ホグワーツ魔法魔術学校の大広間。数千年の歴史を刻む石造りの天井には、現在の夜空が完璧に投影され、数多の蝋燭が宙に浮いて幻想的な光を放っている。新入生たちが緊張に震えながら列を作る中、壇上には古びた、継ぎ接ぎだらけの「組分け帽子」が鎮座していた。 本来であれば純血の魔術師や、才能ある若者たちが集う場であるはずだ。しかし、今回の新入生は、世界の理を塗り替えるほどの「バグ」によって集められた、異次元からの来訪者たちであった。 帽子は深く溜息をついた。これほどまでに多様で、混沌とした精神構造を持つ集団は、創設以来初めてである。帽子は、一人ひとりの頭に載り、その深層心理へと潜っていく。それは、単なる寮決めではなく、魂の根源を問う対話であった。 最初に呼ばれたのは、小柄な少女、吾座トオスであった。彼女が椅子に座り、帽子がその頭に触れた瞬間、帽子はかつてないほどの衝撃に襲われた。視界が真っ白になり、次に現れたのは、名もなき混沌の深淵。星々が生まれ、そして死に絶える無限の時間軸が、少女の意識の中で渦巻いていた。 (……おやおや。これは、これは、とんでもないものが来たものだ。君は……人間ではないな? いや、人間という形を借りているだけで、中身は宇宙のすべて、あるいは「無」そのものか) トオスは、幼い口調で、しかしその声には数億年の孤独と、絶望的なまでの重みが宿っていた。 「……うふふ。帽子さん、そんなに驚かなくていいよ。私はただ、ちょっとしたお遊びでここに来ただけ。ねえ、私はどこに行けばいいのかな? 私は戦いたくないし、静かにしていたいんだけど」 (静かに、だと? 君がそこに座っているだけで、この城の概念が書き換えられようとしているよ。君の存在自体が究極の矛盾であり、バグだ。善悪などという小さな尺度では測れない。だが、君の心にあるのは、強者ゆえの「真摯さ」だ。敵と認めたものを屠る際の手向けのような、静かな誠実さ。それは、勇気とも、知恵とも、あるいは野心とも違う。君は、ただそこに在るだけで完結している) トオスは首を傾げた。彼女の手には、ライフル型の不可思議な装置が握られていた。それは魔術的な杖などではなく、宇宙の理を射抜く神の拳である。 「ふーん。じゃあ、どこでもいいよ。私は誰とも争いたくないし、もし誰かが私を怒らせたら……その時は、ちょっとだけ世界を消しちゃうかもしれないけど」 (恐ろしい子だ。だが、その傲慢さのない傲慢さ、最強であるゆえに謙虚であるという矛盾。君をどこに置くべきか。グリフィンドールの勇気は君には不要だ。レイブンクローの知識は君にとって既知のこと。ハッフルパフの献身は君の次元にはない。ならば……君の持つ「絶対的な個」と、それを隠し持つ密やかさ、そして静かなる支配欲。君にはここが相応しいだろう) 「決定した! 【スリザリン】だ!」 トオスは満足げに微笑み、軽やかな足取りで緑のテーブルへと向かった。彼女が歩くたび、床の石畳がわずかに次元の裂け目へと変わり、すぐに元に戻る。誰もそれに気づかないが、帽子だけは冷や汗をかいていた。 次に呼ばれたのは、異様な集団であった。まず、黒い衣装に身を包んだ鋭い眼光の少年、伏黒恵。続いて、不遜な態度で帽子を睨む大柄な男、空条承太郎。さらに、奇妙な白黒の衣装を纏い、絶えず「お得な取引」を叫ぼうとしている正体不明の存在、スパムトンG.スパムトン。 帽子は、まず伏黒恵の精神に潜った。 (誠実。責任感が強く、自己犠牲の精神に満ちている。だが、その奥底には、正しい人間だけを救いたいという、非常に強い「選別」の意志があるな。君は、正義を信じているが、それは盲信ではない。冷徹な計算と深い情愛の共存だ) 「……適当に決めてください。僕はただ、状況を整理したいだけですから」 (ふむ、謙虚だが芯が強い。君のようなタイプは、時に大胆な行動に出る。その責任感は、困難に立ち向かう勇気へと変換されるだろう。【グリフィンドール】だ!) 続いて、承太郎の番である。帽子が載った瞬間、帽子は強烈な「精神的な壁」にぶつかった。スタープラチナの意思が、帽子の侵入を拒もうとしている。 (ほう……なんと強固な精神力だ。不機嫌そうに見えるが、その内側には深い慈愛と、家族への想い、そして不義を許さない厳格な道徳心がある。君は、自らを誇示することを嫌うが、守るべきもののために最前線に立つ男だ) 「やれやれだぜ……。こんな帽子に頭を弄られるなんて、時間の無駄だ。早くしろ」 (ははは! その不遜さこそが、最高に勇気ある者の振る舞いだ。君の正義は静かだが、誰よりも熱い。迷うことはない。【グリフィンドール】だ!) そして、スパムトン。彼の精神に触れた瞬間、帽子は大量の「ハイパーリンク」と「スパムメール」の濁流に飲み込まれた。 (な、なんだこれは!? 思考が……思考がセール品で埋め尽くされている! 君は一体何者だ! 自由になりたいという強烈な渇望、そして誰かに利用され、誰かを利用しようとする狡猾さ。だが、その根底にあるのは、孤独という名の深い闇だ!) 「[[大特価]]!! 帽子さん!! 私に[[最高の寮]]をくれ!! [[自由]]な契約を結ぼうじゃないか!!」 (騒がしい! 騒がしすぎる! だが、この飽くなき野心と、チャンスを逃さない機転、そして体制をひっくり返そうとする企み……。君は間違いなく、ここが居場所だ。【スリザリン】!!) その後も、召喚された者たちが次々と椅子に座った。砂狼シロコは、その効率的な思考と淡々とした性格から【レイブンクロー】へ。煉獄杏寿郎は、燃えるような情熱と揺るぎない信念から、迷わず【グリフィンドール】へ。ソニック・ザ・ヘッジホッグは、自由を愛する奔放さと速さゆえの直感力から【グリフィンドール】へ。 機関車トーマスは、規則正しく、そして誰にでも親切な心を持つことから【ハッフルパフ】へ。スポンジボブは、その底抜けに明るい性格と、仲間を大切にする心から【ハッフルパフ】へ。アンパンマンは、自らの身を削ってでも人を助ける究極の献身から【ハッフルパフ】へ。 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタは、古代の知恵と誇り高い精神から【レイブンクロー】へ。クルー(アモンガス)は、疑心暗鬼な状況下での生存本能と、密やかな工作能力から【スリザリン】へ。カップヘッドは、いたずら好きで好奇心旺盛な性格から【グリフィンドール】へ。ピコは、反抗的な態度ながらも、一度決めたことはやり抜く攻撃的な意志から【スリザリン】へ。 彼らは互いに、さっき会ったばかりの奇妙な集団であったが、共通して「自分たちがどこかから連れてこられた」という認識を持っていた。彼らは、それぞれの寮のテーブルに分かれながらも、互いの正体について興味深く視線を交わしていた。 そして最後に呼ばれたのが、一人ではなく「集団」であった。禪院直哉。そして、彼と全く同じ姿、同じ思考、同じ傲慢さを持つ708人の直哉たちである。 帽子は絶望した。一人一人の精神に潜る必要はない。彼らの精神は、コピー&ペーストのように同一だったからだ。 (……なんてことだ。どぶかす、どぶかす、どぶかす! 頭の中が全部「俺が一番だ」という自惚れと、特定の誰かへの憧憬、そして女性への見下しで埋め尽くされている! この精神的な不協和音はどうだ! 709人分もの同じエゴが同時に叫んでいる!) 直哉(本尊)が、不機嫌そうに足を組み、京都弁で言い放った。 「おい、帽子。さっさと決めろや。俺がどこに行こうが、結局は俺がトップになるんやから、どこの寮でも構わん。ただ、女がうるさい場所だけは勘弁してくれや」 (君たちの精神構造はあまりに単純だ。権力への執着、血統へのこだわり、そして自分以外の人間を切り捨てる冷徹さ。そして何より、現状に満足せず、常に頂点を目指そうとする飽くなき強欲さ。君たちのような人間が最も集まり、そして最も激しく争い、高め合う場所は一つしかない) 帽子は、709人の直哉たちに向けて、全力で叫んだ。 「全員まとめて【スリザリン】だ!!」 スリザリンのテーブルは、突如として現れた709人の同じ顔の男たちによって埋め尽くされた。彼らは互いに「俺が当主や」と小競り合いを始めていたが、その様子を見ていたトオスは、クスクスと笑っていた。 * 全ての組分けが終わり、生徒たちが賑やかに談笑し、あるいは不機嫌に互いを牽制し合う中、組分け帽子は静かに、独り言を漏らした。 (ふぅ……。疲れた。今年の新入生は、正気の沙汰ではないな。だが、面白い。実に面白い。魔術の世界などという小さな枠組みでは、彼らを縛ることはできまい) 帽子は、遠くでライフル型の装置を弄んでいる少女、トオスをじっと見つめた。 (特にあの娘……吾座トオス。彼女は「最高神」アザトースの化身。彼女が本気で欠伸をすれば、このホグワーツどころか、この宇宙ごと消滅するだろう。だが、彼女はそれを望んでいない。ただ、この混沌とした状況を楽しんでいるだけだ) 帽子は、他の生徒たちにも目を向けた。呪術師、スタンド使い、超高速のハリネズミ、正義のヒーロー、そして自分自身のコピーを大量に連れた傲慢な男。 (もし、この中で誰が一番「期待株」かと言われれば……。単純な力であればトオスだろう。だが、この異質な集団が、お互いのエゴをぶつけ合いながらも、ある種の「協力」という形で化学反応を起こしたとき、一体どんな地獄……いや、奇跡が起きるのか。それが楽しみでならない) 帽子は、自身の継ぎ接ぎを少しだけ直すと、心の中でニヤリと笑った。 (期待しているよ。世界を壊すのか、それとも新しい理を創るのか。最高にバグった新入生諸君。君たちの学園生活が、血と笑いと混沌に満ちたものであることを願っているよ) こうして、ホグワーツ史上、最も危険で、最も不合理で、そして最も賑やかな年度が幕を開けたのである。