深山に抱かれた「栄愛之湯」。紅葉が燃えるように山を彩る季節、この静寂なる老舗旅館に、およそ相容れない面々が集結していた。 チームAの加藤源蔵と神谷清十郎は、慣れ親しんだ足取りで山道を登っていた。大柄な源蔵が豪快に笑いながら、隣で仏頂面を崩さない清十郎に声をかける。 「がはは! 見ろ清十郎、この紅葉! 酒が進みそうな色じゃな!」 「……騒がしいです、局長。私はただ、静かに斬り合いの心地を忘れたいだけです」 一方のチームB。銀髪の美少女、ゲイルは無表情に槍を携え、淡々と歩いていた。その横を、浮遊しながら生意気に飛び回るトランプのカード、ハート・オータム=ニャトが嘲笑う。 「もー! この山道、歩くの遅すぎ! 貴方みたいな鈍い半神さんには、このニャト様の高速移動が羨ましいでしょ♡」 「……報告。歩行による心肺機能の活性化は、健康に寄与する」 「理屈っぽいんだからぁ!」 旅館に到着すると、そこには腰の曲がったが眼光鋭い経営主の婆さんが待っていた。チェックインを済ませる間も、源蔵は婆さんに「いい湯だそうじゃな!」と絡み、ハートは「この旅館、設備が古くない♡?」とメスガキ全開で挑発していたが、婆さんの「うるさいガキは湯船に沈めるぞ」という一言に、一瞬で静まり返った。 男女別の大部屋に分かれた後、和気藹々と雑談が始まる。男部屋では、源蔵が持参した地酒を酌み交わし、清十郎に最近の剣術の傾向について熱く語っていた。女部屋では、ゲイルが不思議そうに部屋の畳を凝視し、ハートが「私の美しさにこの畳さえひれ伏してるわ♡」と自画自賛しつつ、ゲイルの天然な振る舞いに呆れていた。 そして、事件は夕食後の「貸切露天風呂」で起きた。 男女それぞれ、竹垣を隔てた隣接する露天風呂で、紅葉を眺めながら至福の時を過ごしていた。源蔵は「極楽じゃあ!」と湯船に浸かり、ゲイルは無表情に、しかし心地よさそうに湯に身を委ねていた。 その静寂を、暴力的な轟音が切り裂いた。 「――効率的に、死ね」 突如、男風呂の壁を突き破り、黒い霧のような異形――Cチームの「death」が、巨大な大鎌を振り回して襲撃してきた。その初撃は凄まじく、男風呂と女風呂を隔てていた竹垣を文字通り一撃で粉砕した。 「なっ……!?」 視界が開けた瞬間、そこにあったのは、全裸に近い状態の男女が互いに顔を見合わせるという地獄絵図であった。しかし、状況を打開せねばならない。 「貴様らぁ! せっかくの湯浴みを邪魔しおって!!」 源蔵が怒号を上げ、濡れた床で派手に足を滑らせながらも、瞬時に大刀を抜き放つ。「剛破:抜刀」の一撃がdeathの鎌と激突し、火花が散った。 「作戦……開始」 ゲイルが即座に聖なる槍を召喚。しかし、石鹸でぬるぬるになった床に足を取られ、「あうっ」と情けない声を上げて転倒。そのまま槍が投げ出され、地面を陥没させると同時に、運悪く隣にいた清十郎の腰に槍の柄が直撃した。 「ぐはっ……! このアマ、どこを狙って……!」 清十郎が怒りに任せて二刀「影連」で斬撃を繰り出そうとした瞬間、背後からハートが「たすけてぇー♡」と叫びながら、deathの召喚したゾンビから逃げて激突。清十郎の背中にハートが張り付き、バランスを崩した二人はそのままドボーン!と湯船に水没した。 混沌は加速する。deathは無機質に大鎌を振り回すが、濡れた床という環境は彼にとっても計算外だった。遠心力で回転して飛ばされたdeathが、ちょうど立ち上がろうとした源蔵の足元に滑り込み、源蔵は「わあああ!」と叫びながら前方へダイブ。そのまま、ちょうど敵を斬り伏せようとしていた清十郎の上に、大柄な身体で完全に乗っかった。 「どけ! 局長!! 重い!!」 「すまん! 滑ったんじゃ!!」 その隙を突き、ハートが【カイトヤ】のつらら弾幕を放つ。「死んじゃえー♡」と叫ぶが、水蒸気で視界が悪く、弾幕の半分が味方の源蔵と清十郎の頭上に降り注いだ。さらに、ゲイルが再び立ち上がろうとして、今度は誰が落としたのかバナナの皮(なぜかあった)に足を滑らせ、そのまま勢いよく清十郎と源蔵の塊に突っ込んだ。 「きゃっ!?」 「おわあああ!!」 もつれ合う肢体、飛び散る湯の花、そして敵の攻撃。物理的な衝突が繰り返され、ラッキースケベ的な状況が連発するが、彼らにはそれを恥じらう余裕すらなかった。もはやこれは戦闘ではなく、全裸の乱闘であった。 しかし、最後はチームAの意地だった。源蔵がもつれ合いの中から強引に脱出すると、濡れた床を利用して低く構え、最大の一撃を放つ。 「無双一心流・剛破斬!!」 空間ごと両断する一撃が、deathの黒い霧を真っ二つに切り裂いた。さらに、ゲイルが混乱の中で放った全力の投擲槍が、deathの頭上に直撃し、彼を露天風呂の底へと深く埋没させた。Cチームは、物理的な不運とA・Bチームの(意図せぬ)連携の前に、完膚なきまでに敗北した。 静寂が戻った。 そこには、ずぶ濡れで疲れ果て、お互いの妙な部位に触れたまま固まっている男女がいた。なんとも言えない、気まずい、そして熱い空気が流れる。 「……あー。最悪」 ハートが小さく呟いた。 彼らはその後、気まずさを抱えながらも、協働して壊れた竹垣を直した。源蔵が柱を支え、ゲイルが槍で固定し、清十郎が不機嫌そうに縄をかけ、ハートが浮遊して上から押さえる。完成後、彼らは婆さんの前に並んで深く頭を下げた。 「……すまなかったな、婆さん」 「……報告。不手際、申し訳ない」 婆さんは呆れた顔で、「次壊したら、今度こそ煮込むぞ」と吐き捨てた。 それぞれの部屋に戻った彼らは、布団の中で天井を見つめていた。源蔵は酒を飲みながら、清十郎は瞑想しながら、ゲイルは無表情に、ハートはもぞもぞと。戦いの記憶よりも、あの露天風呂での「接触」の感触が脳裏をよぎり、全員が心の中で深い溜息をついた。 翌朝。チェックアウトを済ませた一行は、朝靄に包まれた旅館を出た。 「……まあ、たまにはこういう賑やかな旅も悪くないな」 源蔵が豪快に笑うが、どこか照れくさそうだ。清十郎は「二度と御免です」と切り捨てたが、その耳は少し赤い。 ゲイルは「……次は、滑らない靴を履く」と独り言ち、ハートは「もう、あんな不潔な男たちと一緒にいたなんて信じられないわ♡」と毒づきながらも、どこか満足げに空を飛んでいた。 それぞれの想いを胸に、彼らはまた、喧騒に満ちた日常へと帰路についた。