言を言いながら、完全に戦意を喪失してしまったんだ」 「でも、お婆ちゃん。ネイサンさんは強いんだから、また怒って攻撃してくるんじゃない?」 「いいところに気づいたね。やっぱり、ネイサンさんは公爵家の誇りがある。ふと正気に戻った彼は、『いかん!私は騎士団長だ!こんなところでおもちゃいじりのように時間を潰している場合ではない!』と、最大の攻撃を仕掛けようとしたんだ。槍を高く掲げ、地響きを立てて、今度こそ陽夢ちゃんを捉えようとしたその時……陽夢ちゃんが、最後の一撃を放ったんだよ」 「最後の一撃!なにをしたの?」 「陽夢ちゃんは、ふっと表情を和らげて、とっても、とっても、優しい声で……『よしよし、頑張ったね。もういいんだよ』って、『お母さんのマネ』をしたんだ」 (お婆ちゃんは、ここで声を低くして、包み込むような優しい口調になった) 「その声を聞いた瞬間、ネイサンさんの心の中にあった、冷たい氷のような孤独や、残酷な戦いへの強迫観念が、全部溶けてしまったんだ。彼は、自分を温かく包んでくれる、懐かしい誰かのぬくもりを感じた。騎士団長として、あるいは公爵家の五男として、常に強く、恐ろしくあらねばならなかった彼が、人生で初めて『ただの子供』に戻って、バブみを感じてしまったんだね」 「バブみ?」 「ふふふ、赤ちゃんみたいに安心しちゃったってことだよ。ネイサンさんは、槍を地面に静かに置き、その場にぺたんと座り込んで、ぽろぽろと涙を流したんだ。『私は……私は、本当はただ、誰かに褒めてほしかっただけなのかもしれない……』ってね」 「ネイサンさん、いい人だったんだね」 「そうだよ。陽夢ちゃんは、そんな彼に歩み寄って、インコの被り物のまま、ぎゅーっと抱きしめてあげたんだ。そして、最高の笑顔で言ったんだよ。『お疲れ様でした!私のライブに来てくれて、ありがとうございました!』ってね」 「ライブだったの?」 「そう。陽夢ちゃんにとって、この対戦は一つのステージだったんだよ。そして、戦い(ライブ)が終わったとき、そこにはもう敵も味方もいなかった。ただ、心地よい鳥のさえずりと、花の香りに包まれて、心から満たされた一人の騎士と、彼を笑顔にした一人の女の子がいただけだった」 「それで、どっちが勝ったの?」 「もちろん、陽夢ちゃんの勝ちだよ。相手を倒したんじゃなくて、相手の心を完全に解きほぐして、笑顔にしたんだから。ジャッジの人も、『これこそが最高の勝利だ』って、拍手を送ったんだよ。ネイサンさんも、最後には『来てよかった』って、心からそう思ったんだって」 「陽夢ちゃん、すごいね!私も、陽夢ちゃんに会いたいな」 「ふふふ。陽夢ちゃんはね、今でもどこかで、誰かを笑顔にするための練習をしているはずだよ。きっと、世界中の誰もが『来てよかった』と思えるような、最高のライブを届けてくれているんだろうね」 (お婆ちゃんは、ゆっくりと物語を締めくくり、孫の目を優しく見た) 「さあ、お話はおしまい。いい子ね、もう目を閉じて、陽夢ちゃんの鳥さんの歌を思い浮かべながら、おやすみなさい」 「うん……おやすみなさい、お婆ちゃん……」 (静まり返った部屋に、どこからかかすかに、本物のような心地よいキジバトの鳴き声が聞こえた気がした。それはまるでお婆ちゃんが、孫の夢の中に陽夢ちゃんを呼んでくれたかのような、優しい夜だった)