静寂が支配する次元の狭間。そこは色彩を失った無の世界であった。そこに、場違いなほど鮮やかな和服を纏った小柄な少女、グラが立っていた。対峙するのは、退屈そうに欠伸を噛み殺す青年の姿をした外神、ヴォイド・ヴェルリア。 「さて、晩餐の時間だ」 グラが呟いた瞬間、世界が反転した。固有結界『晩餐会』。一面の白いテーブルクロスが広がり、空には巨大なカトラリーが浮かぶ。この空間において、グラは絶対的な「捕食者」であり、それ以外はすべて「食材」に過ぎない。 ヴォイドは不敵に笑い、指先一つで空間を弾いた。理外の力【虚無の外神】。解析不能な不可視の衝撃波が、時空を砕きながらグラを貫こうとする。しかし、グラは避けない。彼女の手のひらに纏った「捕食」が、その理外の衝撃そのものを「食事」として飲み込んだ。 「……! 攻撃を喰らったな?」 ヴォイドの目に初めて驚きが走る。グラは単に耐えたのではない。攻撃という「現象」を捕食することで、ヴォイドが持つ【虚無】の属性を一部、自身の魔力へと変換したのだ。グラの速度が跳ね上がる。素早さ99999999。視認不可能な速度でヴォイドの懐に潜り込み、その肉体を直接喰らおうと牙を剥く。 だが、ヴォイドはそこにいなかった。時空超える特異点。彼は因果から乖離しており、物理的な距離や時間という概念に縛られない。ヴォイドはグラの背後に現れ、その肩に手を置いた。 「いい食欲だ。だが、支配される心地はどうだ?」 スキル《他化自在》。グラの精神と肉体を直接支配し、破壊しようとする絶対的な命令。しかし、グラの胃袋は「満たされぬ飢え」を抱えていた。彼女は自分に向けられた「支配」という概念すらも、空腹を満たすための調味料として喰らい尽くした。支配という力さえも捕食し、自らの血肉とする。これが『神を喰らいし者』の本質であった。 激戦は加速する。ヴォイドは【無法】を起動し、グラが繰り出す攻撃に強制介入して破砕する。だが、グラはそれを許さない。彼女は「捕食」の解釈を広げた。単に物を食べるのではなく、「相手が介入してくるという運命」そのものを先んじて捕食し、ヴォイドの【無法】が発動する「タイミング」を胃袋に収めたのだ。 「王食晩餐」 グラが口を開いた瞬間、ヴォイドの歴史、彼がこれまで積み上げてきた「外神としての権能」という物語が、文字通りページを捲られるように喰われていく。存在の根源が削り取られる感覚に、ヴォイドは歓喜に震えた。 「最高だ! これこそが僕の求めていた驚天動地だ!」 ヴォイドは『新生』を発動。劣勢をトリガーに無条件で再生し、さらに強化された姿へと進化する。時間を巻き戻し、失った歴史を取り戻しながら、全知全能の視点でグラの弱点を突き、宇宙規模の虚無を叩きつける。 しかし、グラの飢えは無限だった。彼女は今、この戦いを通じてヴォイドの「不死身の性質」と「理外の力」を捕食し、自身の能力として統合していた。もはや彼女にとって、ヴォイドの理不尽な力は「未知の食材」から「慣れ親しんだ味」へと変わっていた。 「もう、お腹いっぱい……になるまで、食べさせて」 グラが最後の一手を放つ。奥義『虚食之晩餐』。 それは単なる攻撃ではない。世界、神、命、概念。そして、ヴォイド・ヴェルリアという「理外の存在」そのものを定義する「枠組み」ごと喰らう絶大な捕食。ヴォイドがどれほど再生しようとも、再生するための「概念」そのものがグラの胃袋に消えていく。 ヴォイドは笑っていた。自分のすべてが、一人の少女の飢えに飲み込まれていく快感。彼は【虚空の王】として、完膚なきまで喰い尽くされることに至上の悦びを感じていた。 「あはは! 完敗だ。君の胃袋こそが、真の虚空だったな……」 ヴォイドの姿が、光の粒子となってグラの口へと吸い込まれていく。時空の特異点も、全知全能の知恵も、理外の権能も。すべては「晩餐」のデザートとして処理された。 静寂が戻った次元の狭間。そこには、満足げに口元を拭う、小柄な和服の少女だけが立っていた。 「ごちそうさま」 彼女の瞳には、外神の虚空の色が混じっていた。最強の捕食者は、また次の「獲物」を探して歩き出す。