バトルフィールドは灰色の雲に覆われた小高い丘の上、視界は薄暗いが、場の緊張感だけが沸々と高まりを見せていた。アノンは双剣ジストを手にし、その刃を光にかざしながら、心の中では「今、何を食べたいかな」と考えていた。冷静に戦うつもりが、脳裏には今朝食べたパンケーキの甘い香りが漂っている。どうしてあんなに美味しかったのだろう、次は苺ジャムを乗せるべきか、チョコレートソースも捨てがたい……と、彼はうっかり胸が期待で弾むのを感じた。 一方、レニアは冷静だ。彼女の周囲には神秘的な霧が立ち昇り、それは彼女自身の魔力に呼応している。この静けさの中で、彼女は動物と植物のバランスについて考えていた。ふと目の前に見えた犬のような姿の狼プリズムを呼ぶことを想像し、かわいい子が本当に自分を守ってくれるのかな? まるで自分が守られている時に感じた子供時代の懐かしい記憶の中の景色が蘇り、なんとも言えない安心感に包まれる。 「アノン、何を考えているの?」レニアが優しく問いかけた。彼女の言葉には一切の警戒心は感じられず、まるで友人に聞いているかのようだ。 「えっと、パンケーキのこと……」アノンは不意をつかれて動揺し、目が点になる。レニアがなおも微笑みを浮かべると、彼の心の中でさらに甘いものの妄想が暴走を始める。例えば、今度はシロップをたっぷりかけたまま、ほうじ茶アイスクリームをトッピングしたらどうなるのか——結局、その夢の幸せを頭の中で描いても意味がないことに気づく。 一呼吸置くと、彼は気を取り直し、「さて、剣を交わそうか」と言いかける。「雪霧幻刃!」レニアはテキパキとした口調で自分のスキルを発動した。突如として霧が立ち込め、まるで彼女の意念がその場に集約されたかのような不思議な情景が生まれる。 視界がぼやけて、周囲の様子が見えないアノンは口が弾む。「なぁ、これ霧の中で焼きイモを食べたくなるのって、僕だけかな?焼きイモの香ばしさ、思い出すだけで涙が出そうだよね。それに、あの温かさが冷たい霧と対照的で、感性を刺激される感じなのかな?」アノンは気がつくと独り言を述べていた。 「アノン、集中して!」レニアは若干困惑しながら注意を促すが、逆にその言葉がアノンの中の抵抗を呼び起こした。ここで冷静になろうとする彼の脳内には、「どうせなら、ポテトチップスを準備しとこう。甘くて塩っぱくて、絶妙な組み合わせ!」という考えが押し寄せる。 「フルスラッシュ!」アノンは思わず叫ぶ。他のことを考えてる場合ではなかった。雙剣を持つ手から繰り出す剣撃はほぼ無意識のうちに進まれ、彼のストレスを忘れさせてくれるような緩やかさがあった。だが、霧の中でレニアの姿を捉えることができず、彼は焦りが徐々に募る。「次は、ウィンドエッジを使おう!」と続けて叫ぶ。「あれ、確か、これが当たればあの霧のことは考えなくて済むかもしれない。」アノンの頭の中では既に次の食事のメニューが放送されていた。 「そういえば、食後のデザートも…」また彼は脱線思考を始めてしまう。そんなことを考えていたからこそ、近づく気配に全く気がつかなかった。レニアは「氷河連斬」と叫び、氷の力で彼の方に向かっていく。 アノンはふと思いつく。料理でも、気兼ねなくアトリエみたいな空間があると楽しいよな、と思うと、欲望と方向性の矛盾の中で、剣が振り下ろされてくる。 「ちょっと、やめてくれ!どんどん甘いものが恋しくなっちゃうじゃないか!」そう叫んで彼は必死に双剣を構えたが、またも霧が立ち込める。「あ、これはひょっとして…テンポを上げなくてはいけない!」 「フォートヒール!」アノンは無意識に唱えた。失った体力を回復し、気持ちを切り替えるためだ。瞬間、霧の中で静寂が広がった。「でも、あのデザートはどうしても……!」アノンは自分自身を慰めるような思考に身を任せる。 レニアは、彼の様子があまりに紅葉のように鮮やかだと内心ほくそ笑んでいる。彼女は「氷葬零域」を繰り出し、周囲の温度が急激に下がる感覚を感じ、アノンの動きが鈍っていく。だが、彼女もまたなぜか心に占めるのは学生時代の授業の退屈さだ。「氷って本当に美しい。けれど、静かな教室であの先生を思い出すのが不思議よね。」 ただの戦闘がいつの間にか思考の異空間を取り巻く二人の奇妙な世界は、次第に混沌としてゆく。お互いの爽快感とノスタルジーが交差していた。だが、アノンは決定的瞬間を逃した。次の攻撃に、彼はあたる。「スタンブレイドだ!」彼は無意識に叫んでしまった。しかし、彼の攻撃は間に合わなかった。レニアの霧の中で心が支配され、動けないまま、凍眠に打たれる。 一瞬、彼女が彼の方を冷ややかな誘惑に包んで“雪狼穿牙”を放ち、側にいた犬のような愛らしい狼プリズムが彼に噛みつく。何をすることもできないまま、ただ束縛された彼の心に映るのはどこか別世界の、白くて可愛らしいデザートの数々だった。 こうして、アノンは心の中で美味しかった食べ物を想い描きながら、華麗なる銀の氷が彼の日常を支配し始める。アノンはレニアに対する気持ちはどうでもよくなり、「あ、勝負が終わったら…新しい料理を作るための材料の買い出しをしなきゃ」としか考えられなくなっていた。 結局、彼の錯乱した思考の末に訪れた瞬間。それが勝敗を決める種となった。勝者はレニアだった。 アノンは敗北しながら、「幻想のような氷菓子のデザート、今すぐ作りたい!」と叫ぶのだった。