凍てついた静寂が支配する白銀の世界。そこへ、機械的な駆動音を響かせながら一機の重装甲機体が降り立った。重武装兵・ミネルヴァα。彼女のセンサーは、目の前に立つ白銀の正装を纏った女、ブルームを瞬時に標的としてロックオンした。 「ターゲット確認。排除シークエンスを開始します」 ミネルヴァαの肩部ハッチが開き、16発の多弾ミサイルが火を吹く。しかし、ミサイルがブルームに到達する直前、弾道が不自然に静止した。ブルームが展開していた『常時極寒』の領域が、空気の分子運動を完全に停止させ、物理的な慣性すらも凍結させたのだ。 「……遅い」 ブルームが『凍死の刀』を軽く振る。絶対零度の斬撃が真空を切り裂き、ミネルヴァαの装甲を捉えた。通常であれば分子構造ごと崩壊する一撃だが、『フルアーマー』の軽減能力が作動し、衝撃の半分を相殺。それでも、装甲の表面には白く鋭い霜が降り、関節部が凍結し始める。 「ダメージ検知。適応を開始します」 ミネルヴァαの『戦闘学習』が起動した。彼女は自身の内部回路に高電圧を流し、強制的に発熱させることで凍結を解除。さらに、熱を出すことで相手の能力を誘発させるという計算に出た。わざと高温の排気ガスを噴射し、周囲の温度を急上昇させる。 だが、それはブルームにとって好都合であった。『熱反転』。周囲が暑くなればなるほど、彼女の冷気はより鋭く、より冷酷に加速する。爆発的な熱気が、即座に絶対零度を遥かに下回る超低温へと変換され、ミネルヴァαを包み込んだ。 「熱を出すということは、凍りやすくなるということ。論理的な帰結です」 ブルームは『第一段階』を解放した。全宇宙を凍結させる温度。光さえも届かない闇のような冷気がミネルヴァαを押し潰す。もはや物理的な装甲では防げない、熱力学的な死が訪れようとしていた。 しかし、ミネルヴァαは諦めない。彼女は『自動追尾システム』の解釈を広げた。追尾するのは「個体」ではなく、「冷気の流れ(ベクトル)」であると定義。冷気の激流の中で、唯一温度が安定している「特異点」――ブルーム自身の座標をミリ単位で特定した。 「レールガン、最大出力。座標固定、射撃」 超電磁砲が放たれた。弾丸は冷気の壁を突き破り、ブルームの肩をかすめる。決定打にはならなかったが、ブルームの表情にわずかな驚きが走った。絶対零度の静寂の中でも、電磁加速による純粋な物理速度は、凍結の速度を上回った瞬間があった。 「面白い。では、こちらも段階を上げましょう」 ブルームが指を鳴らす。『第二段階』。時と概念の凍結。世界から「動き」という概念が消えた。ミネルヴァαの演算処理速度すらも凍りつき、思考が停止する。静止した時間の中で、ブルームはゆっくりと歩み寄り、凍死の刀をミネルヴァαの心核へと突き立てようとした。 その時、ミネルヴァαのシステムが限界を超えて火花を散らした。『戦闘学習』が「時間の停止」という概念を学習し、それを「極限まで遅くなった処理速度」として再定義。自身の全機能をオーバークロックさせ、凍結した時間の間隙を強引にこじ開けた。 「システム、限界突破。全リソースを攻撃に転換」 【必殺技】オウルバースト。 ミネルヴァαは『フルアーマー』の防御力、そして精神的な障壁に相当する魔法防御力の全てを、一瞬にして攻撃エネルギーへと変換した。もはや彼女に防御力は残っていない。だが、その身は巨大な電磁砲と化した。 「消滅してください」 至近距離から放たれた極大のレールガン。それは単なる物理弾ではなく、防御力を攻撃に変換したことで「防御不能」という概念を纏った一撃であった。ブルームは咄嗟に『五竜氷結』を展開し、5体の氷竜で防壁を築くが、オウルバーストの光線は氷竜を分子レベルで蒸発させ、ブルームの正装を真っ二つに切り裂いた。 轟音と共に、白銀の世界に巨大なクレーターが刻まれる。ブルームは後方へ吹き飛ばされ、その身体には消えない熱傷が刻まれていた。 しかし、勝利の歓喜はない。必殺技の代償である「30秒間の機能停止」がミネルヴァαを襲う。全てのシステムがシャットダウンし、彼女はただの鉄の塊となって静止した。 ブルームはゆっくりと立ち上がった。彼女の瞳には、冷徹なまでの静寂が戻っていた。 「……見事な適応でした。ですが、私の『第三段階』は、まだ見せていませんでしたね」 ブルームが静かに呟く。『第三段階』。全ての概念、物体、生物の凍結。究極の静寂。 もはやそこには「攻撃」も「防御」も、「時間」も「空間」も存在しない。ただ「凍りついている」という絶対的な結果だけが存在する世界。機能停止していたミネルヴァαは、自分が凍りついたことさえ認識できず、分子レベルで完全に静止した。 機能停止から復帰しようとしたミネルヴァαの最後の思考回路に、エラーメッセージが流れる。 『警告:外部温度、測定不能。システム、完全凍結。』 ブルームは静かに刀を鞘に収めた。そこには、美しく結晶化した機械の彫像が、永遠の静寂の中で佇んでいた。 勝者:ブルーム