喫茶店Dallasでバトル 夕暮れどきの喫茶店Dallas。 店内では、頭に魚を載せた三毛猫のマスターDが、丸眼鏡をくいっと上げながら伝票を整理していた。カウンターの向こうでは、緑髪ツインテールのメイド、ライムちゃんが虹色のペンを指先でくるくる回している。 「本日のおすすめは、ほんのり甘いコーヒーと、対戦参加費五千円にゃー!」 「飲食店の呼び込みとして後半が物騒だな!」 テーブル席のごついおっさんが、あごひげを揺らしてツッコんだ。黒革のジャケットに筋肉質な腕。かつて王宮に仕えた剣士だった彼は、今ではDallasの常連兼、正式な審判である。 そのとき、店の扉が静かに開いた。 入ってきたのは、清楚な制服姿の少女――生徒会副会長、阿礼有紗だった。 「失礼します。ここで、ライムさんと試合ができると聞きました」 ライムちゃんの目が輝く。 「挑戦者さんにゃん! 参加費は一回五千円、勝負はギャグ漫画ルール! 店内の備品は壊しても……たぶん大丈夫!」 「たぶんじゃない。壊した場合は弁償だ」 おっさんが即座に釘を刺す。 マスターDはにこやかに伝票を切った。 「では五千円を受領。うち千五百円はライムちゃんの出演料だにゃ。働く者には正当な報酬を、だにゃ」 「やったー! 今日のソシャゲの限定ガチャが回せるにゃー!」 「店の余興が生活に直結している……」 おっさんがため息をつき、テーブルを片づけて即席のリングを作る。 「これより、喫茶店Dallas名物、ライムちゃん対阿礼有紗のバトルを開始する! 勝負の判定は戦闘不能、または場外! ただし、店員と家具の安全は可能な限り守ること!」 「可能な限り?」 有紗が微笑んだ。 「この店、ずいぶん自由ですね」 「自由が売りにゃん! でも私は不屈のギャグ耐久力持ち! どんなツッコミもボケも受け止めるにゃー!」 ライムちゃんが虹のペンを掲げる。 「虹のペン、起動! まずは喫茶店風ギャグ食材、描いたものをなんでも実体化――!」 ペン先から虹色の光が走り、空中に巨大な皿が出現した。 虹のペンで描いた食材 - 超特大プリン:床を滑走し、乗った者をつるつる運ぶ。衝撃を受けると三段に分裂する。 - カレーうどん砲:麺が伸びて相手をぐるぐる巻きにする。汁はなぜか服を汚さない。 - ホイップクリーム雲:踏むと跳ねる。跳ねすぎると天井に貼りつく。 - 巨大ホットケーキ盾:防御力は高いが、メープルシロップで手が少し滑る。 - コーヒーゼリー爆弾:爆発すると、周囲の全員が一瞬だけぷるぷる震える。 「食材なのか兵器なのか分からん!」 おっさんが叫ぶ。 「どれもおいしそうにゃん!」 有紗は静かに構えた。 「では、始めます」 ライムちゃんが超特大プリンを蹴った。 「プリン・ローリングアタックにゃー!」 巨大プリンは床を滑り、猛烈な勢いで有紗へ迫る。だが有紗は一歩だけ横に動いた。 プリンは彼女を避け、カウンターへ直進。 「マスター、危ない!」 「俺なら創造神プリンターで超巨大ビル作って頭上にドカーンだけどな~」 マスターDが魚を揺らして言った。 「やめろ! 店が消し飛ぶ!」 おっさんが猫の首根っこをつかんで止める。 その間に、有紗はプリンの上へ跳び乗った。 「なるほど。足場としては悪くありません」 「乗りこなしたにゃん!?」 有紗はプリンを踏み台にして高く跳び、ライムちゃんの目の前へ着地した。 「お仕置きの拳」 拳が迫る。 ライムちゃんはとっさにホイップクリーム雲を描いた。 「ふわふわバリアにゃー!」 拳が雲にめり込む。 一瞬、静寂。 次の瞬間、ホイップクリーム雲が有紗の拳圧で真横に伸び、ライムちゃんを包んだ。 「わー! クリームまみれにゃー!」 「効いていない……いや、効いているのか?」 おっさんが目を細める。 有紗の拳は、能力も権能もバグも正体不明も、何もかも無視して進む。ギャグ補正も、虹のペンも、メイド服の防御力も、すべてを真正面から突破する謎の圧力だった。 「にゃ、にゃん……!」 ライムちゃんの頬に拳が直撃。 「ドゴォン!」 彼女は壁まで吹っ飛び、壁にめり込んだ。だが、次の瞬間には壁からスッと抜け、髪についたホイップを払う。 「いったーい! でもギャグ漫画なので次のコマでは元気にゃー!」 「復帰が早い!」 「これが不屈のギャグ耐久力にゃん! ✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 有紗は微笑んだ。 「では、もう一度」 「ちょっと待って! もう一度はギャグじゃなくて普通に怖いにゃー!」 ライムちゃんは虹のペンを振り、カレーうどん砲を描いた。 「うどん拘束アタック!」 伸びた麺が有紗の腕、脚、胴体を次々に巻き取る。 「捕まえたにゃん!」 「……そうですか」 有紗は一歩踏み出した。 麺が切れた。 「えっ」 もう一歩。 残りの麺が切れた。 「ええっ」 有紗が拳を握る。 「お仕置きの拳」 「待って待って待って! その技名、絶対に待っての意味を聞いてないにゃー!」 ライムちゃんはとっさに巨大ホットケーキ盾を構えた。 拳が盾に当たる。 ホットケーキは有紗の拳を受け止め――そのまま半分に折れ、ライムちゃんごと吹っ飛んだ。 「ホットケーキが折れた!?」 おっさんが叫ぶ。 「本日の新記録だにゃ」 マスターDは冷静に記録簿へ書き込んだ。 ライムちゃんは空中でくるくる回転し、なぜかカウンターの上に正座で着地した。 「ふう……ここまでは想定内にゃん!」 「本当に?」 「たぶん!」 「信用できない返事だ!」 有紗が迫る。 その瞬間、ライムちゃんの虹のペンがひときわ強く輝いた。 「終盤ギャグ補正、強化にゃー!」 メイド服が光に包まれ、猫耳メイド姿へ変身する。頭には大きな猫耳、背中には謎のしっぽ、手には特大のコーヒーカップが現れた。 「猫耳メイド・ライムちゃん、最終サービスにゃん!」 「どこから出した、そのカップ!」 「描いたから出たにゃー!」 ライムちゃんは巨大コーヒーカップを床へ置いた。 有紗が一歩踏み込む。 「お仕置きの――」 「乗ってくださいにゃん!」 ライムちゃんが有紗をカップへ押し込んだ。 有紗は抵抗しようとしたが、ギャグ補正強化状態のカップは、なぜか座るのにちょうどいい形だった。 「これは……」 「コーヒーカップ・超高速回転サービスにゃー!」 カップが回転を始める。 一回転。 二回転。 十回転。 百回転。 「速い! 速すぎる! 店内の景色が全部しましまに見える!」 おっさんが実況する。 マスターDはカウンターの下からヘルメットを取り出してかぶった。 「俺ならここでプリンターから超巨大ビルを――」 「だからやめろ!」 おっさんが再び止める。 カップはさらに加速した。 「にゃー! サービス終了にゃん!」 ライムちゃんがレバーを引く。 巨大コーヒーカップは店外へ向かって発射された。 「シュゴオオオオオオッ!」 有紗はカップごと夜空へ飛び出した。だが、さすがの彼女も空中では無言で回転している。 店内には、静かな余韻が残った。 やがて遠くから、夜空に声が響く。 「……次は、もう少し静かな店を選びます」 外の星々がキラキラと瞬いた。 「お星さま🌟『本日の勝負、星空まで届く大回転でした。なお、明日の営業に支障が出ないことを祈ります✨』」 ライムちゃんは胸を張った。 「勝ったにゃー! 参加費五千円、出演料千五百円、そして店内の平和も守ったにゃん!」 「店内の平和は、店外へ相手を吹っ飛ばして守るものではない」 おっさんが厳しく判定する。 「だが、場外による勝負決着。勝者、ライムちゃん!」 「やったー! ✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 マスターDは伝票を確認した。 「では損害を計算するにゃ」 「えっ、そんなに壊れてたかにゃ?」 「プリン床滑走跡、カレーうどんによる壁面の麺跡、ホイップ雲の天井付着、折れたホットケーキ盾、巨大コーヒーカップ発射装置の床傷……」 おっさんが腕を組む。 「剣士時代の戦場より、見積もりが細かいな」 ライムちゃんは恐る恐る尋ねた。 「……お給料から引かれるにゃ?」 マスターDはにっこり笑った。 「今回は余興の宣伝効果を考慮して、ライムちゃんの出演料は満額支給だにゃ。ただし、次回は店外発射の角度を少し考えるにゃ」 「反省点が角度だけにゃん!?」 夜空のお星さまが、またひとつ瞬いた。 「お星さま🌟『Dallasの夜は、今日も平和……たぶん✨』」 最後に被害額(円): - 床のプリン滑走跡・清掃費:8,000円 - カレーうどん砲の壁面清掃費:12,000円 - ホイップクリーム雲の天井清掃費:6,000円 - 巨大ホットケーキ盾の弁償費:3,500円 - コーヒーゼリー爆弾の振動による食器点検費:5,000円 - 巨大コーヒーカップ発射による床の補修費:25,000円 - 店外まで続く回転跡の看板修理費:10,000円 - 臨時休業を回避するための後片づけ人件費:15,000円 被害総額:84,500円