【混沌の市街地5kmレース:交通ルール厳守(?)デスマッチ】 ■開幕宣言と参加者紹介 青空が広がる一般道路。しかし、その空気は異様な緊張感と、それ以上の「狂気」に包まれていた。道路の両脇には、精鋭中の精鋭からなる警察部隊が、文字通り「所狭し」と整列している。彼らの眼光は鋭く、呼吸は完全に同期していた。彼らはもはや個ではなく、一つの巨大な捕縛機構である。 実況席では、ハイテンションすぎるお姉さんと、世界を諦めたような目をしたおっさんがマイクを握っていた。 「さあさあ始まりましたーッ!! 第1回・法と秩序の限界突破レース!! ルールは簡単! 5km先のゴールを目指してください! ただし、交通ルールを守ること! 違反した瞬間、あそこにいる最強の警察の方々に全力で捕縛されますよーッ!! ワッショイ!!」 「……ったく、どこのどいつが考えた企画だ。一般車が走ってんだぞ。血の海になるのが目に見えてるな」 【参加者・エントリー機体】 1. ステファニー - 機体:『究極の隠密ダンボール・プロトタイプ』 - 外見はただの宅配便の箱だが、内部には光学迷彩と消音装置が完備。運営が用意した「誰が見てもただのゴミに見える」高性能ステルス機体。本人は至って満足げに潜伏している。 2. マサダ博士 - 機体:『全自動・多目的快適移動式白衣ポッド』 - 浮遊する巨大な卵型のカプセル。四次元トランクを内蔵しており、中にはティーセットから対戦車ミサイル(防御用)まで何でも入っている。本人はどら焼きを食べている。 3. 阿古屋 - 機体:『超高出力・爆音アンプ搭載特製電動キックボード』 - 派手なネオンが光るキックボード。背中には巨大なスピーカーが積まれており、彼女の「歌」を増幅して周囲に撒き散らすための拡声装置が完備されている。 4. ユウ - 機体:『運営特製・超高速事務用回転椅子(エンジン付き)』 - 「なんでだよ!!」という絶叫が聞こえてきそうな、事務用椅子にV8エンジンを無理やり載せた monstrosity。ハンドルはなく、レバー一本で方向転換するという、制御不能の代名詞のような機体。 【警察側・監視者】 - 龍爾(りゅうじ): 高層ビルの屋上から、巨大な槍を構え、獲物が「赤信号を無視する」瞬間を待つ破壊の化身。 - 華燐(かりん): 道端で気だるげにガムを噛みながら、違反者の「人生設計」を書き換える契約書を準備する策士。 --- ■レース本編:カオス・オン・ザ・ロード 「レディー……ゴーッ!!」 号砲と共に、ユウの回転椅子が爆音を上げて飛び出した。あまりの加速にユウの顔面が風圧で歪む。 (待て!! なんで俺だけこんな椅子なんだよ!! しかもハンドルねーぞ!! 死ぬ!! 今ここで死ぬぞ!!) その後ろから、阿古屋が快活に笑いながらキックボードで猛追する。彼女はテンションが上がると止まらない。いきなりマイクを召喚し、絶唱し始めた。 「♪~走れー! 突き進めー! ゴールまでノンストップーー!!」 ドォォォォォン!! 凄まじい衝撃波が後方に放出され、路面のコンクリートが派手に砕け散る。同時にユウの回転椅子が衝撃でバク宙し、空中を舞った。 「ぎゃああああああ!!」 (この女、歌うな!! 絶対に歌うな!! 走行中に衝撃波出すな!! 道路法違反だろ!!) しかし、ここで警察の精鋭たちが動く。彼らは以心伝心で、砕けた路面の隙間を縫って、阿古屋を包囲するように展開した。彼らの動きは完璧なダンスのように調和している。 一方、ステファニーは「いない」。 文字通り、誰の目にも映らない。彼女はダンボールに入ったまま、一般車の影から影へと、音もなく、気配もなく移動していた。彼女の目的はただ一つ。先行する者の背後に忍び寄り、バックスタブを決めて脱落させること。彼女は密かにユウの椅子の背後に接近していた。 だが、そこに現れたのがマサダ博士である。 「おやおや、危ないですよ」 博士は四次元トランクから、『全方位・自動検知・超高性能ルンバ・ディテクタ』を取り出した。 「こんなこともあろうかと! このルンバは隠密状態の物体を強制的に可視化させますぞ!」 ルンバが高速回転しながらステファニーのダンボールを検知し、強烈なスポットライトを照射。ステファニーは人生で初めて「晒し上げ」に遭い、慌てて近くのキャビネット(なぜか道端に置いてあった)に飛び込んだ。 「あーっ! 博士、ずるい! 私の歌でルンバを壊していい!?」 阿古屋が再びマイクを構えたその時、信号が「赤」に変わった。 阿古屋は止まらなかった。彼女は自信満々に加速し、停止線を突破した。 その瞬間。 上空から赤い閃光が降り注いだ。龍爾である。 「見つけたぜ……ルールを舐め腐った獲物をな!!」 【落槍:天堕】 空から垂直に落下した巨大な槍が、阿古屋のキックボードのわずか数センチ横に突き刺さった。衝撃で地面がクレーター状に陥没し、阿古屋は衝撃波の反動で後方に吹き飛ばされる。 「ええっ!? 今の何!? びっくりしたぁー!!」 龍爾は獰猛な笑みを浮かべ、地面から跳ね上がると、そのまま阿古屋に向けて【破槍:破天】の構えに入る。一点集中、極限特化の一撃。当たれば消し飛ぶ。 だが、そこに割り込んだのは、黒いコートをなびかせた華燐だった。 「ちょお待ちなさい龍爾君! 壊したら捕縛できへんで。それに……この子、ええ才能してるわ。うちのビジネスプランにぴったりや」 華燐は、恐怖で固まっている阿古屋の前に、さらりと一枚の書面を提示した。 【能力活用型・音楽事業提携契約書】 1. 阿古屋の衝撃波を「建設現場の解体業」として転用する。 2. 1回につき報酬10万円。ただし、手数料として華燐が70%を徴収する。 3. 「歌が下手」という指摘を一切禁じる特約条項を設ける。 「……えっ? 私の歌が認められるの? しかもお金ももらえるの!?」 阿古屋の目に涙が浮かぶ。金に目がなく、承認欲求の強い彼女にとって、これは悪魔の誘惑だった。 「ほんまやで。あんたはただ歌ってればええねん。あとの面倒な手続きは全部うちがやってあげるわ」 「やる!! やるよ!!」 阿古屋が契約書にサインした瞬間、彼女の戦意は完全に喪失し、華燐によって「管理下」に置かれた。警察側としては、これで実質的な無力化完了である。一般警察たちが迅速に駆け寄り、彼女を丁寧に(しかし強固に)拘束した。 レースは後半戦へ。残るはユウ、マサダ博士、そしてどこかに潜んでいるステファニー。 ユウはなんとか回転椅子を制御し、必死にゴールへ向かっていた。 (もういい……もう全部いいから早く終わらせてくれ!! なんで俺だけ普通の人間なのにこんな目に!!) しかし、運命は残酷である。背後から忍び寄っていたステファニーが、ついにダンボールを脱ぎ捨て、ユウの椅子の背後に到達した。彼女の手に、冷徹な暗殺者の刃が光る。 (バックスタブ……完了) だが、その刃がユウの背中に届く直前。ユウの椅子から突然、巨大なパラソルが展開した。 「おっと! こんなこともあろうかと!」 いつの間にかユウの椅子に改造を施していたマサダ博士が、遠隔操作で『超耐衝撃・自動展開式・物理拒絶パラソル』を起動させたのだ。 「えっ!?」 ステファニーはパラソルに弾かれ、勢いよく前方の電柱に激突。気絶して転がった。 「あはは! 面白い機体ですねえ。では私はそろそろ、どら焼きを食べる時間ですので」 マサダ博士はポッドをUターンさせ、悠々とコース外へ消えていった(ゴールへの関心を失った)。 残されたのは、制御不能な回転椅子で、涙目で猛スピードで突き進むユウ一人だけだった。 「ゴォォォォォーーー!!!」 ユウは交通ルールを完璧に守った(守らざるを得なかった。龍爾が屋上から槍を構えて監視していたため)。彼は人生で最も恐ろしい5kmを走破し、ついにゴールラインを駆け抜けた。 --- ■レース終了後:結末 ゴール後、警察はルール通り、完走した参加者に干渉しなかった。ユウはゴール直後、椅子から転げ落ち、そのまま大の字になって空を眺めていた。 【最終順位と結末】 1位:ユウ - 結末:逃走成功(完走) - 感想: 「……二度と御免だ。漫画研究部に戻る。エムの奴に文句を言うぞ、絶対に」 2位:マサダ博士 - 結末:逃走成功(途中棄権に近いが、警察に捕まっていないため) - 感想: 「ふむ、若者のエネルギーは素晴らしいですね。さて、どら焼きを頂くとしましょう」 3位:ステファニー - 結末:捕縛 - 原因: パラソルによる自爆後、気絶しているところを一般警察に「不審なダンボールと共に」回収された。 - 感想: (……計算外だった。あの博士という男は、私の隠密を上回る『いい加減さ』を持っていた) 最下位:阿古屋 - 結末:捕縛(および華燐の奴隷契約締結) - 原因: 赤信号無視および道路破壊。その後、華燐の巧みな話術により自ら投降。 - 感想: 「えへへ、私の歌で世界を救う(解体する)んだぁ! 華燐さん大好きー!!」 【警察側の報告】 - 龍爾: 「チッ、最後の一人は地味すぎて刺し甲斐がなかったぜ。次はもっと暴れる奴を連れてこい」 - 華燐: 「あはは、ええ稼ぎ頭が見つかったわ。龍爾君、お疲れ様。打ち上げに最高級の肉でも食べに行かへん? もちろん、あんたの奢りでな!」 こうして、市街地は(物理的に)ボロボロになりながらも、レースは幕を閉じたのであった。