第一章 ギララバル鉱山前、四人の異邦人 赤茶けた岩山に囲まれたギララバル鉱山の前で、風が乾いた砂を巻き上げていた。坑道の奥からは、地鳴りのような唸り声と、何か巨大なものが土を掘り進む音が響いている。 先頭に立ったのは、腹掛けに大きく「麺」の家紋を刻んだ、身長一一二センチほどの少年だった。奇妙な笛を胸元に抱え、頬をぷくりと膨らませている。 「ぼくはメガマル、本名は麺ヶ丸龍之助ながよ~! 麺ヶ丸六代目当主で、うどんを操る修行をしてきたのだ~!」 その隣で、白髪の老侍が静かに頭を下げた。細身の身体には幾多の傷が刻まれ、腰には太刀『星断ち』と小刀『星切り』が差されている。 「『星光』ツルギ。齢、八十七。剣士である。……鉱山へ参る理由は、忘れた」 一拍置き、ツルギは眉をひそめた。 「いや、魔物を斬るためであったな」 黒衣の少年、ニ・セモーノは無表情に二人を見た。敵を本物、自分を偽者と定めた瞬間、相手の全てを模倣し、それを上回る異質な存在である。 最後に、紫色の髪を揺らす六歳の少女が跳ねるように前へ出た。背中には連射式超紫電砲が六基、手には時空槍。彼女は鉱山を見上げ、楽しそうに笑った。 「おめがだよ~! きょうはみんなであそぶのだ~!」 そのとき、鉱山の入口から白い霧が流れ出した。霧の中で、赤い目を持つモグラ型魔物、サンザンモグラが無数に蠢いている。 メガマルは笛を構えた。 「ほいたら、いっぺんに退治するがよ~!」 笛の音が響く。大地が割れ、白龍の姿をした巨大なうどんが四体、次々と地面から飛び出した。 第二章 幻霧と灼熱の地底戦 霧を吸った瞬間、景色が歪んだ。 メガマルには故郷の亀龍村が燃えているように見えた。ツルギには、かつて切り捨てた星神が何十体も立ちはだかっている。ニ・セモーノには、自分自身が無数に増殖し、互いに殺し合う光景が映った。 おめがだけは、楽しそうに首を傾げた。 「へんなけしきだよ~。でも、ほんものじゃないのだ~!」 彼女が指を弾くと、時空が一瞬だけねじ曲がった。幻覚の霧そのものが、存在しなかったことになる。サンザンモグラの群れが驚いて地中へ逃げようとしたが、カケウドンが大地を穿ち、地面ごと彼らを噛み砕いた。 直後、地中からマグマグモグラが噴き上がった。背中から溶岩を散らしながら潜行する魔物である。溶岩の雨が降り注ぎ、岩棚が赤く染まった。 ツルギは一歩進み、二刀を抜いた。 「斬波」 山を断つほどの斬撃が地面を走り、溶岩の流れとマグマグモグラの群れをまとめて両断した。だが、魔物の数はあまりにも多い。坑道の奥から、さらにダダリアが現れた。花弁のような翼を持つ魔物が光を放つと、傷ついた魔物たちが次々と回復していく。 メガマルは歯を食いしばった。 「あの回復するやつを先に止めんと、いつまでたっても終わらんき!」 カマタマウドンが空へ飛び、大雷を吐いた。雷撃はダダリアの群れを貫き、回復の光を断ち切る。そこへケツネウドンが神速で突進し、残ったダダリアを地面へ叩きつけた。 魔物の群れは崩れた。しかし、坑道の奥からさらに数千、数万もの影が押し寄せる。 その時、地面が大きく裂けた。マグマグモグラの大群が一斉に噴き出し、熱波が四人を包む。メガマルの身体が吹き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられた。 「メガマル殿!」 ツルギが駆け寄ろうとした瞬間、巨大なマグマの爪が老侍を直撃した。胸元が裂け、白い衣が赤く染まる。ツルギは膝をついた。 「……まだ、死ぬには早い」 しかし次の攻撃が迫る。おめがが姿を消し、瞬時にツルギの前へ現れた。時空槍がマグマの爪を貫き、魔物の存在そのものを空間の彼方へ押し流す。 「つるぎさんは、まだあそぶのだよ~!」 同時に、メガマルがふらつきながら立ち上がった。 「助かったがね……ほいたら、ぼくも本気を出すき!」 四体の白龍が融合し、伝説の白龍、真打ち・サヌキウドンが降臨した。白龍は荒々しく魔物を喰い千切り、坑道を埋め尽くす勢いで敵を薙ぎ払った。 やがて、魔物の総数は二万を超えた。だが、その死闘の最中、坑道の最深部から冷たい拍手が響いた。 第三章 蛇魔の軍勢と宝石の侵入者 拍手の主はジャーズだった。長大な蛇の身体に毒の牙を備え、周囲にはガームド、アスム、そして無数の魔物が従っている。 ガームドが両腕を掲げると、魔物たちに青い魔法のバリアが貼られた。アスムは身体を震わせ、魔法の矢を雨のように連射する。 ジャーズは毒牙を剥いた。 「老いた剣士よ、その血を毒で満たしてやろう」 蛇が突進する。ツルギは星切りで牙を受け流したが、毒の飛沫が肩をかすめた。皮膚が黒く変色し、腕の感覚が失われていく。 ニ・セモーノがジャーズを見た。 「相手は本物。自分は偽者」 次の瞬間、彼の姿はジャーズそのものへ変わった。だが、その力は本物を上回る。偽りの毒牙が本物のジャーズへ食い込み、強烈な毒が蛇の全身を駆け巡った。 ジャーズは絶叫し、ニ・セモーノを噛み砕こうとした。しかし偽者に対して、本物の武器や力は効かない。牙は彼の身体をすり抜けた。 その隙に、おめがの紫電砲が六方向から同時に火を噴いた。魔法の矢も、バリアも、回避という概念さえも無視してジャーズを貫く。 「あたったら、すぐおやすみだよ~!」 ジャーズは即死した。ガームドが慌てて新たなバリアを張るが、ツルギの二刀が静かに閃く。 「星光」 認識すら許さぬ二連撃が、ガームドの結界と身体を同時に断ち切った。アスムの魔法矢が止まり、魔物の軍勢が崩壊する。 だが、戦場の空気が変わった。 坑道の奥から、七色の輝きが現れた。煌めく宝石が点在する巨大な蛇。赤、橙、黄、緑、藍、紫――その全てが生き物のように脈打っている。 宝石守護者、ダイアージャ。 赤の宝石が輝くと、身体にマグマがまとわれた。橙が輝けば莫大な炎が吐き出され、黄色から黄金の雷が落ちる。緑は植物を操り、藍は奔流を呼び、紫は腐食の毒を撒き散らした。 ダイアージャの巨体が動いただけで坑道が崩れた。ツルギが星断ちを振るうが、刃は宝石の鱗に触れた瞬間、甲高い音を立てて弾かれる。 「硬い……」 ダイアージャの牙が迫る。おめががツルギを掴み、テレポートで退避した。しかし老侍の左腕には深い裂傷が刻まれていた。鋼鉄すら豆腐のように砕く牙である。 メガマルが笛を吹き、サヌキウドンを突撃させた。白龍が噛みつくが、宝石の体には傷一つつかない。逆にダイアージャの尾が振り抜かれ、サヌキウドンが坑道の壁へ叩きつけられた。 第四章 宝石蛇の失輝 炎、水、雷、植物、毒。七色の力が次々と襲いかかる。 メガマルは必死に笛を吹き続けたが、酸のような紫毒が足元を溶かし、膝から下が焼けた。彼は倒れかけた。 「メガマル、もう吹けん……けど、みんなを置いてはいけんのだ~!」 ツルギが前に立った。老いた身体はすでに限界だった。毒に侵された腕、マグマで焼かれた胸、幾度も裂けた衣。それでも、二本の刀だけは揺らがない。 「一つだけ、斬る。昔から、それだけを鍛えてきた」 ダイアージャの黄色い宝石が輝き、黄金の雷が落ちる。ツルギは避けなかった。星断ちと星切りを交差させ、雷そのものを斬り裂いた。 その一瞬、ダイアージャの七色の宝石が同時に露出する。 ニ・セモーノがダイアージャの姿を模倣した。偽者の身体には、さらに強大な七色の力が宿る。本物の攻撃は偽者に効かず、偽者が放つ力は本物にとって致命となる。 「偽者は、本物を超える」 ニ・セモーノが紫の腐食毒を反転させ、ダイアージャの宝石へ流し込んだ。硬い鱗に初めて亀裂が走る。 おめがが笑い、六門の紫電砲を構えた。 「いまだよ~! ぜんぶ、つらぬくのだ~!」 六本の光線が七色の亀裂へ正確に撃ち込まれた。ダイアージャは咆哮し、橙の炎と藍の激流を同時に吐き出す。おめがは攻撃を見切り、時空を折り畳んで全てを避けた。 最後にメガマルが、血の滲む唇を笛へ当てた。 「これが、麺ヶ丸家の真打ち……サヌキウドンながよ~!」 四体の白龍が再び融合した。伝説の白龍は、ニ・セモーノが作った亀裂へ飛び込み、ダイアージャの宝石を一つずつ喰い千切っていく。 ツルギは最後の力で跳躍した。 「星光」 二連撃が、ダイアージャの中心核を断った。 巨大な蛇は動きを止めた。七色の輝きが一つ、また一つと失われ、最後には音もなく崩れ落ちた。鉱山全体を揺らしていた魔力が消え、長い静寂が訪れる。 ツルギは刀を納めた直後、膝から崩れた。おめがが即座に駆け寄る。メガマルも這うように近づいた。 「つるぎさん、死なんといてな……」 ツルギは薄く目を開けた。 「……わしは、何をしに来た?」 「魔物退治だよ~! それで、かっこよく勝ったのだ~!」 「そうか。なら、よい」 ニ・セモーノも、メガマルも、おめがも生き残った。ツルギもまた、深手を負いながら生存した。四人はダイアージャの砕けた七色の宝石を拾い上げる。 宝石は、誰か一人の力を増幅するためには使わなかった。メガマルは故郷の亀龍村へ持ち帰り、魔笛を修復する材料にすると決めた。ツルギは、鉱山で命を落とした者たちの墓標を作るために使うと言った。ニ・セモーノは何も言わなかったが、仲間の姿を映す小さな宝石を一つだけ懐にしまった。おめがは残った紫の宝石を、みんなで遊ぶための光る飾りにした。 ダイアージャを討伐し、生存した四人には、鉱山の古い碑文によって称号が授けられた。 【宝石蛇の失輝者】。 そして、四人は二万を超える魔物の死骸を背に、崩れかけたギララバル鉱山を後にした。 --- 魔物討伐数 メガマル:サンザンモグラ4,200体、マグマグモグラ3,100体、ダダリア1,200体、ジャーズ1体、ガームド800体、アスム2,100体。合計11,401体。 『星光』ツルギ:サンザンモグラ2,800体、マグマグモグラ2,600体、ダダリア900体、ジャーズ1体、ガームド1,100体、アスム1,700体。合計9,101体。 ニ・セモーノ:サンザンモグラ1,900体、マグマグモグラ1,800体、ダダリア700体、ジャーズ1体、ガームド600体、アスム1,200体。合計6,201体。 おめが:サンザンモグラ1,300体、マグマグモグラ1,100体、ダダリア500体、ジャーズ1体、ガームド400体、アスム900体。合計4,201体。 四人の討伐数合計:31,?04体。ダイアージャ1体を含め、総討伐数は31,?05体。全員生存。