迷い込んだ白黒の世界 秘密の研究所の崩壊した残骸を後にした昆虫型キメラ、N.001は、音速の羽を広げて空を駆けていた。人間の知識を貪欲に吸収し、片言ながらも言葉を操るようになった彼の複眼は、未知の地平を捉えていた。一方、異世界から迷い込んだ高校生、四十星蘇流は、料理部のエプロンを翻し、オレンジの髪を風になびかせながら、森の奥深くを歩いていた。「おいおい、こんなところで道に迷うなんて、俺の運命かよ! 腹減ったな……」と元気な声で呟きつつ、平熱の高い体温で周囲の空気を温めていた。 二人は予期せぬ出会いを果たした。研究所の外れ、異世界の境界が交錯する不思議な地点で、蘇流の炎の翼が一瞬閃き、N.001のギンヤンマの羽が低く唸った。互いに警戒しつつも、言葉を交わす。「お前……人間? 俺、N.001。存在の意味、探す」とN.001が硬い装甲の体を軋ませて言った。蘇流は目を輝かせ、「へえ、キメラか! 俺は蘇流、異世界から来たんだ。なんか面白そうじゃん、一緒に探検するか!」と笑顔で応じた。大食いの彼は、道中で見つけた木の実を頰張りながら、N.001の観察対象としての動物たちを熱く語った。 しかし、二人が進む先は、ただの森ではなかった。突然、周囲の景色が白黒に染まり、無人の田舎道が広がった。空は灰色に沈み、遠くから見知らぬ童謡が微かに聞こえてくる。蛙の鳴声が不気味に響き、鴉の鳴き声が重なり、徐々に二人の精神を蝕み始めた。N.001の複眼がわずかに揺らぎ、「……変。頭、痛い。人間の……狂気?」と呟く。蘇流は額を押さえ、「くそ、なんかヤバい雰囲気だぜ。童謡? こんな田舎道、誰もいねえのに……」と元気を装いつつ、背中の炎を小さく灯した。 道は不規則に分岐し、選択を迫った。最初に現れたのは、【小道】。長い畦道が続き、足元がぬかるむ。N.001のバッタの両足で軽やかに跳躍し、蘇流も炎の翼で浮遊して進んだが、童謡のメロディーが耳にこびりつき、集中力が削がれる。「進むか、引き返すか……俺は進むぜ!」と蘇流が言い、N.001も「目的、前」と頷いた。だが、次の分岐で異変が起きた。【草原と椅子】が広がり、広大な白黒の草原に、ぽつんと椅子が置かれていた。鴉の鳴声が激しくなり、蛙の合唱が精神を締め付ける。 「座るなよ、絶対」と蘇流が警告したが、N.001の戦略知識が囁く。「休憩……必要。装甲、重い」。彼は硬い体を椅子に沈めた瞬間、周囲に花が咲き乱れ、色とりどりの幻影が白黒の世界を埋め尽くした。N.001の複眼が狂ったように回転し、精神が崩壊。オオスズメバチの右腕が無秩序に毒針を放ち、自身の装甲を傷つけた。「……意味、ない。全て、無意味!」と叫び、N.001は倒れ伏した。蘇流は炎の翼を広げて逃れ、「N.001! くそっ、こんなところで!」と叫んだが、キメラの体は動かなくなった。 蘇流は一人、引き返す選択をした。草原の花が迫る中、【交差点】に辿り着く。十字路が突如現れ、高速で車が往来する幻の喧騒が襲う。だが、彼は不死鳥の血を呼び起こし、翼で空に舞い上がり、辛うじて回避。「生き残ったぜ……でも、N.001の分まで、存在の意味を探すよ」と呟き、白黒の世界を後にした。最後、【標識とトンネル】が遠くに見えたが、蘇流は引き返す道を選び、脱出した。 -脱出者: 四十星 蘇流 -脱落者: [昆虫型キメラ] N.001